第二十二話 必至
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遮るもののなくなった
東の大道では、カフィニッシュの防衛線に、ガーナから出撃してきたシヴァの主力が到達していた。
キーフォルスが、範囲通信で指示を出していく。
「いいか、重要なのは押し切られないことだ。こちらの指示通りに、遠巻きに動け。
その隣には、オーリガが立っていた。ゴルデンの裏切りは既に基地内で周知されている。キーフォルスが実質的な司令官になることも、その新たな右腕のことも、異論を挟む者はいなかった。
オーリガが、低い声で告げる。
「キーフォルス。地上の戦車部隊と、基地からの砲撃は俺が指揮しよう」
「頼む。本当に、お前が来てくれてよかった。しかし、ここの設備で守れるか?」
オーリガが、硬く膨れた肩をすくめる。
「なんでも使いようだ。ま、かわいい
「よし。来たぞ、敵影だ。
「ははあ。偽装レグルスというわけか」
キーフォルスがにやりと笑った。
「そうだ。敵は、この主戦場に、レグルスが一機もいないとは夢にも思って今いまい」
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この日は、自らシヴァの準エース機であるエンタリスに騎乗しており、視界スクリーンにカフィニッシュ基地を収めると、味方機へ範囲通信を入れた。
「よし、トレーラーに積んだ
そこへ部下から通信が入った。
「例のレグルス二機はあそこにいるのでしょうか」
「恐らくな。西の小勢など、奴らにしてみればいかにでも防ぎようがあるだろう。それよりも、主戦場と化すこちらに配されているはずだ。会ってみたいものだな。機体の性能差など、この数であれば関係ないわ」
カルコークは、既に切れ者としてシヴァで名を馳せている。
彼の妥当な判断を逆手に取らんとしたのは、キーフォルスとザクセンの賭けだった。
そして――
「司令官、敵がビームを放ってきました! 二発ですが、共に被弾なし!」
「色は?」
「紫です!」
「やはりな。多少腕が立つとは聞いたが、この距離で当てられるものか。思い上がりに、鉄槌をくれてやろう。いいかお前たち、これは勝ち戦だ。手柄に早って、無駄死にするなよ。
—―彼らは、賭けに勝った。
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対して、カフィニッシュでは。
「見ろ、オーリガ。どうやら敵さん、こちらに凄腕の最新鋭機がいると思い込んでくれたぞ。これでしばらく、急戦にはならん」
「数に任せて攻め込まれれば、こちらにはなす術がないのにな」
「奴らは、これを勝ち戦だと思っている。勝てるのに誰も死にたくないさ、どうしても腰が引ける。そして奴らの頭には、カフィニッシュ奪取の後、マルチマイルの奪還から、ワーズワース陥落までが計算されているはずだ」
「ま、オールデリ基地長がのこのこ出てきてるんだからな。シヴァ軍だって、容易に手引きしてもらえるものだと思うだろう」
「ああ。だから、損耗が大きくなる戦い方はできない。目の前にぶら下がっている武勲が大きいほど、小知恵の回る男というのはそれを無傷で手に入れたくなるものだ。これでいい戦いになりそうだ」
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しばしあって、西路。
ついに、レグルス率いる空の部隊がガーナ基地を前方に見定めた。だが、いまだに迎撃の気配がない。
アーリアルが思わず通信を入れた。近距離であれば妨害電波の影響は弱い。
「ザックス、ガーナ基地ってなんだか無防備じゃないか!?」
「妨害電波のおかげで、気づかれてないんだね」
「普通怪しむだろうに」
「彼らは、基地長二人の裏切りが露見しているとは思っていないから、西は一方的に勝てると思いこんでいる。妨害電波は、味方がカフィニッシュを攪乱するために張っているとでも思っているんだよ」
この時のアーリアルたちにそれを確かめる術はなかったが、ザクセンのこの推察は当たっていた。
「アーリー、皆、向こうがまるで戦闘態勢にないのなら、ここで小競り合いをする必要はない! このままVターンして、東の大道へ向かう! そして――」
ザクセンとアーリアルの声が一致した。
「東の敵を挟撃する!」
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