第二十三話 戦況転変


 カフィニッシュ基地は善戦していた。


 しかし、レグルスの幻影も、さすがに手の内が割れてきている。


 キーフォルスは、劣勢になりつつある右辺へ指示を飛ばした。


準エース機ルックバルッツを二機とも右へ! そうだ、もう姿をさらして構わん! 隠れながら戦い続けられる、状況ではない」


 地上では、シヴァ軍から、制圧を得意とする接近戦用機体ハルディバン人型量産機ツェネルケヌビィの混成軍が、カフィニッシュへ向けて歩を進めていた。こちらは、オーリガ指揮による砲撃で牽制を続けていたが、戦闘機体ゾディアクスなしで戦闘機体ゾディアクスを制するのは、原則としてほぼ不可能である。


 オーリガは砲撃部隊用のコンソールから、キーフォルスのいる中央作戦室へ通信を入れた。


「キーフォルス、地上にも少し増援を回せるか!」


「いや、空で手一杯だ。なんとかしてくれ」


「了解した。砲撃、敵機体の足元へ集中させろ。足を撃っても倒せんから当てるな、地面をえぐり、機動力を削げ。飛んだら直撃させろ、一撃で撃墜はできずとも、押し返すくらいはできる!」


 シヴァ機は当初の六十機のうち、三機ほどが堕とされていた。対して、カフィニッシュはすでに四機が堕とされ、被弾した機体も多い。レグルス二機を含めた七機を西に出しているため、もとより不利だった機体数の差は、さらに開こうとしていた。


 ともすれば混乱しそうになる前線を、キーフォルスがその度に引き締めていた。


「中央散らばりすぎるな、三機は少なくとも連動しろ! アルトゥルトとロレンシは、イルビナッシをカバーしろ。左辺、砲火は単発でなく集中させろ!」


 その様子をモニターで見ていたオーリガは、誰にともなく呟いた。


「ふん。昔から泥仕合ばかりだな、俺たちは」


 そこへ、右手にいた砲撃手が報告を入れる。


「オーリガ殿、中央陸路より接近戦用機体ハルディバン三機来ます!」


「抜かれたか。全砲、目標、当該の接近戦用機体ハルディバン。足元、撃てッ」


「だ、だめです。左右にかわされて……ああっ!」


 三機の接近戦用機体ハルディバンは、ついにカフィニッシュの防衛線を突破した。正面にはキーフォルスが陣取っている、中央作戦室がある。


「キーフォルス、そこから撤退しろ! 援護する。まだこちらに戦力はある」


 オーリガが通信機に叫んだのと同時に、先頭の接近戦用機体ハルディバンが、腰の後ろからバトルアックスを抜いた。


「キーフォルス! 何をしている! 逃げろ!」


「逃げんさ。勝ったからな」


「何?」


 その時、ビームの着弾音が、続けて三度轟いた。


 オーリガはモニターを凝視した。三機の接近戦用機体ハルディバンの胸に、風穴が空いている。そして、破壊されたエンジンのフロウ光子フォトンが制御を失い、爆発した。


 カフィニッシュ基地の屋根が一部、溶けていた。ビームが飛びすさった跡だろう。


 オーリガが、何が起きたかを悟り、「来たか!」と叫ぶ。


 カルコークは、膠着状態のために次第に強まってきていた焦りの中で、さらに強く動揺せざるを得なかった。


 ようやくカフィニッシュの防衛線の一角を破り、前線近くまで出ていた己の準エース機エンタリスの中で、快哉を叫びかけたところだったのだが。


「なんだ、三機やられた!? 後ろからだと!? ――やつらか! 白と黒のレグルス!」


 一方、シヴァ主力部隊の後背をついにとらえたアーリアルらは、当たらざるべき勢いでカルコーク部隊に食らいついていく。


「ザックス、行くぞ! 撃ちながら切り込む!」


「了解した。数で劣る以上、撃ち合いは不利だ。まずは僕とアーリーが敵のADオートディフェンサーが役に立たない距離まで寄って、接近戦で倒す。不可変戦闘機アレルシュカ五機は一撃離脱を繰り返してください!」


 いずれもザクセンより年上の不可変戦闘機アレルシュカパイロット五人は、少年の指示に対して一様に


「了解!」


 と答えた。


 妨害電波を発したまま会戦したため、ガーナ基地がこの状況を把握するまでには、もう少しかかるはずだった。


 ザクセンはこの急襲のために、戦闘力では他に劣るが機動力でレグルスに次ぐ不可変戦闘機アレルシュカだけで味方部隊を構成していた。そのことにアーリアルが気づいたのは、二人の基地長を捕らえた後にザクセンが急いで飛び立った時だった。正確には、意識の端ではなんとなく察していたのだが、言語化できたのがそのタイミングだった。


「私は、ただ戦えば勝てるだけか……。凄いな、ザックスは」


 だからこそ、ここで後れを取るわけにはいかない。


 牽制のために放ったBBシュータームスペルヘイムの実弾を、カルコーク隊の人型量産機ツェネルケヌビイADオートディフェンサーでかわす。そこを、急接近したレグルススノウの手の甲から出た、アームナイフが襲った。赤いビーム刃がコックピットに叩き込まれる。


「三機目! さっきのを入れても、まだ三機!」


 アーリアルが、もどかしく吐き捨てた。

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