第二十一話 西路の背信者
二機の
ゴルデン、オールデリの二人の基地長は、先行したとはいえ陸路を行くトレーラーなので、すぐに追いつける。
「ザックス、確認だけど。二人とも撃ったらまずいんだよね?」
「そうだね。基地長二人と示し合わせているガーナの舞台は、この西側には十機ほどしか向かわせていない。彼らは合流したらそのまま基地長二人を収容し、その足でカフィニッシュに攻めてくるんだろう。東はもともと僕たちが劣勢なんだ。これで、東西両方からカフィニッシュを陥落させるのが向こうの大綱のはずだ」
「じゃあ、そろそろ妨害電波を出した方がいいんだな」
「話が早いなあ、ほんとに」
そこへ、同行している
「妨害電波ですか? しかし、我々も基地と連絡が取れなくなりますが……」
ザクセンが答える。
「よし、ここらで大筋をすり合わせておこう。まず妨害電波で自他ともに索敵能力を落とした上で、僕たちは基地長二人を捕獲する。単なるトレーラーの荷駄隊だ、護衛に着いた戦闘機もあるようだけど、基地長らに抱き込まれているとしてもこれは戦力的に問題にならないだろう。それからトレーラーを自動走行で進ませ、敵の西側部隊十機と邂逅したところでこれを殲滅する。これは、最大限速やかに終わらせる必要がある」
さらにザクセンが続ける。
「それが済んだら、一気に北上してガーナ基地を急襲するんだ。ただしこれはそうやすやすとはいかないだろうから、一撃を加えるだけでいい。それから、大急ぎで東の大道を南下する。おそらく、キーフォルス中尉と、もしかしたらオーリガ氏も加わって、基地の残存兵力でガーナの主軍の猛攻に耐えてくれているはずだ」
「あっ、挟撃ということですか!」
アーリアルが、妨害電波の出力設定を終え、通信に交じった。
「タイミングと敵の力量を見誤れば、挟み撃ちを受けるのは私たちだ。戦には負けてもいいけど、命は大事だから、成功させよう」
■
ほどなくして、十台の高速トレーラーで西の陸路を走っていた二人の基地長は、異変に気づいた。
二人は、先頭を走る別々の二台のステアリングを自ら握り、暴走同然の速度で走っている。
オールデリがゴルデンへ通信を入れた。
「お、おい、ゴルデン基地長。妨害電波が出ているようだぞ。我々の裏切りが感づかれたのではないのか」
「ばかな……早すぎる。まるで――」
予見されていたかのように。
「ゴルデン基地長、護衛で連れてきている戦闘機十機を後ろへ向かわせよう。上空全機、反転して敵を討て!」
そう言ったオールデリも、時間稼ぎにしかならないことは理解していたが。
ほどなくして、連続した爆音が空に響いた。
「ご、ゴルデン基地長、きたあ!」
どの道、トレーラーで
上空からの威嚇射撃が前方の路上に撃ち込まれ、トレーラー部隊は動きを止めた。
その傍らに、七機の
ザクセンがスピーカーで言い放つ。
「ゴルデン基地長、それにオールデリ基地長――ワーズワースではお世話になりましたのに、残念です――、その他一党を拘束させていただきます。それでは小官どもは、あなたがたを迎えに来る敵機をせん滅して参ります」
手足の自由を奪ったゴルデンら一党はひとまず森の木に縛りつけ、あとで収容することにする。
五人の
ザクセンが、
「あれを先行させ、敵が接収に動いたところを集中攻撃する。各員、隠密せよ」
その時、ゴルデンがアーリアルのレグルス
「調子に乗るなよ、小娘! 単騎での武力で戦況を左右する時代など、終わるのだ!」
その声をレグルスは拾える。アーリアルはコックピットの中で、ゴルデンへ向けて首を巡らせた。
ゴルデンがさらに
「小知恵の回る小僧はともかく、お前などただの猪武者に過ぎんだろう。私に縄をかけたことを後悔する日が来るぞ」
ザクセンが、
「アーリー、無視して」
と
「ゴルデン基地長がレグルスに乗っても私に勝てないのに、なぜ勝った方みたいにものを言うんだ」
「歴史をなめるな、小娘! 歴史には流れがある、個の武勇が勝敗を決する時代は必ず終わるのだ。お前は歴史の流れに逆行することばかりしている。それでは多くの者から
「歴史の流れ……? 歴史って、人の意志と営みが積み重なるものだろう。流れなんてものがあるなら、寝ててもいいんだ。誰も苦労しない」
「それがあるのだ! シヴァの先進思想が、古風な一神教にとらわれたサントクレセイダの人々の多くを改心させた。それが気に入らずに、サントクレセイダはシヴァにたてつき、無数の小競り合いののちにこの大戦が始まった。サントクレセイダは歴史の流れに逆行しているのだ、この流れには誰も逆らえん! 従えば栄え、逆らえば死ぬ! 我々はそれを――」
「黙れッ!」
「何が流れだ、逆らえば死ぬだ。なら私の姉さんを殺したのは、その流れか。そんなもので、人死には正当化されてたまるかッ! シヴァがサントクレセイダを切り崩そうとしなければこの戦争はなかった、その理由が誰でもなく流れだって!? そんなことを言うのは、脳のない死体だ!」
「だから、お前のような小娘にはそれが見えな――」
「お前の話は誰も救わず、誰も聞いていない! 一生流れていろッ!」
今にも射撃しそうなアーリアルの様子に、ザクセンがようやく割って入り、
「熱くなるんじゃあない、アーリー。さあ、そろそろ敵機の迎撃にいい頃合いだ。行こう。彼らと違って、僕たちは忙しい」
そうたしなめて、行軍は再会した。高速トレーラーとはいえ、陸路を行く車には
妨害電波に紛れて進むと、やがて視界スクリーンの遠目に、十機のシヴァ機が確認できた。機体の識別まではできないが、十機とも人型らしい。
アーリアルがザクセンへ、指向性通信を入れる。近距離ならば、妨害電波の中でもやり取りはできた。
「スクリーンで視認されても、向こうは私たちを、基地長たちの護衛機だと思うかな」
「露見した時は、彼らを撃ち落としている時だね。――奴らがトレーラー目がけて降りてきた、今だ!」
降り立つ場所が分かり切っている機体は、二人の天才にとって、止まっている的に等しかった。やや距離はあったが、
ザクセンが、
「
通常なら運任せに近い遠距離でレグルス二機が直撃させたのは、シヴァ機が油断して
状況が把握できないまま、それでも勇敢に反撃してきたシヴァ機二機が、まずレグルスに撃墜された。次に、戸惑って動きを鈍らせていたシヴァ機がさらに二機、上空の
残りの四機は逃げようとして、身をひるがえした時に、二機がレグルスのビームで大破する。
残った二機のうち、一機を
「こんな……十機からなる敵の
ザクセンが答える。
「今のは、敵が混乱したまま単純極まりない機動を見せたからだよ。まともな指揮官が一人いれば、僕たちだってこうはいかない。本当に、基地長たちを迎え入れることだけ考えて、油断しきっていたんだね」
そして、レグルスは両機とも戦闘機形態に変形した。
「さあ、アーリー、皆、行くよ! ここからは時間との勝負だ、最大速度で飛ばせ!」
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