第二十話  二路迎撃戦 (カフィニッシュ対ガーナ)


「発進準備」とキーフォルスの声がアナウンスで響く。


「アーリアル機、レグルスはスノウ。準備よろしです」


「ザクセン機、レグルスオニキス、配置つきました」


 時計は朝の七時を指している。


 すでに、シヴァのガーナ基地からの出撃状況は、カフィニッシュでも把握されていた。


 ガーナとカフィニッシュは、それぞれ大森林地帯の只中で、北と南に位置する。その間には、東側と西側に一本ずつ、太い道路が走っていた。道路の間には巨大な森が横たわっていて、その幅は百km近い。これを同時に進行する敵軍隊が、カフィニッシュへ向けて南下してきている。


 東側が主軍のようで、戦闘機体ゾディアクスを積んだトレーラーと、哨戒中の航空機が、多数確認されている。西側はサブの舞台らしく、東の道路と同じく南下してきている部隊はいるものの、その数は東のよりかなり少数だった。


「キーフォルス中尉」と、コックピットの中のアーリアルが、指令室に通信を送った。


「なんだ、アーリー。集中しなさい」


「東西それぞれの数は分かったんですか? 正確なの」


「ああ。敵は戦闘機体ゾディアクスが、東が六十機、西が十機ほどのようだ。旧型の戦闘機が東は二十、西は五。地上部隊は戦車の類はおらん、ほとんどトレーラーだな。無駄な燃料を戦闘機体ゾディアクスが使わんよう、スタンバイ状態で我々との接触まで運搬するのだろうな」


「あれ? ところで、あのうるさい基地長は?」


 コックピット内のスクリーンには、ゴルデンの恰幅のいい姿が見えない。


「ああ、それがだな。出撃するそうだ」


「出撃!? 基地長が!?」


 アーリアルの声がひっくり返った。


「そうだ。それもオールデリ基地長と一緒に」


「ワーズワースの!? 一緒に!? なぜ!?」


「二人とも、兵卒ばかり前線に出すのが気がとがめるのだとさ。我々の制止を振り切って、もうスタンバイしている。輜重隊しちょうたいをかって出てくれるそうで、武器弾薬や燃料を積んだトレーラーのステアリングを、自ら握っておられる。いきなり言い出していきなり出ていった。ちなみに、西の大道だ」


「……主力戦は東になるんじゃないのか? 西の物資を手厚くしたって」


「昨日ならともかく、このタイミングなので、理を説いてお止めするいとまもなかった。おかげで、話が進む。戦闘中にあぶりだすよりはいい」


 通信を通して堂々とそう述べるキーフォルスに、基地のコントロールルームがやや騒然とした。


「あぶりだす? キーフォルス中尉、私が知らないところで、何が起きている?」


窮余きゅうよにして、必勝の策だ。これしかない」


 そしてキーフォルスは、アーリアルではなく基地全体へ通信を打った。


「これから、作戦を発表する。私は、ゴルデン基地長に変わって本基地の指揮権を委ねられた、キーフォルス中尉である。『全戦力を東へ向けて敵主力を粉砕する』という、昨日までに通達していた作戦は現時刻を持って破棄。以降、私の命令に従って作戦を順行する」


「中尉!」


 話を打ち切られて不満の声を上げるアーリアルに、ザクセンが通信を入れてきた。


「アーリー、これで勝ち目が出てきた」


「ザックスも腹に一物を!」


「いいやアーリー、すでに君は勘づいている。ただ言語化していないだけだ。納得が必要なら、自分で言葉にするんだ。戦うために」


「今何が起きているのかを? ……物資を積んだ基地長が二人、主戦場じゃない道を敵の方へ向かっている。私たちに利するところがあると考えるのは困難だ」


「つまり」


「裏切者!? じゃあ、トーキン少佐を殺したのはあいつら! 犯人探しに乗り出さなかったのも道理なのか、基地長が二人して!」


「いつからかは分からないけど、示し合わせていたんだね。こちらの作戦情報と物資は、手土産というわけだろう。内偵は僕と、キーフォルス中尉直属の兵士がしていた。彼らの亡命に確信を持ったのは昨日だ。これはキーフォルス中尉にしか言っていない」


「ザックスも中尉も、私にだけ内緒で!」


「だって昨夜言ってたら、アーリーはあの二人につかみかかっていたろう」


「機銃掃射をしている!」


「だからさ!」


 そうしている間にも着々と、キーフォルスによる配置と進軍内容の変更は進んでいた。


 仕上げとばかりに、キーフォルスはアーリアルとザクセンに通信を入れる。


「よし二人とも、出番だ。レグルスはスノウオニキスとも、不可変戦闘機アレルシュカ五機を連れて西の大道を行け」


 アーリアルがおとがいを跳ね上げた。


「西ですって!? 敵主力は東を来るのに!? それもレグルス二機とも!」


 そこへザクセンが割り込む。


「アーリアル。君には分かるはずだ。今の指示を聞いただけで、作戦の全容が。僕と中尉で練ったものだからね」


「それでも、全体しか見えないじゃないか」


 キーフォルスが、それを聞いて目を見張る。


 ザクセンが、自機を出撃用カタパルトへ低速移動させながら、


「アーリー。君は、戦場の中でどんどん成長していっている。戦場で僕の思考を理解できるのは君だけで、君を満足させる戦いができるのは僕だけだ。だから行こう」


「特別扱いして、ごまかすのが、私のコントロールの仕方だと思っていないだろうな!」


 苦笑するザクセンに続いて、アーリアルもカタパルトに着いた。


 しかし、先に「出撃!」と叫んだのも、飛び立ったのも、アーリアルが先だった。


 キーフォルスがザクセンへ通信を入れる。


「君たちは、実に独特だな」


群体ぐんたいの中では弱点です。皆さんも、死なないように」


 二人で微笑しあった後、ザクセンもまた出撃した。

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