第二十話 二路迎撃戦 (カフィニッシュ対ガーナ)
■
「発進準備」とキーフォルスの声がアナウンスで響く。
「アーリアル機、レグルスは
「ザクセン機、レグルス
時計は朝の七時を指している。
すでに、シヴァのガーナ基地からの出撃状況は、カフィニッシュでも把握されていた。
ガーナとカフィニッシュは、それぞれ大森林地帯の只中で、北と南に位置する。その間には、東側と西側に一本ずつ、太い道路が走っていた。道路の間には巨大な森が横たわっていて、その幅は百km近い。これを同時に進行する敵軍隊が、カフィニッシュへ向けて南下してきている。
東側が主軍のようで、
「キーフォルス中尉」と、コックピットの中のアーリアルが、指令室に通信を送った。
「なんだ、アーリー。集中しなさい」
「東西それぞれの数は分かったんですか? 正確なの」
「ああ。敵は
「あれ? ところで、あのうるさい基地長は?」
コックピット内のスクリーンには、ゴルデンの恰幅のいい姿が見えない。
「ああ、それがだな。出撃するそうだ」
「出撃!? 基地長が!?」
アーリアルの声がひっくり返った。
「そうだ。それもオールデリ基地長と一緒に」
「ワーズワースの!? 一緒に!? なぜ!?」
「二人とも、兵卒ばかり前線に出すのが気がとがめるのだとさ。我々の制止を振り切って、もうスタンバイしている。
「……主力戦は東になるんじゃないのか? 西の物資を手厚くしたって」
「昨日ならともかく、このタイミングなので、理を説いてお止めする
通信を通して堂々とそう述べるキーフォルスに、基地のコントロールルームがやや騒然とした。
「あぶりだす? キーフォルス中尉、私が知らないところで、何が起きている?」
「
そしてキーフォルスは、アーリアルではなく基地全体へ通信を打った。
「これから、作戦を発表する。私は、ゴルデン基地長に変わって本基地の指揮権を委ねられた、キーフォルス中尉である。『全戦力を東へ向けて敵主力を粉砕する』という、昨日までに通達していた作戦は現時刻を持って破棄。以降、私の命令に従って作戦を順行する」
「中尉!」
話を打ち切られて不満の声を上げるアーリアルに、ザクセンが通信を入れてきた。
「アーリー、これで勝ち目が出てきた」
「ザックスも腹に一物を!」
「いいやアーリー、すでに君は勘づいている。ただ言語化していないだけだ。納得が必要なら、自分で言葉にするんだ。戦うために」
「今何が起きているのかを? ……物資を積んだ基地長が二人、主戦場じゃない道を敵の方へ向かっている。私たちに利するところがあると考えるのは困難だ」
「つまり」
「裏切者!? じゃあ、トーキン少佐を殺したのはあいつら! 犯人探しに乗り出さなかったのも道理なのか、基地長が二人して!」
「いつからかは分からないけど、示し合わせていたんだね。こちらの作戦情報と物資は、手土産というわけだろう。内偵は僕と、キーフォルス中尉直属の兵士がしていた。彼らの亡命に確信を持ったのは昨日だ。これはキーフォルス中尉にしか言っていない」
「ザックスも中尉も、私にだけ内緒で!」
「だって昨夜言ってたら、アーリーはあの二人につかみかかっていたろう」
「機銃掃射をしている!」
「だからさ!」
そうしている間にも着々と、キーフォルスによる配置と進軍内容の変更は進んでいた。
仕上げとばかりに、キーフォルスはアーリアルとザクセンに通信を入れる。
「よし二人とも、出番だ。レグルスは
アーリアルがおとがいを跳ね上げた。
「西ですって!? 敵主力は東を来るのに!? それもレグルス二機とも!」
そこへザクセンが割り込む。
「アーリアル。君には分かるはずだ。今の指示を聞いただけで、作戦の全容が。僕と中尉で練ったものだからね」
「それでも、全体しか見えないじゃないか」
キーフォルスが、それを聞いて目を見張る。
ザクセンが、自機を出撃用カタパルトへ低速移動させながら、
「アーリー。君は、戦場の中でどんどん成長していっている。戦場で僕の思考を理解できるのは君だけで、君を満足させる戦いができるのは僕だけだ。だから行こう」
「特別扱いして、ごまかすのが、私のコントロールの仕方だと思っていないだろうな!」
苦笑するザクセンに続いて、アーリアルもカタパルトに着いた。
しかし、先に「出撃!」と叫んだのも、飛び立ったのも、アーリアルが先だった。
キーフォルスがザクセンへ通信を入れる。
「君たちは、実に独特だな」
「
二人で微笑しあった後、ザクセンもまた出撃した。
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