第六話 森の中の襲撃と挟撃
■
アーリアルは、鼓動で跳ね上がりそうになる胸を、努めて静めていた。
また敵を撃つ。恐らくは人が死ぬ。
空にあって、高揚しているうちはいい。地上に降りてから、どんな気分になるだろう。
初陣の後、軍事務所のザクセンを訪ねたのは、帰投してから徐々に迫ってきた恐怖から逃れたかったのもあったからだ。
罪悪感に飲み込まれるのは恐ろしい。しかし、そうならないのは、更に恐ろしい。
自分は、何かひどい間違いを犯しているのではないだろうか。その不安を
アーリアルは、既に気付いている。この基地には自分よりも経験を積んだパイロットはいても、才能で、己を含む新人二人を上回る者はいない。
ザクセンがワーズワース基地にいてくれたのは、アーリアルにとって他に代えがたい
事実、初陣の夜のアーリアルは、いつもよりも浅く短かったが、何とか問題ない程度の睡眠がとれた。これはザクセンのお陰だと、朝の毛布の中のアーリアルは素直に認めた。
「――だからって、ザックスがいなければ飛べないわけでも、勝てないわけでもないけれど!」
「うわっ!? アーリー、何だい、今のは!?」
アーリアルが入れっぱなしにしていた指向性通信が、ザックスに届いてしまった。
「何でもないっ! さあ、私たち二機と、味方五機で、敵を挟み込んだよ! 散開される前に落とそう!」
「ああ、あの敵はまごついてる。パイロットが、移動と射撃を同時にできないんだ。アーリー、ミサイルだ! ミサイルマーカーなしでもいい!」
アーリアルは返事をする代わりに、レグルスの腰の左右に二発ずつ、計四発搭載されているマイクロミサイルの発射ボタンを押した。同時に、ザクセンの黒いレグルスもそれを放つ。
ザクセンが、地上へ通信を送った。
「キーフォルス中尉、一斉攻撃を!」
「分かった。
キーフォルスの指示よりわずかに早く、アーリアルのミサイルがシヴァ機の群れを通り過ぎ、――一発も命中せずに――森林に着弾した。
それに続いて、サントクレセイダの
アーリアルら二機のレグルスも、右手の
通常ならそれらは、シヴァ機のオートディフェンサーの
さらに、ザクセンが先に放ったマイクロミサイルはやや低速で飛んだ後、シヴァ機の群れの真ん中辺りで自爆した。破片が
アーリアルが「固まり過ぎなんだ、援護もなしで! 装甲の分厚い奴が、薄い奴を守りもしないんだから!」と叫ぶ。戦い方がまずいのは、彼女にとって、敵であっても面白くない。
シヴァの十機は、なすすべもなく、全て大破した。
そのうちアーリアルが三機、ザクセンが四機を落としている。新人の戦果に、キーフォルスは思わず唸ってから、上空へ通信を入れた。
「よし、よくやった。あとは任せて、全隊戻れ」
しかしアーリアルが、
「待ってください、中尉。これで戻るんですか?」
「そうだ。これ以上やることがあるのか」
「私たちは、カフィニッシュ基地へ救援に向かっているんですよね。そして、それを邪魔する敵を墜としました。たぶん、マルチマイルの敵防衛部隊の一部ですよね」
「そうだろうな」
「飛行機になれる
「……何だと? どういうことだ?」
そこへ、ザクセンが通信に割って入った。
「キーフォルス中尉、アーリーが言いたいのはこうです。このワーズワース隊を二隊に分けます。機動力のある
うんうん、とアーリアルが肯定する声を通信に乗せてくる。
「アーリー、ザックス、君たちは本気か。このまま継戦だと?」
アーリアルが勢い込んだ声で言ってくる。
「今が、今だけがチャンスじゃないですか」
何のだ、と訊くキーフォルスに、またもザクセンが注釈を入れた。
「今僕たちは、敵から奇襲を受けました。思っていたよりもこちらの動きは向こうに知られています。時間を置けば置くほど、態勢を立て直して有利になるのは、マルチマイルの制空権を握っているシヴァの方です。それに対して今なら、僕たちが敵へ奇襲できます。貴重な好機です!」
「君たち……」
絶句しかけながらもキーフォルスは、二人の新人の進言を頭の中で反芻していた。乱暴に見えるが、一理ある。
「……分かった。採用しよう。全員聞け! 本隊は、カフィニッシュへ急行するA隊と、後追いするB隊に分ける。A隊はあくまでマルチマイルの突破を優先し、敵と遭遇しても必要以上に交戦しないように。全機、ビームのエネルギーとミサイルを再装填して、出来次第発進だ」
A隊は、二機のレグルスと、先の戦いに参加しなかった三機の
装備の再充填を終えると、戦闘機形態に変形したレグルスは、再び空へ飛び上がった。
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