第26話 話し合い
「お前……俺の幼馴染に告白をして一度振られてるだろ」
屋上から立ち去る際に俺は、颯夜………いや、四馬にそう言い放つ。あれは去年のクリスマス、告白を手伝って欲しいと四馬から頼まれた俺は、二人がくっつけばあいつは……美月姫は俺の事を諦めてくれると思っていた。
美月姫は長い銀髪が凄く綺麗で、他の男がほっとかないんじゃないかと思うぐらいに端麗な顔をしている。
そして美月姫と四馬は同じ学級委員に入っていた。
委員会が同じだった事もあり、教室で良く二人は楽しそうに話していたっけ。
そしたら三人の幼馴染から「寂しい?」って冗談めかしに言われたが、俺はそれに対して否定した。
元々幼馴染の事をうざいと思っていた俺は、二人が付き合おうと付き合わないだろうと、どうでも良いと感じていた。
そんな時、クリスマスの日が近付いて来ると、クラスメイト達がそわそわしだした。
俺の高校で流行っているのだが、クリスマスの日、右手首に赤のミサンガを身に着け大きなクリスマスツリーの前で好きな人に告白をすると、両想いになれるという言い伝えがある。
実際にそれで付き合えた先輩が居て、この噂を広めたのは先輩達なのかも知れない。
別に俺はその噂を信じてはなかったが、もしそれが本当なら詩に告白をするつもりだった。
だけど、彼女は隣のクラスでいつも挨拶程度しか交わした事がない相手だ。詩もかなり男子から人気があって、俺なんか絶対に相手にされる筈もなかった。
遠くで眺めているだけの存在で、話し掛けようと何度もしたが、いつも彼女の周りには友達が居て話し掛けるタイミングが掴めない。
そんな時、友達であって一番の親友だった四馬が俺に告白を手伝って欲しいと、自分の胸の前で手を擦り合わせ頼んできた。
四馬もその噂を信じていたのか、右手首に赤いミサンガを身に着けていたような気がする。それから俺はクリスマスの日、美月姫だけを誘うつもりだったのだが、結局他の三人にもバレてしまって……。
他の三人は「ライバルが一人減るなら、私達も協力する」と、言い出した。結局クリスマスは四人の幼馴染と四馬と俺の計六人で過ごす事になって、美月姫には上手い事誤魔化し、四馬と二人っきりにする事に成功。
きっと上手くいくと、俺の中では思っていたのだが……。
『ごめん、四馬君も知ってるかも知れないけど……。私、好きな人が居るの。その人の事が好きだから四馬君とは付き合えない……ごめんなさい』
意外だった。あの美月姫が……いつもツンデレな美月姫が、告白をやんわりとした態度で断っていたから。俺の前ではいつもツンツンしてるくせに……時々デレを見せたりするあいつが、申し訳無さそうに四馬の告白を断っていた。
「……あの時の事か。そうだな、ハッキリと言われたよ……。好きな人がお前なんじゃないかって何となく気付いていたが……」
去年の事を思い出してるのか、沈痛な面持ちで空を見上げている。空には飛行機雲がはっきりと残っていた。
天候が良い今日は屋上でお弁当を食べるのも、有りかも知れない。
「胡桃さんと仲良くなりたかったんだ……それでお前と友達になれば彼女を紹介してもらえるんじゃないかと……。だけどさ、呆気なく胡桃さんから振られて落ち込んで居る時でもお前は俺を元気付けてくれて……。本気で友達になろうとしたお前と、好きな子に近づく為にお前と友達になった俺……。利用してたようなもんだよな」
四馬は空から目線を俺に移すと、真剣な表情で続きを話し出す。
「だからあの日、彼女だと言ってるお前の四人の事も利用した。俺なんて相手にしてもらえなかったのに対し、お前は四人の幼馴染が居ながらも、華月さんとまで仲良くなっているし無性に腹が立って、隣のクラスにネタとして、その事を話すつもりだった」
「つまりお前は……四馬はあそこまで噂を大きくするつもりじゃなかったって事か?」
「……そういう事になる……」
こんなの言い訳にしか聞こえない。今更こんな事を話されても何を信じたら良いのか分からない。
それに新聞部に頼んだとか言っていたが、何を口外したのだろうか。
クラスメイト達が、意味分からない事を言っていたのも気になる。頑張れとか応援するとか……。
変な噂を広げるのだけは、これ以上止めてほしい。
「お前って本当バカだよな」
「は?」
自分でもびっくりだ。この状況でそんな言葉が俺の口から出てきた。本当はこいつを責めるつもりでいたのだが、前みたいに仲良くなりたいのか、こいつを責める行動に出なかった事に少し驚く。
「確かに俺の事もそうだが、一番ムカついたのはあいつ等四人の事も利用した事だ」
「……」
「お前は巻き込まれるのが嫌とか言っていたが、本当は俺があいつ等と付き合っていない事ぐらい知ってたんじゃないか? 知ってた上でお前は自分から離れていき、美月姫の気を引こうと思った。美月姫はお前と仲良かったからな」
「……急だが、胡桃さんの気持ちに応えてあげてほしい」
「は? お前、今の立場分かってそれ言ってるのか?」
「あぁ、分かってるつもりだ。他の三人からも好かれてるみたいだけど、本当に嫌ならハッキリ言うべきだと思う。お前、今も華月さんの事が好きなんだろ?」
四馬から図星を突かれ、俺の顔がみるみる赤くなっていく。この状況でそんな話をされたら、何も言えなくなるじゃんか!
「い、今はその話してないだろ!」
「へぇ……。俺には散々過去の話をさせといてか?」
「うぐっ……」
そういうと四馬はにぃっと、歯を見せてニヤついてきた。こうしていると、前の関係に戻ったかのようだ。
「俺は今でも胡桃さんが好きだ」
「え……?」
「え? じゃないだろ? お前だって華月さんの事が好きじゃないか」
「だ、だから今は詩は関係ない!」
「呼び捨てまでする仲になったのか。俺だって胡桃さんが許してくれるなら、美月姫って呼んでみたいんだけどなぁ……」
四馬は意地悪っぽく俺にそう言うと、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
さっきまで重苦しい空気だったのが、今では場が明るくなった気がする。
今までモヤモヤしてた気持ちを全てこいつに……四馬にぶつけたからだろうか。
「あ、朝礼」
「あ……」
「初めてサボったわ」
「俺は何回もサボってたけどな。俺が四股してるというデマのせいで」
「怒ってる……?」
「当たり前だろ! 大体お前のせいでもあるじゃないか。俺なんかに嫉妬してさ」
「は? べ、別に嫉妬じゃねーよ」
「じゃあ美月姫にバラすぞ。四馬が今でも美月姫の事――」
「あーあー! 何も聞こえないなー」
「耳元で叫ぶな! 耳がキンキンする……」
「じゃあ、前みたいに颯夜って呼んでくれよ」
「は?」
「今度は本気でお前と友達……いや、親友になりたいからさ……」
「四……颯夜……」
ガチャ。
「あ、二人共こんな所に居た」
「え、詩!?」
「良かったな。好きな子のお迎えだぞ」
「わーわー! は、早く教室に行かないか! 無性に勉強がしたくなって今やばい状態なんだ」
意味の分からない台詞を吐き捨て、俺は屋上から出ようとする。そんな俺に対して、二人は目を瞠っていた。
詩が屋上に来た事で少し焦ってしまったようだ。颯夜との会話は聞かれてはないと思うが、このまま此処に居たらいつこいつから、俺が詩に好意を寄せている事をバラされるか分からない。
そしてこの後、俺と颯夜は二人揃って担任教師である、氷室昌克先生から怒られる事になる。
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