第27話 誰から攻略する?

 颯夜と話し合ってから数週間後――。あの話が解決なのかは分からないが、クラスメイトの様子がおかしかった理由が判明。


「どういう事だよ!」

「まぁまぁ、落ち着け」

「これが落ち着いていられるかよ!」


 俺は昼休み、一人で新聞部の部室に乗り込むと、たまたま居合わせた颯夜に怒鳴り散らした。

 俺が台をどんっと掌で叩くと、部室に居たメガネを掛けた男女二名が、俺の顔を見てビクビクと肩を震わせている。リボンとネクタイの色からして、一年だろう。

 それに、こっちは怒りたくて部室に入った訳じゃない。四股を掛けてるという噂は無くなったが、別の新な噂が広まってしまったせいで、俺をで見る人が増えてしまったからだ。


「でもさ、四股掛けてる噂よりかは良くないか?」

「いや、もうそっちの方が断然良い! 何なんだよ! 昔、彼女達をナンパから助けた事があった? そしたらお礼に俺の彼女役……つまり、彼女として接する事になった……だと?」


 今までずっと我慢してきたせいか、俺は頭に血が上っていた。颯夜も流石にやばいと思ったのか、部室からとんずらしようとしていたが、制服の裾を掴んだ。


「待て待て! は、話を……」

「問答無用!」

「あ、俺その四字熟語好きだわ」

「それはどうも……って誤魔化すな!」


 ここが新聞部の部室だと言うことを忘れて、俺達が二人でぎゃあぎゃあ騒いでいると部室に幼馴染がやって来た。


「……私を置いて楽しそうにしてる……」


 やばい、雨衣だ。部室の入口で立ち尽くしているのは、幼馴染の一人、おう。彼女はメンヘラだけあって男女関係なく嫉妬する。

 デレデレな紫乃も面倒くさいが、雨衣の方も面倒くさい。メンヘラ女子を攻略するには……。


「私とデートしよ」

「は? 今それ所じゃ……」

「やっぱりそうなんだね……。私なんかよりも、その人の事がなんだね」


 は?


「みぃ君はね、カッコいいだけじゃなくて誰にでも優しいよね。だから男子からもモテてる。今朝も男子から話し掛けられて居たし」


 待て待て待て! 俺が男からモテてるだと? 冗談でもそれだけは勘弁だ! ここはBLの世界じゃないんだぞ! の世界だ!


 「だからね、私考えたの。どうしたらみぃ君のになれるか」


 雨衣の言葉が少しだけ怖かった。雨衣が言ったとは、俺がゴールデンウィークの日に言ったあの宣言の事を言ってるのだろう。

 確かにこの一年間で俺を惚れさせたら、という条件を出した。

 でもあれは四股してるという噂を取り消してもらうための条件に過ぎない。

 だが今の状況は、颯夜が余計な事をしてくれたせいで、あの条件は無くなり幼馴染達が俺を惚れさせる為のしか残っていない。


「ほら、桜花さんが来てる事だし待たせたら悪いだろ? 俺は野球部の先輩から呼ばれてるから、ここでとんずらさせてもらう!」

「は? あ、おいっ! 逃げるな!」


 颯夜は俺から逃げるように颯爽と雨衣を突っ切り、部室から廊下へと瞬間移動したかのように飛び出して行った。

 流石野球部ってとこだろう。朝練で毎日走らされてるからなのか、足が速いのは当たり前なのか、壁際に消えて見えなくなってしまった。


「四馬君……の為に気を遣ってくれたんだね。後でお礼を言わないと」


 颯夜が部室から居なくなったのを、雨衣は誤解している。あいつが部室から消えたのは、こいつのせいだろ! やっぱりあいつ……面倒事に巻き込まれたくないだけじゃないのか? 本当に親友なのか疑いたくなる。


「それで、みぃ君。今から私とデートしてくれる?」

「は? 後10分したら休憩終わるんだけど」

「じゃあ、放課後……私の家に来ない?」

「雨衣の家にか?」

「うん」

「いや……それは……」

「来てくれないと、私明日にはもうこの世に居ないかも……」

「あー、分かった分かった! 行けば良いんだろ!」

「ありがとう、みぃ君!」


 そう言って雨衣は俺に抱き着くと、いきなりすんすんと鼻を鳴らした。


「えへへ……。みぃ君の匂いだ」


 雨衣の笑顔を見た瞬間、俺の脈がとくんと高鳴った気がした。昔は何とも感じなかった幼馴染が、俺の知らない間にどんどん綺麗になっていって……。

 間近で見ると結構かわ……。


「みぃ君? どうかしたの?」

「え? はっ! 俺は一体何を……」


 雨衣から話し掛けられ、現実に戻された俺は雨衣を自分から引き離した。

 これ以上密着されたら俺の心臓が破裂しそうだ。こないだからおかしい。何なんだ、この感情は!

 俺が一緒に居てどきどきするのは詩だけで、幼馴染は幼馴染のままだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 それに……攻略は既に始まっている。雨衣がこの部室に入った時には右端に好感度ゲージが現れていた。

 雨衣を……メンヘラを攻略する時が来たようだ。


「雨衣……お前を攻略してみせる!」

「え? いきなりどうしたの……?」


 しまった!!

 つい、頭で考えていた事が言葉として出てきたようだ。言ってしまったものを取り消す事は出来ないが、このまま何も喋らないのは逆に怪しまれる。

 どうしたものかと考えていると、壁際に寄りかかっていたメガネ女子が話し掛けて来た。


「あの……先輩? 大変言いにくい事なのですが……。そろそろ部室から出て行って貰えませんか?」

「え?」

「私達まだお仕事が残ってますので、イチャつくのなら他でやってください」


 新聞部の部室から追い出された俺と雨衣は、扉の前で二人横に並んだ。一年のくせに先輩の扱い雑じゃないか? そう思ったがあのまま部室に居ても、新聞部の仕事の邪魔になるだけだ。

 それに俺と雨衣がイチャついてるって思われたのが何よりも気に食わない。あの一年に言われた事がよほど嬉しいのか、雨衣はさっきから顔をニヤつかせている。雨衣の攻略はこれから考えるとして、先ずは安全に嫌われる方法がないか考えよう。

 一方的に嫌われるにしても、策を練るとこから始めなければ、この後の攻略に詰まってしまう。俺から避ける事も出来るが、それだとメンヘラの雨衣からしたら自●しろという意味に捉えるだろう。

 俺の選択次第で雨衣の行動パターンが決まるなら、これからの攻略は慎重に考える必要があるという訳だ。顎に手を当てながら考えていると、雨衣から声を掛けられた。


「悩みでもあるの? さっきからみぃ君ずっと黙ってるし、何だか難しい顔してた」

「え? あ……あー、悩みって言ったら悩みだけど……」


 お前だよ、お前! これ以上束縛されるのはごめんだ! 出来れば学校の中ではあまり絡んで欲しくないんだよ!


 その言葉が口から出る事はなく、誰も居ない廊下を

俺はじっと見ていた。


「「「居た!」」」


 「居た」という声で前方を見ると、他の三人の幼馴染がこちらに向かって歩いてきていた。

 そして……攻略対象が一人ではなく四人も居る事が問題だ。後から来た三人の頭上を目を凝らして見ると、好感度MAX。

 俺、四人から溺愛されすぎてるのでは?

 逆に俺も自称してみるのはどうだろうか。……なんて考えは直ぐに吹っ飛ぶ。


「雨衣、抜け駆けは良くないわよ?」


 攻略対象ツンデレ……。いつもツンツンしているように見えて、たまに見せるデレが男子の間で人気らしい。


「くーちゃんのになるのは私だから、三人は私に譲るべき!」


 攻略対象デレデレ……。好きな人にはデレしか見せないが、普段から元気キャラである彼女は、女子と男子から人気急上昇中。


「じゃあ、一人ずつ消していくゲームでもしない? きっと楽しいよ? ふふふ」


 攻略対象ヤンデレ……。好きな人が手に入るなら手段を選ばない。そして何よりも言い方が怖いが、彼女の中身を知らない男子は彩葉の事を狙ってる人続出。


「みぃ君は誰を選ぶ? 私、みぃ君になら全てを捧げても良いよ?」


攻略対象メンヘラ……。どんな時も自分中心に動いていて、思い通りにならなければ自分を傷付けようとする。


「「「「さあ、選んで!」」」」


 四人の幼馴染からいつものように迫られ、選択肢からも迫られる……。時間を巻き戻せるなら、幼馴染と出会わない選択肢もあったのではないだろうか。そして俺は誰から攻略をするか今ここで決める。俺の初恋を実らせるために!




――俺が選ぶのは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る