第14話 いとこ

「えーっと、その人は?」


 大切な人って詩は言っていたけど、彼氏とかじゃない事を願いたい!


の名前はきりさき。私のいとこ。」

「え? 彼女? いとこ?」

「覚えてない? 私のいとこがアクション映画が好きって話したと思うんだけど」


 思い出そうと頭を捻るが、どんなに考えてもそんな会話をした事すら思い出せない。

 多分俺にとって、いとことかどうでも良かったのだろう。

 そして今、詩はこの一年をと言った。

 だけどそれは多分俺の聞き間違いだ。に聞こえてしまっただけだろう。

 一人でうんうんと納得をしていると黒髪の学ラン服に身を包んだ生徒が、俺の事をじっと見て来た。


「廊下で僕を押し倒した人ですよね?」

「え、押し倒した!?」


 何を言い出すのかと思いきや、この一年は誰が聞いても勘違いするような発言を堂々と口にした。

 なんて言ったら絶対に詩から誤解されるじゃないか!


「湊君、由真を押し倒して何をする気だったの?」

「ち、違うから! 俺はそんな事しないって!」

は凄かった」

「ちょっと待て。霧崎だっけ? 君も勘違いするような発言は控えてくれ!」


 ファーストフード店から出て、俺達三人はバス停へと向かっている。

 あのままファーストフード店でずっとあんな話をされたら周囲の人達から注目を浴びる事になり兼ねない。

 詩にベッタリなこの男子は俺の事を監視してるのか、じっと見てきて気まずい。


「えーっと、詩の大切な人ってこの一年だったんだな! ちょっとびっくりしたよ」


場が持たない俺は適当に話を逸し、霧崎から目を背けた。


「うん! みたいで可愛いんだよね!」

「妹……?」



「一応、聞いても良いかな?」

「良いよ!」

「この一年って、だろ? 何で妹呼びなんだ?」

「は?」


 暫く大人しかった黒髪男子? が、詩から離れ俺に近付いてきた。


「僕、女ですけど」

「……は?」


 いやいやいや!!!

 学ラン着てるじゃないか!!

 どっからどう見ても男子生徒だろ!


「ははは……。冗談は良そうか? いくらなんでも女って……」

「信じられないなら証拠見せますよ? 女にはあって男にないもの」

「あ、信じます……」


この先を聞いてはいけない気がした俺は、信じる事にする。


「じゃあさ、何で男子の制服を着てるんだ?先生は霧崎が女って事知ってるんだよな?」

「知ってますよ。当たり前な事聞かないでくれます?」


 こいつ一年のくせにムカつく!!

 俺の妹がこの一年じゃなくて良かったなんて思ってしまったぞ!


「取り敢えず、女と言うことは分かった。それで……」

「まだ何か?」

「いや、女子の制服は着ないのかなぁと……」

「は? 変態ですか? そんなに女子の制服がお好きなら、貴方が着てみてもいいのでは? 僕だって女ですけど学ラン着てますし」


 今までクールを装っていた彼女だが、にっと笑って見せる。

言ってる意味が分からないんだけど!!

詩に助けを求めようとすると……。


「二人が仲良くなってくれてよかった!」

「「どこがだよ!」」


 声までハモった。

 女子のくせに学ラン服を着てる一年。

 ボーイッシュな見た目で学ラン服を着られたら、それはもう男子と勘違いをするじゃないか……。

 だけど、女と知った事で俺は安心感を抱いていた。


         ◇


 次の日の朝、玲夢と一緒に学校に向かっていると幼馴染達がバス停に集まっていた。


「「「「「あ」」」」」


 俺と幼馴染達の声がハモる。

 いつも早い時間に出てるから、この時間に幼馴染達がバス停に居るはずがない。

 そして一人だけ幼馴染が足りない事に気付いた。


「今日は間に合ったわね」

「いつも私達、くーちゃんから置いて行かれるしね」

「良かった。彼女を置いていくなんて酷いけど、今日はこれで許してあげる」


 何でお前らはそんな堂々としてるんだよ!

 後、彩葉はどうした!


「兄ぃ、彩葉さん居ないね」


 玲夢が俺に耳打ちをして来た。

 多分俺の感情を読み取ったのだろう。


「もしかして、ヤンデレ攻略出来たの?」

「いや、多分まだだと思う」

「どうして?」

「俺への好感度が0じゃないから」

「あはは……。でも彩葉さんが学校を休むのって珍しくない? いつもなら四人一緒なのに」

「あぁ……」


 理由は分からないけど、やっぱり昨日の俺の発言が良くなかったのか?

 まぁ、これで俺を諦めてくれるなら良いか。


『ヤンデレが簡単に好きな人を諦めるとは、僕は到底思いません』


 カイさんの言葉を思い出す。

 確かに彩葉が俺を嫌いになるには、簡単と言うか……。

 いや、今はそんな事どうでもいい。

 残りはこの三人のうち誰を攻略するかだ。

 好感度は全回復してしまったけど、好感度を下げて……。


「あ、彩葉やっと来た」

「……え?」


 美月姫に言われ後ろを振り返ってみた。

 そこには休みかと思っていた彼女が、にこりと微笑み立っている。


「おはよう、みっ君♡」


 え?

 好感度Lv2だと?

 何かレベルが上がってるんだが!!?


「兄ぃ、どうかしたの?」

「ははは……。もう何がなんだか……」

「それじゃあ、皆で仲良く行こうね?」


 その時、一瞬だけ彩葉のスクールバッグからナイフみたいなのが見えた気がした。

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