第19話 彼女はクーデレだった
「ストーカーの正体はお前かよ!」
「え、霧崎さん?」
スクールバッグを肩に掛けた男子高校生……じゃなく女子高生が、ポーカーフェイスを維持したまま俺の事をガン見していた。
「あー、やっぱり久遠さんのお兄さんだったんですね」
「やっぱりってなんだよ、やっぱりって!」
「お取り込み中悪いんだけど、二人って仲良いの?」
「「良くない!」」
「い、息ピッタリだね……」
幼馴染達かと思いきや、まさかの詩のいとこで一驚した。ずっと四人の幼馴染の誰かが俺の後を付けてるかと思っていたが……。
「何で俺の後をつけてたんだ?」
「……」
「言えない事なのか?」
「……す」
「は?」
「嫉妬です」
「「……」」
「は? 嫉妬?」
「今まで詩が男子の話をした事なんて一度もなかったのに、先輩と同じクラスになった途端、湊君湊君って毎晩言うんです」
「え……?」
「詩を奪った人がどんな人なのか、もしかしたら裏があるんじゃないか? その男から拉致されるのでは? と、每日先輩の事をずっと調べていました。あの日、イ○ンモールに行った時もずっと後をつけていたのですが、先輩の足が速くて見失ってしまいましたけど」
そう言うと霧崎は悔しそうな表情で、顔を少し赤らめ俺の事を睨んだ。
「ずっと後をつけられてた気はしていたが……だからって……」
「仕方ないじゃないですか。先輩の周りにはいつもあの自称彼女達が居るんですから」
自称彼女? 俺、いつ、こいつに話したっけ? 詩から聞いたのか?
「彼女でもない人達から勝手に彼氏にされちゃう湊先輩。僕ならその手助けが出来ます」
「は? 何が言いたいんだよ」
「鈍そうな先輩には教えてあげます。カイと言えば分かりますか? 匿名さん」
「え……? カイ……さん?」
カイさんと言えば、俺が幼馴染達の事で相談をした相手だ。
だが、カイさんが俺の目の前に居る筈はない。そんな偶然あるのか?
まだ信じてはいないが、一応霧崎の話を聞いてみる。
「あの質問を送ったのは湊先輩ですよね?」
「な、何でそれを……」
「分かりますよ。あの質問者の内容と先輩の行動、合致します」
そう言うと霧崎はポーカーフェイスのまま、続けて口にした。
「それに、ツイットーのDMで言ってたじゃないですか」
「な、何を……?」
ごくりと固唾を飲み込み、霧崎の言葉に耳を貸す。
「好きな子とデートしたと言ってましたよね?」
その言葉を聞いた瞬間、あの日送ったDMの内容が脳裏にフラッシュバックする。
あまりに送った内容が恥ずかしくて、忘れていたと言うのに、霧崎から言われたせいで嫌でも思い出されてしまった。
「あ、あれは!」
「まさか、自称彼女達の攻略から関係のない話を振るなんて思いませんでしたよ」
「あ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“!! やめてくれぇぇぇ!」
「あー、もしかして黒歴史になりますか?」
ぐさりと、俺の頭に数本の矢が刺さる。
俺の、霧崎へ対する好感度が一気に下がったぞ。
「兄ぃ」
霧崎と二人で話し込んでいると、一人置き去りにされた玲夢が、俺の制服の裾を引っ張った。
「あー、わりぃ……。霧崎、取り敢えずこの話はまた明日って事で……」
「仕方ありませんね。まぁ、僕も今から帰ってやらなきゃいけない事がありますし、長話はあまり好きではないので」
そう言って霧崎は俺から離れ背中を向けた。その時にピタリと足を止め、振り返ると——。
「詩は渡しませんからね」
突然そんな事を言われ、俺と玲夢は暫く彼女が走っていく後ろ姿を呆然と立ち尽くしたまま、見ているだけだった。
◇
次の日の昼休み、運が悪い事に幼馴染達から捕まってしまった俺は、周囲から注目を浴びる事になる。
(あいつまた見せびらかしてる)
(四股もしといて、良く学校に来れるよな)
(しかも四人の美人に囲まれるとかラブコメ主人公かよ!)
だから、俺は誰とも付き合ってねーー!!
ラブコメ主人公でもねーし!!
そんな事が簡単に言えてたら今頃、苦労はしてなかったんだけど。
右腕と左腕にぴったりとくっついて離してくれない幼馴染達を、どうにかして振り解きたい。
「今日こそ、キスをしてくれるまで逃がさないから!」
「何言ってるの? 彩葉。くーちゃんとキスをするのは私だよ!」
「ち、違うよ! みぃ君とキスするのは私!」
「ちょっと何勝手に決めてるの? キスをして良いのは、私だけ。上書きとか絶対にさせないから!」
こいつ等マジでどうにかしてぇ!!!
「「あ」」
廊下でばったりと会った霧崎の声と俺の声が重なった。その横には詩も居る。
こんな姿見られたくなかった!!
「モテモテですね?」
表情は相変わらずポーカーフェイスだが、霧崎の言い方は嫌味ったらしく聞こえる。
そして、俺は幼馴染達だけじゃなく、こいつからも監視される事になろうとは到底、思わない。
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