第23話 デレデレ自称彼女

 重たいと思ったらこいつかよ。俺を気絶させといて、紫乃は布団に顔を埋めたまますやすやと気持ち良さそうに眠っている。

 俺が気絶をしてる間も紫乃はずっと側に居たのか? あんな嘘をついた俺が悪いのだが。

 紫乃は俺に対してかなりのデレデレだが、普通にしていれば底らにいる女子と変わらないと思う。

 顔のパーツも良くて、ずっと見ていると引き込まれそうなぐらい。

 そして気付いたら俺は――。


「ん……くーちゃん」

「っ! ち、違うんだ! 別にお前を襲おうとしていたわけじゃなくて……!」

「むにゅ……」

「……」


 (寝言かよ!!)


 つい彼女の寝顔に見惚れてしまい、俺の手が勝手に彼女の頬に触れようとしていた。

 男に生まれたばっかりに相手が女子だと我を忘れそうになる。

 いくら幼馴染でも相手は一人の女子だ。

 勝手に俺を彼氏だと思い込んでいるこいつの攻略をすると言う、本来の目的を忘れていた。

 俺が好きなのは詩であってこいつではない!

 他の幼馴染の三人だって好きでもない。その逆で、嫌いの類に入る幼馴染達を好きになるはずがない。

 そして、さっきの寝言は何だ!

 相手はデレデレ自称彼女。

 こいつに意識してどうするんだよ!!

 俺には本命が居て、他の女子には眼中になかった。幼馴染に恋愛感情を抱いた事もない。

 こんな可愛い寝言に惑わされるぐらいなら、詩を好きになる資格はない。


「……ったく。いつになったらこいつは起きるんだよ」


 紫乃から自分の手をゆっくりと離し、彼女を起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。

 部屋を出ると妹の玲夢が俺の部屋の前で立っていて、様子を窺ってきた。


「紫乃さんは?」

「俺のベッドの布団に顔を埋めて、気持ち良さそうに眠っている」

「そっか。でも仕方ないよね。兄ぃがあんな嘘を吐いたんだもん」

「何の事だ?」

「惚けても妹には効かないよ!

『実はこないだから体調があまり優れなくてだな、本当は凄く凄く凄く凄ーーく、デートを楽しみにしていたんだが、げほっげほっ、残念な事にげほっ、風邪を引いてしまってげほっ、風邪を移すと悪いからげほっ、行けなくなってしまったようだ。げほほー!』って言ってたでしょ? あれ態とらしかった」


 何、人の恥ずかしい過去を掘り返すんだーーー!!

 今日の出来事でも、過ぎた事は過去になる!


「いくらなんでも、紫乃さんが可哀想」

「それはそうなんだが……。だけど、めんどくせーじゃん。好きでもない女の子とデートだぞ? お前は好きでもない男からデートに誘われたらほいほい行くのか?」

「いや、無理」

「だろ? 俺の気持ち分かるか!?」

「うん。ごめん、兄ぃ……。兄ぃの気持ち考えてなかったよ!」


 妹に共感を持ってもらった俺は、自分の部屋の前で二人で手を取り合っていた。

 二人の世界に入っていたから気付かなかったが、母さんが二階まで俺達を呼びに来ていたのだが、「あらあら、まぁまぁまぁ!」と片手で口を塞ぎながら俺と玲夢を見て微笑ましそうにしていた。

 多分だけど、後から父さんにチクられて俺は殴られる未来しか見えない。

 父さんの帰りはいつも遅いが、娘ラブな父さんが、俺が玲夢と仲良くしてるだけでキレられる。

 血の繋がってる兄妹なのに。

 あー、でも。そういう話のラブコメがあった気がする。

 あらすじは、実の妹から告白されてその主人公も妹が好きで。だけど、お互いのはどこかズレている。

 そんな話だったような。

 ネットに疎い俺でも、小説サイトぐらいは知っていて今まで沢山の作品を見てきた。

 そして、その中でも一番のお気に入りがそれだった。

 俺は小説を書くのは苦手だが、読むのは大好きで昔は良く小説を読んでいたものだ。


「それはそうと、ご飯食べに下に降りて来なさい。紫乃ちゃんにも言ってね」

「え?」

「あの子ずっと湊の側に居てくれたのよ。他の子達も後から来てくれてたんだけど、今日は帰ってもらったわ」


 、その言葉を聞いた途端に納得した。俺の話は全く聞こうとしないくせに、母さんの話は聞くんだなと。

 だったら紫乃も一緒に帰らせてくれても良かったのでは? なんて思う。

 いくら幼馴染だからって、俺達はもう高校生だ。小さい子供ならまだしも高校生の女の子を俺の部屋で寝かせるなんて。

 そして幼馴染達は、誰が見ても美人だと言える。悔しいがそう思った。

 母さんは四人の幼馴染の中から、結婚相手を探しているが、正直言って全員俺のタイプではない。

 ツンデレは素直じゃないし、ヤンデレは何を仕出かすか分からないし、メンヘラは自分を傷付けようとするし、デレデレはアピールが凄いし。

 思い返せば全員めんどくさいタイプと言う事だ。同じクラスじゃないだけマシと言えるだろう。

 それでもあいつ等は俺のクラスにやって来て彼女のような素振りを周りに見せつけている。

 俺の高校生活、俺の唯一の友達、過去に戻れるのならやり直したいとまで思った。

 だが現実はそう上手くはいかない。

 どんなに過去に戻りたいと願っても、進んだ時間は巻き戻せないのが現状。

 だったら俺はこれから先の事を考え、どうしたら嫌われるかを考えなければならない。

 幼馴染と縁を切る事は出来ないが、嫌われる事さえ出来れば高校で彼女を作って卒業、そして二人で同じ大学に入り楽しいキャンパスライフを送る。

 それが今の俺の目標でもある。

 しかし現時点ではその夢は叶いそうにない。

 何故なら――。


「ふぁぁ、くーちゃんのお布団ふかふか……」


 今は俺の部屋で寝ている、俺の彼女だと自称しているデレデレな幼馴染を、攻略していこう。

 レベルアップする前に……。

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