第24話 逃げ場のない選択

 翌日の朝、母さんが仕事に出掛けた時の事だ。俺の部屋は紫乃が寝ているから一緒に寝るわけにもいかず、リビングのソファーで寝ていた。

 すると慌ただしく俺の家のチャイムを何度も鳴らしてる人が外に数名居る。

 ドアスコープから覗けば、紫乃を除いた他の幼馴染三人組が外で待ち構えているのが見えた。

 はぁ、と溜め息混じりにドアノブを捻り家のドアを開ける。


「開けるの遅い」

「そんなに私が邪魔だった?」

「後少し遅かったら家のドアをこじ開けようかと思ったよ」

「朝から同時に話し掛けるな! 後、俺だけの家じゃないから、こじ開けるのは止めてくれ!」


 朝7時45分、普通ならとっくに学校に行ってる時間だろう。母さんは仕事、玲夢はこないだから部活動に入って、今は俺達しか此処には居ない。

 彼女達の私服は全員春らしく明るい系の衣服を身に纏っていた。

 彩葉の服装はフリルの付いたレモン色のブラウスに、上から淡いピンク色のカーディガンを羽織り、丈の短い白のフレアスカートを履いている。

 美月姫の私服は、ミントグリーンのワンピースに腰回りにはリボンでしっかりと結んでいて大人っぽいイメージだ。

 そして雨衣は、白いTシャツに赤いカーディガンを羽織り、丈が少し長いデニムスカートを履いている。


「みぃ君、もしかして私達の私服姿見て、見惚れていた?」

「んな訳ないだろ!」

「でもみっ君固まってたよね?」


 ぐいぐいと彩葉と雨衣から迫られ少したじろぐ。それを隠すかのように俺は三人を家の中に入れると、二階の部屋で寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ている紫乃を起こす。

 三人が来てる事を伝えるが紫乃はまだ眠たそうだ。


「し〜の〜? いつまでみっ君のベッドで寝てるのかな〜?」


 彩葉の表情と声色が少しずつ変わっていき、それにビビったのか、慌てて紫乃が俺のベッドから起き上がった。


「彩葉か〜! えーっと、おはよ?」

「『彩葉か〜! おはよ?』じゃないよね? 何でいつまでもみっ君のベッドで寝てるのか、知りたいな〜?」


 彩葉の表情は笑顔だが目が笑ってなくて、逆に怖い。誤魔化そうにも彩葉には何を言っても通じなさそうだ。

 二人のやり取りを見学していると、紫乃とパチっと目が合ってしまった。

 何か嫌な予感がして部屋から出ようとしたが―――。


「くーちゃんが寝かせてくれたんだよ! 私をベッドに!」

「ちょっと待ってくれ! その言い分だと俺が紫乃を―――」


 急に俺の身体にビリっとした電流が流れた気がした。

 原因は考えずとも分かる。怪しいオーラを纏った三人が身体を小刻みにぷるぷる震わせ、俯いていた。

 紫乃は何と言う誤解を招く言い方をしてくれたんだ。言い逃れの出来ない状況を作り、俺から追い返されないように。


「みっ君が昔から優しいのは知ってたけど、紫乃をとはね」

「誤解だ! 俺は普通にベッドを使わせただけで……」

「違うよ、くーちゃん。昨日の事覚えてないの?」

「何を覚えてないって言うんだよ」


 紫乃から言われ思考回路を巡らせてみるが、何も心当たりがない。

 昨日の晩、皆でご飯食べてお風呂に入って、その後は紫乃に俺のベッドを使わせただけで……。


「覚えてないなら仕方ないか〜! くーちゃんがいきなり私の上に乗っかったんだよ?」

「は?」

「部屋を出ようとしてたみたいだったから、私がくーちゃんの服の袖を引っ張ったらいきなり倒れてきてね。くーちゃんったら大胆だなぁって」

「ちょっと待て!」

「どうしたの?」


 マシンガントークを始める紫乃の言葉を遮った。これ以上紫乃に余計な事を喋らせるわけにはいかない。

 これは紫乃の妄想だ。

 しかし、美月姫や彩葉、雨衣から凄い険悪なムードが漂っていてこれ以上は場が持たない。


「紫乃、その話なんだが二人で話せないか?」

「え、で話がしたいって?」

「良いから今は黙っててくれ!」


 三人を一度に相手するのは厳しい。

 それに、嫌われるには一人ずつの方が良いに決まってるだろ?

 だったら一番足の速い紫乃を連れ出せば、他の三人が俺の足に付いて行けるはずがない。

 先回りとかされない限りは捕まる事はないだろう。

 これは、お前達を攻略する為に今だけは協力してもらう。


「逃げようたってそうは行かないわよ!」

「なっ!」


 紫乃を連れ出そうと腕を伸ばしたのだが、勘が鋭い美月姫から即座に、阻止されてしまった。


「私だって簡単にみっ君を逃がす訳にはいかないからね。それに、みっ君のスマホと私のスマホにはGPSアプリを登録しといたから」

「は? う、嘘だろ? 俺のスマホならここに……」

「あー、それ今じゃないよ、登録したの」

「え……」

「昔、みっ君の部屋に時スマホが机に置いてあって、GPSアプリをダウンロードしておいたの」


 何勝手に人の部屋に入ってるんだよ!

不法侵入だろ!!


「これ便利だよね。みぃ君発見アプリ」

「何だそれ……」


 雨衣は自分のスマホを指で操作しながら嬉しそうに俺に見せてきた。画面には俺と雨衣の位置が重なっている。

 つまり、GPSアプリを起動すれば場所なんてバレバレって事だ。

 それにはお互い登録してる事が条件らしい。

 まさか俺のスマホを勝手に操作してるとは思わなかったが。


「だから逃げても無駄だよ。諦めて私とデートする事ね♡」

「彩葉だけずるい。みぃ君は私を選ぶよね?」

「私は別にどっちでも良いけど、選ぶなら私じゃない? そうよね、湊」

「三人は後から来たじゃん! くーちゃんが選ぶのは私だよ」


 これは『誰から攻略しますか?』と言う、俺に与えられた選択肢。

 そして四人の俺への現在の好感度はほぼ同じぐらい。

 好感度を下げるには四人からをしなければならない。

 好感度2に上がってしまった美月姫と彩葉。これって二人が俺に対する好感度が更に上がってしまったと言う事だろう。つまりそれは、簡単には嫌いになってくれないと言う事だ。

 早くこのを終わらせて、自由な高校生活を謳歌する。

 その為に攻略ノートを自分で作り、分かった事は書いてきた。

 母さんには本当に悪いと思っている。俺の嫁に貰うならこの四人の誰かが良いって事は分かっている。

 だけどそれは俺の気持ちも大事だろ?

 確かに彼女達は高校生になり、少しは大人っぽくなったと思う。

 それは俺でも彼女達を見ればそう感じる。

 でも好きって思う感情とはまた別だ。

だから……。


「湊?」

「くーちゃん?」

「みっ君?」

「みぃ君?」


「四人に伝える。本気で俺の事が好きなら、この一年間の間に俺を惚れさせてみろ!」


「「「「え?」」」」


「俺を惚れさせる事が出来たら、と付き合ってやる。その代わり、学校中に広まってしまった噂を取り消す事だ」


 俺は四人に指を差し宣言をした。

 本格的にお前等を攻略してやる。

 俺から好かれる為に、本気になればなる程、こいつ等は猛アピールをして来るだろう。

 それと同時に俺の事を嫌いになってくれたら、と言った約束は取り消しになるはずだ。

 俺は絶対にこいつ等をと言う自信はある。




 さぁ、攻略戦開始だ!!!



――――――――――――――――――――


ここまでお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

次回からは第二章に移ります。

更新ペースは遅いかも知れませんが、良ければ是非、読みに来てください!

これからも応援、宜しくお願い致しますm(_ _)m

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