第二章 攻略戦
第25話 周りの様子がおかしい件
ゴールデンウィーク明け――。
あの騒がしかったゴールデンウィークから幕を閉じ、まだ休み気分が抜けていない俺は、気持ちよくお布団と一緒に寝ていた。
ジャンジャンジャンと部屋中に鳴り響くスマホのアラーム音が、しつこいぐらいに鳴り止まない。
隣に置いてあるスマホに手を伸ばし横にスライドをして音を止めた。するとさっきまで煩かったアラーム音は静かに止み、突然静寂に包まれのだが……。
「耳鳴りがする……」
ぼそっとそうつぶやくと、重たい身体を起こし学校に行く準備を始める。机の上で散乱になった教科書を纏め、スクールバッグに入れ込むと部屋を出て階段を下りた。
「起きるの遅かったね」
「布団の中が居心地良くて……」
階段の近くで制服に身を包んだ玲夢が、スクールバッグを肩に掛け立っていた。
起きるのが遅い俺とは違い、玲夢の起床時間は早いようで流石だと思う。
「まだゴールデンウィーク気分が抜けてないんじゃないの?」
「そ、そんな事はない!」
「まぁ、私が起こさなくてもあの四人が兄ぃを起こしに来てくれるから別に良いんだけどね」
「冗談でもそういう事を言うのは止めてくれ。こっちはゴールデンウィーク明けで疲れてんだよ。あいつ等のせいでな」
ゴールデンウィークはあの四人の幼馴染のせいで、ゆっくり過ごす事が出来なかった。
結局あの後、四人は何も言わずに帰って行ったけど……。
『四人に伝える。本気で俺の事が好きなら、この一年の間に俺を惚れさせてみろ!』
あの時はその場の勢いで言ってしまったのだが……。今になって思い返してみるともう少し考えてから発言すれば良かったなんて思ったりもする。
そして新しいミッション、惚れたら負けと言うイベントが俺の脳内で発生していた。
この惚れたら負けイベントは難易度が4ぐらいあるが、俺があいつ等を好きになる訳がないし、何も心配する必要はない。
それに難易度4ってまぁまぁって感じだし、大丈夫だろ。
そんな事を一人で悶々と考えていると、玲夢が心配そうな表情で俺の顔を覗き込んで来た。
「またぼーっとしてるけど大丈夫?」
「あぁ、悪い。あいつ等の事を少し考えていて……」
「ふ〜ん、珍し」
「何がだよ」
「兄ぃ、昔は幼馴染の事あんまり考えてなかったのに今は幼馴染の事ばかり考えてないかなって」
「んなわけねぇだろ!!!」
「そこまでキレる!!?」
玲夢に対してムキになったって仕方ないのだが、今あいつ等の事ばかり考えるようになったのは攻略の為だからだ。
それ以外何があるって言うんだ。
イライラを抑え、俺は食卓用のテーブルの椅子に腰を下ろす。そしていつものようにおかずの入った真っ白な皿にかけてあったラップをはがした。
昨日の夜、俺達が食べた残り物だけどな。
まだ微妙に温もりがあるのは、玲夢が先に温めて食べていたからだろう。
◇
校門をくぐり学校の中に入った所で、俺の後ろから女子達の声が聞こえて来た。
「えー、今日一緒に帰れないの?」
「あー、うん。詩……先輩とデートするから」
「じゃあ、今度は私とデートしてね!」
「あー!! ずるい! 次デートするのは私だよ!」
朝から賑やかだと思ったら、霧崎ファンの女子か。デートとか言っていたが、お前も女子じゃねーか!!
少し離れた場所には詩が居て、俺に気付くと小走りで駆け寄ってきた。
「おはよ、湊君!」
「おはよう。あいつっていつもあんな感じか?」
「由真って見た目は男子だからね。実は休みの日もデートの誘いが来てたけど、全て断ってたよ。好きな人が居るからって。由真も恋する乙女だったのよ!」
「へ、へぇ〜……」
俺は知っている。霧崎の好きな人が誰かを。言いたいけど、喋ったら絶対●される!!!
そして俺は、さっきから違和感を覚えていた。いつもと変わらない筈の登校なのだが、周囲に居る生徒達が俺に話掛けてきた。
「久遠君、おはよう!」
「え? あ、おはよう?」
「なぁなぁ、久遠! お前って本当は良い奴じゃん」
「……は?」
「俺達はお前を応援する。頑張れよ!」
あまり人の顔を見てなかったせいか、一瞬誰かと思った。よくよく考えてみれば今俺に話し掛けて来た奴等は、俺と同じクラスメイト。どういう訳か今まで変な物でも見るかのような態度だった。
それがゴールデンウィークを明けた途端、クラスメイトの俺への態度が一変。
明らかに変だ。今まで四股もしてるクズ野郎として俺の事を見下していたくせに、どういう心境の変化だ?
その後も隣のクラスから話し掛けられたり、いきなり応援されたりして何だか逆に気分が悪い。
「湊、少し良いか?」
「……四馬」
教室に向かっていると四馬……
久し振りな事もあり、少し戸惑ったが逃げるのは男らしくないし、情けない気もする。
だから俺は覚悟を決め、こいつの話を聞く事にした。
HRが始まる数分前、俺達は男二人屋上に来てフェンスにもたれ掛かっていた。
屋上はとても静かでほぼ生徒の声が、微かに聞こえて来るだけのようだ。
「あの時は悪かったな」
「え?」
「お前の事を信じてやれずに」
何を言われるんだろうと、覚悟を決めていたのだが、まさか四馬の方から謝って来るとは思わなかった。
「考えても見れば、あの幼馴染達が勝手にお前を彼氏だと思い込んでるだけだったんだよな」
「何故今更それを俺に?」
「……」
四馬はそこから黙りこくり、話す事を躊躇っているようだ。長い沈黙はあまり好きではないが、ずっとしんみりしたままなのは場が持たない。俺が口を開くよりも先に四馬が口を開いてくれた。
「俺が新聞部に口外してもらえないか頼んだ」
「え……?」
「去年の冬ぐらいだったか、お前の幼馴染四人と俺とお前で一回遊びに行った事あったよな? あの時の幼馴染達の好き好きアピールが凄いのを思い出して……」
「だから俺に同情して、新聞部に俺の誤解を解いて貰えないか頼んだのか?」
「違う! そうじゃねーよ」
「だったら答えてみろよ! あの時お前は何で巻き込まれたくないからと言う理由で、俺から避けるような行動をした?」
「そ、それは……」
バカバカしい。ずっとこいつを信じていた俺が馬鹿だった。俺はこいつの事、一番の友達だと思っていたのに。
「……だったんだよ」
「は?」
ぼそぼそ言っていて聞き取れなかった。もう一度聞き返そうとしたら、四馬が口を開く。
「時間が必要だったんだよ」
「は? 時間だと?」
何言ってんだ、こいつ。時間もくそもないだろ。俺の事を避けていたくせに。
「今更お前と友達に戻りたいなんて言わね。だけどこれだけは聞いてくれ」
俺が屋上から立ち去ろうとすると、後ろから四馬が声を荒げ俺に向けて言葉を放った。
「俺は今でもお前を友達だと思っている。それだけだ」
「じゃあ、俺も一つ聞きたい事がある。本当に友達だと思うなら答えられるよな?」
「え?」
「嘘を付くならもっとマシな嘘付けないのか?」
「な、何を言って……」
俺はついさっきまでこいつを友達だと思っていた。あいつ等が自称してくれなかったら、俺はコイツからずっと利用されていたままだっただろう。
「ありがとな、先に礼を言うよ」
「は? 何の事だよ」
「お前さ、去年のクリスマスの時の事覚えてるか?」
「クリスマス?」
「あぁ……」
忘れたとは言わせない。俺も最近までは忘れていたが、コイツのお陰で思い出す事が出来た。
「お前……俺の幼馴染に告白をして一度振られてるだろ」
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