第7話 幼馴染達は今日もやって来る
『これより、第15回。私立海原高等学院、入学式を始めます、一同起立——』
入学式が始まった。在校生と新入生が座っていた椅子から立ち上がり頭を下げて上げ、そしてまた座る。
最初は校長先生の話から始まるのだが、校長先生がマイクの前に立つと欠伸をしたりだらけたり寝ていたりと、何人かの生徒が校長先生の話を全く聞いていない。
気持ちは分かる。凄く分かるけど一生懸命俺達に話している校長先生に失礼だ、なんて言いつつも、実は俺もその生徒の一人だったりする。
だって校長先生の話長くないか? 誰だって一度は思った筈だ。
早く終われ、と……。瞼が閉じそうになるのをグッと堪えているとやっと終わったのか、校長先生が体育館ステージから降りた。
その瞬間俺は目がパッチリと冴えた。
校長先生からかけられていた、睡魔の呪いは、どこかに消えたらしい。
それは他の生徒達も同じだろう。あの校長先生が放った睡眠魔法で俺達は一斉に睡魔と言う呪いに、かかっていた。
何を厨二病発言してるんだ、と思われるだろうが睡魔に勝てた俺は勝利でしかない。
そして次に在校生挨拶が始まった。
挨拶は、四馬颯夜…。本当は生徒会長が挨拶をする予定だったのだが、体調を崩してしまい代わりに今年から副会長になった颯夜が会長に代わって代表で挨拶をする事になった。
颯夜はステージ上に立つとマイクに向かって口を開く。
『新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。桜が満開の季節、暖かい春の兆しに包まれ新入生の皆様を迎えられた事、僕達在校生は心より嬉しく思います――』
生徒会長が休み、急な挨拶でも颯夜は直ぐに挨拶を考え浮かぶ。
俺にはアイツみたいにはなれない。
昨日の今日だが、新学期が始まって俺は唯一の友達だと思っていた颯夜から裏切られた。
別に恨んではいない。あの状況で俺の友達を止めるのは良い選択だと思っている。
恨んではいないが、ショックは大きい。
一年の時から仲良かったアイツとは良くゲーセンに行ったりもした。
勿論あの四人も一緒だったが、優しい颯夜は別に気にもしていなかった。
そして在校生挨拶が終わったのか、颯夜は自分の椅子へと戻って来て座った。
その時に一瞬だけ目が合ったが直ぐに逸らされた。
本当に俺とはもう関わりたくないのだろう――。
あの後新入生代表挨拶もあったが殆ど耳に入らなかった。
そして教室では新しく担任教師になった男の先生が俺達に向けて挨拶をした。
「今日からお前達の担任になった、
そう言って先生は黒板に大きく、“夜露死苦”と書いた。
ヤンキーかよ!!
「実は先生は昔ヤンキーでな、良く仲間達と一緒にあちこち暴走しまくってたよ」
おい!!!
マジでヤンキーだったのかよ!?
クラスメイト達は全員、ぽかんと口を開いたまま固まっていた。
いきなりヤンキーだったとか言われても、どう反応したら良いか分からねーよ!!
◇
「四馬ー、一緒に帰ろうぜ」
「あ、あぁ……」
「どうしたんだ?」
「何でもない。それよりも帰りにさ……」
寂しくなんかない。俺は全然寂しくなんかないぞ!!
友達が居ないからって何だ!!
机に突っ伏し目からは涙が出ていた。
そんな俺を教卓の前で友達と話している詩が心配そうな顔で見ていた。
一応、詩とは友達になったがクラスでぼっちなのは変わらない。
もしクラスの奴等が、詩と俺が話してる所を見てしまえば、今度は詩が友達を失くすかも知れないからだ。
俺の所為で、詩にまで迷惑は掛けたくない! そんな悩みなんてお構い無しに相変わらず話し掛けてくれる有難迷惑な奴等が、俺のクラスに迎えに来た。
「迎えに来てあげたんだから感謝ぐらいしなさいよ?」
「やっとくーちゃんと話せる!!」
「紫乃? 早くみっ君から離れてくれない?彼女は私なんだから♡」
「違うよ! みぃ君の彼女は私! 朝、手を握ってくれたから……」
「は? 冗談はやめて? 貴方、○されたいの?」
バチバチッと四人の幼馴染達が、俺の机を囲み火花を散らしていた。
クラスメイト達からは白い目で見られるし、友達は出来ないし、誤解をずっとされっぱなしだし、もうどうすれば良いんだよ!!
◇
「あ! 兄ぃ!」
「玲夢か。友達は出来たか?」
「うん! どこ中? とか、名前は? とか、好きな芸能人は居る? とか! 色々聞かれたんだー」
「ははは、そうか。良かったな」
「あ、えっと……」
玲夢は俺に気を遣ってくれているのか、慌てて口を
玲夢が友達出来たなら俺はそれだけで嬉しい。だから気にしないでくれと言いたいが、なかなか口が開かない。
そして後ろからはあの幼馴染達が付いてきた。
「もう! くーちゃん、彼女の私を置いていかないでよー」
「みぃ君は走るのが好きなの? 昨日も走って先に帰っちゃうし……」
「もう! みっ君の照・れ・屋・さ・ん♡」
「紫乃は走るのが得意だけど、運動神経抜群な彩葉でも追い付けないなんて……。どんだけ湊は走るのが速いのよ」
紫乃以外の三人はぜぇぜぇと息を荒らげていた。だったら追い掛けて来なければ良いのに。
「あのなぁ。いくら恋人だったとしても相手にだって自由な時間ぐらいは欲しいだろう?」
「恋人だった? 何で過去形なわけ?」
勘の鋭い美月姫は俺の少しの言葉でも聞き逃さない。でも実際本当に付き合ってる訳でもないし、何も間違った事は言っていない筈。
だが、そう思っているのは俺だけで……。
「それは……」
「別にいっか! だって今週の日曜日はくーちゃんとデートだもん!」
俺が予想もしなかった紫乃の発言に、その場に居た全員が俺を見て固まった。
これはやばいか?
「どういう事かちゃんと説明して! 今週の日曜日って私とデートに行く予定だったんじゃないの!?」
「え? みっ君、私デートなんて知らないよ? 何で私を誘わないの?」
「やっぱり私ってみぃ君から必要とされていなかったんだね。人生の最後くらいはみぃ君と一緒に居たいよ……」
紫乃の言葉の所為で他の三人から俺は責められる。玲夢に助けを求めようとしたが、いつの間にか少し離れた所で俺と幼馴染達の会話を聞いていた。
玲夢まで俺を見捨てないでくれ!!
「湊!」
「くーちゃん!」
「みっ君!」
「みぃ君!」
「ぐっ……」
「「「「一体誰が一番好きなの!?」」」」
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