第8話 自称彼女に話は通じない

 この幼馴染達は全員本気で俺を彼氏だと俺から愛されていると思っているようだ。

 でも俺は四人からハッキリと告白された事がない。

 気が付いたら勝手に彼氏にされていて、俺がこいつ等に告白をした事になっていた。

 そんな記憶は全く無いし、いつ告白したか聞いても教えてはくれない。

 誰が好きとか言われても俺には既に本命が居る。詩の事をこいつ等に話しても良いのか正直な所不安だ。

 俺は額から汗が垂れ、喉元をゴクリと鳴らした。


「あ、あのさ……」

「「「「何?」」」」


 四人同時に俺の言葉に反応する。

 何故こういう時はハモるのだろうか。


「四人は俺のどこが好きなんだ? 俺ってそこまでイケメンって程でもないし?」


 先ずはそれぞれの俺を好きな理由を聞こうではないか!


「べ、別に理由なんかないわよ! か、顔がまぁまぁ良いからよ」


 まぁまぁ良いって何だよ!!


「くーちゃんはねー、照れるとこがカッコいい!」


 そこは可愛いとかじゃないのか!?


「私を見つめるが好きだよ♡」


待て待て待て! ヤンデレ女子が言うと怖い!!


「手を握ってくれた……」


 理由になってねーよ!

 てかそれ、今朝の出来事だろ!!


「「「「答えたよ!!!!」」」」


 答えたよ! じゃねーよ!

 全員理由になってねーし!!


「大丈夫? くーちゃん凄い汗だけど」


 俺が一人で幼馴染達に心の中でツッコんでいると額に紫乃の柔らかい手が当てられた。

 その瞬間三人の目の色が変わり、俺は怖くて後退る。


「紫乃? 今誰を触ったのかな?」


 顔は笑っていても目が笑っていない彩葉。

ヤンデレ女子の特徴だ!


「私のみぃ君に触れないで……。みぃ君は私の彼氏なの。それに手を握ってくれた……」


 だからお前の彼氏になった覚えはねー!!

 後いつまでそれを引きずる気なんだ、こいつは!


「一応湊は私の彼氏よ? 三人は勘違いをしているから。湊は私の事好きって言ってくれたもの」


 いつ言ったんだよ!!

 言った覚えなんてないんだが!?


 遠くの方では妹の玲夢が怯えた子犬のようになって、俺達を見ている。

 そして今気づいた事だが、此処ってまだ学校の校門前。

 玲夢だけでは無く、周囲の生徒達が俺達をジロジロと見ていた。


「修羅場か?」

「あー、あれだろ? 四股してる久遠湊って言うのは」

「うわー、あれはないね。浮気されてる女の子達が可哀想」


 今の言葉聞き捨てならんな。

 俺が四股してる? 浮気?

 してねーから!!

 いつの間にか俺が浮気男として、嘘の情報が学校中に広まってしまったようだ。

 何でこんな事になってしまったんだ!!

 友達から避けられるし、詩とは学校で話せないし、浮気男と言う肩書きが出来てしまうし!

 だったら一気に幼馴染達を全員攻略して、四人から嫌われてやる!


「なぁ、昨日の今朝の事覚えてるか?」

「昨日の今朝って、確か一人ずつ話がしたいって言ってた?」


 俺が四人に聞くと真っ先に答えたのは意外にも雨衣だった。

 四人の中じゃあ大人しい方だと思っていたから少しびっくりだ。


「あぁ、そうだ」

「でも結局あの後、私呼ばれてないよ? 美月姫だけズルくない?」


 次に口を開いたのは彩葉だ。彩葉は面白くなさそうに頬をムスッと膨らませた。

 これが普通の女子なら可愛いと思っただろうが、相手はヤンデレ女子だ。


「そうだよ! それには私も同意見かな!」


 続いて紫乃が口を開く。

 こういう時だけ、この幼馴染達は息が合うらしい。


「それには深い訳があってだな……」

「「「訳って何?」」」

「え、えっと……」


 美月姫以外の三人が俺に詰寄って来て俺の顔をじーっと怪しむようにジロジロと見てきた。


「と、取り敢えず此処だと目立つし、学校の中だと他の生徒達の邪魔になるだろ? だから続きは俺の家で話さないか?」


「みっ君の家に上がれるなら許してあげる♡でも他の三人も一緒なのはねー」

「は? 私だって皆と一緒なのは嫌だし」

「みぃ君の家に上がれるのは、私だけ!」

「えー! 私だけじゃないの?」


 駄目だ。全然話が進まない。


 すると遠くの方から玲夢が四人に聞こえるように、俺を呼んでくれた。


ぃー! 今日はで大事な用があるから人を上げれないんじゃなかったっけー?」

「! あぁ、そうだった! すっかり忘れていたよ!」


「「「「え?」」」」


 俺はこの場から抜け出す理由を作ってくれた玲夢の所へ急いで向かった。

 四人は急な事だったからか、暫くそこから動けずに俺と玲夢が走って帰って行くのを眺めているだけだった。


         ◇


「マジで助かった!」

「私があの場に居なかったらどうするつもりだったの?」


 俺と玲夢は家に帰り着くと、スクールバッグを床に置き、リビングのソファーに腰を下ろした。

 そして俺は玲夢に身体を向け、合掌している。


「本当にありがとう! 今度俺が玲夢に何か甘い物奢るから!」


 それを言った瞬間、玲夢の目が一瞬光ったような気がした。

 甘い物に目が無い玲夢に取っては美味しい話だろう。


「それなら、クレープが良い!」

「はいはい。現金な奴」

「後ね、兄ぃはあまりネットをしないから知らないと思うんだけど……」

「ん?」


 さっきの表情とはまるで別人のように、玲夢の目が真剣な眼差しへと変わった。


「玲夢?」

「……兄ぃはさ、って知ってる?」

「攻略部? 何だそれ」


 そんな部活、俺等の学校にあったか?

 それとも誰かが最近立ち上げたのだろうか? しかし今日入学したばかりの玲夢が、あの高校に詳しいとも思えないが……。


「その攻略部って言うのはシミュレーションゲームや、ロープレ、アクション、パズル、その他諸々、攻略部の人がそれぞれ得意としているゲームの攻略方法を攻略部サイトに載せてくれていて、分からない所があれば質問箱で聞く事も出来て凄く頼りになるサイトなの!」


「な、何だと……!? で、でもそれってゲームの攻略方法だろ? 俺が知りたいのは……」

「ツンデレ自称彼女、デレデレ自称彼女、ヤンデレ自称彼女、メンヘラ自称彼女の攻略方法だよね?」

「あ、あぁ……。そうだが……」


 すると玲夢は口角を上げ、ニヤリと笑った。その笑顔が少しだけ怖い。


「攻略部にそう言うのに詳しい人が居たから早速聞いてみよー!」

「は?」

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