第9話 初めてのお誘い

 玲夢からいきなり部屋に連れて行かれ、ベッドに座らされる。

 妹の部屋に入ったのはいつ振りだろうか。

 壁には妹が今ハマッているツンデレ、デレデレ、ヤンデレ、メンヘラシミュレーションのポスターが掛けてあった。

 これ普通は男が好きなのだが、妹は今ギャルゲーにハマッている。

 しかも丁度俺の幼馴染達と同じタイプだと言う。玲夢はノートパソコンを立ち上げると、あるサイトのホームページを開いた。

 そこには玲夢の言ったように沢山のジャンルの攻略方法が分かりやすく書かれている。


「あ、この人だよ!」

「カイ?」

「うん!」


 ペンネームだろうか?

 ネットに本名使う人ってあまり聞かないし。パソコン画面を久々に見たせいか、目が眩みそうになる。


「このカイさんの説明が凄く分かりやすいの! 例えばこれとか!」

「えーっと何々? ツンデレ攻略情報……ってこれゲームじゃなくて現実の女の子攻略方法じゃないか!」

「そうだよ? だって兄ぃ攻略するんでしょ? 好感度を下げる方法を聞いてみよ!」


 そう言うと玲夢は俺の返事を待たずに勝手に質問箱に送った。

 少しは俺の返事を待ってくれても良いんじゃないか?

 質問箱に送ってからそんなに時間は経って居ないが直ぐにカイさんから返事が来た。


『それぞれ違うタイプの自称彼女ですか。好感度を上げたいとかじゃなくて、下げたいと言うのは珍しいですね』


「ほらね」

「返事早いな」


『僕の通ってる学校にもそう言う女子が居るらしいので、匿名様のお気持ちは分かります。でもツンデレとデレデレタイプを一緒にしちゃうのはやっちゃいましたね。それだと攻略が難しくなりますが続きを聞きますか?』


 そこでカイさんの返信は終わっていた。

二人を相手にするのが難しいのなら、四人なんてもっと無理だろう。

 取り敢えず、次の質問を送ってみた。


『先程、自称彼女の件で質問をさせて貰った者ですが、四人全員から嫌われる方法を教えて下さい』


 送信っと。


 俺が質問箱に送ってから間もなくして相手から直ぐに返事が返ってきた。

 ずっとスマホかパソコンを弄っているのだろうか。


『四人同時と来ましたか。では僕の部屋に来てもらえますか? そこで僕が作成をしたちょっとした攻略サイトを教えます』


部屋?

ネットに疎い俺はその意味も分かっていない。


「玲夢、部屋って何の事だ? 顔も見えない相手と実際に会うって事か?」


 俺は真剣に玲夢に聞いた。聞いた筈なんだが急に玲夢が手を口に当て笑い出す。

 何もおかしな事は言って無いのだが。

 少しすると笑うのを止め、玲夢はツイットーを開いた。


「部屋と言うのはね、ツイットーのDMの事だね。此処で話そうって事じゃない?」

「な、なるほど!」

「じゃあ、私は今からやる事があるから暫くこれ貸しといてあげる!」

「え?」


 ノートパソコンを受け取った俺は何故かいきなり部屋を追い出された。

 妹の部屋に兄が長時間居るのは駄目だったのだろう。

 このまま妹の部屋の前に居るのも変に思われるから、一旦自分の部屋に入った。

 ノートパソコンを開き、カイさんにさっきの続きを送ってみた。

 すると俺のポケットからスマホの着信音が鳴る。

 急に鳴り出すスマホの着信音にびっくりしてパソコンを一回閉じた。


 誰だろ。親は仕事で居ないし、幼馴染達の電話番号は完全に消している。俺の番号を知ってる人など居ない筈だが。

 電話の相手を見ず、恐る恐る電話に出てみると、電話越しから聞いた事のある優しくて透き通った声がスマホから聞こえた。


『もしもし? 湊君?』

「え、う、詩!?」


 な、何で詩が俺のスマホに!!?

 あ、そうか。連絡先交換したんだっけ。


『良かったー! 電話に出てくれて』

「どうかしたのか?」

『うん、ちょっとね』

「?」

『こ、今週の日曜日。良かったら一緒に映画でもどうかなと思って』

「え?」

『湊君、学校でずっとやつれた顔をしていたから気になっちゃって……』


 窶れた顔?

 俺そんなに顔に出てたか!?


『湊君の幼馴染達の事も気になるし、大丈夫かなと思って気分転換に映画でも一緒にどうかなと思ったんだけど……』


 良いに決まってるじゃないか!!

 断る理由がどこにあるんだ!!


「良いよ。今週の日曜日、学校近くの駅前に9時に集合で良いかな?」

『うん! 楽しみにしてるね! それじゃあ、また日曜日に』


 電話を切り俺はベッドにダイブをする。そして、枕に顔を埋め足をバタバタとさせた。

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!!!

 やばい、どうしよ!!

 俺、詩と約束しちゃったんだけど!?

 今にも叫びそうになる声をグッと堪え、声にならない言葉を出した。

 すると俺の部屋がコンコンとノックされる。


「兄ぃ? 煩いよ?」

「あ、はい……」


 どうやら俺の声が隣の部屋まで聞こえていたようで、妹に怒られてしまった。


        ◇


 日曜日――。


 俺は朝、早く起きて髪のセットをしっかりと整え服装はあまり気合いが入り過ぎるのも良くないと思い、ラフな格好にした。

 上は白のTシャツにデニムジャケットを着こなし下は紺のジーンズ。

 これなら誰がどう見てもデートで浮かれてる奴には見えないだろう!

 そう自分に言い聞かせていると、後ろから誰かが此方に向かって近付いて来る足音が聞こえ俺は振り返った。


「……え?」

「約束の場所違くない?」

「ちょっと! 私の事忘れないでよ!」

「二人だけでデートだなんて、許さないからね?」

「私だけ除け者は嫌だから来ちゃった!」


 な、何でこいつ等が此処に居るんだ!!?

 あれ? でもそう言えば日曜日って……。


 そこで俺は詩との約束に浮かれ、幼馴染達との約束の事を思い出した。

 今日だけは忘れたかったのだが、今俺の目の前に現れた自称彼女達。


「あ、湊君! お待た……」


 そこへ詩も来てしまい、やばい状態に陥ってしまったようだ……。


「「「「誰?」」」」


 この状況をどう攻略する??

 幼馴染達の攻略はまだ始まったばかりだ!!!

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