第21話 帰り道

 放課後の帰り道、誰も歩いていない歩道。

一人で歩いて帰っているとの視線を感じた。振り返るとそこには……。




おどかすなーー!」

「もしかして怖いの?」

「あははっ! くーちゃんの怖がり!」

「大丈夫だよ! 何かあったら私が守ってあげる! それに、みっ君を○すのはわた……」

「みぃ君。タ○ぬ時は一緒だよ?」


 いつもの四人組が横一列に並んで、俺の後ろで歩いてる。

 足音を立てずに近付いて来て、俺をビビらせたかっただけのようだ。

 悪趣味にもほどがある。


「お前等なー……。不審者を呼び寄せたらどうすんだよ!」

「大丈夫でしょ。私達も居るし」


 美月姫は平静を装っているだけなのか、顔の表情を何一つ変えていない。


「でも残念だね。玲夢ちゃんテニス部に入っちゃったんだよね?」

「そうだけど。これからは一緒に帰るのは無理だな」

「残念。玲夢ちゃんにみっ君の事を隅々まで聞こうと思っていたのに」

「彩葉、玲夢に何を聞こうとしている?」

「さぁ? 何だろうね!」


 彩葉はふふふと怪しげに笑いながら、俺の後ろを付いてくるように歩いている。

 帰宅部の俺達に部活は関係ないけど、一年の時は少しだけ興味があった。

 三年の先輩達から部活の勧誘をされ、一応見学をさせてもらった。

 その中でも野球部に入ってみたい気持はあったが、反射神経が鈍い俺には球が一つも当たらなくて先輩達が全員、ぼうぜんしつになっていたのを思い出す。

 そして野球部のキャプテンから言われた言葉が、『君、向いてないね』。

 あの言葉を思い出すと、確かに先輩の言う通りだと思った。

 それに二年になった今、部活に入るのは躊躇われる。

 今まで頑張って来た人達の足を引っ張る事になるだろうし、俺が入った事で決勝進出が出来ないかも知れない。

 高校にもなれば自分で好きな部活を立ち上げる事が出来るらしいが、そこまではしたくない。

 バス停に着いた所で紫乃が「あっ!」と声を上げた。


「な、なんだよ、いきなり」

「学校に弁当箱忘れた」

「はぁ? なら取りに戻れば良いだろ」


 俺がそう言うと彼女はぷるぷると首を横に振り、俺の腕に引っ付いてきた。

 それを見た三人は狼狽うろたえている。


「不審者に狙われるかも知れない」


 詩があんな話をするから信じ切っているようだ。実際、不審者が出たのは人通りの少ない歩道と聞いている。

 車通りの多い場所には出ないと思うが……。


「あー、分かった。一緒に行ってやるよ」

「「「え!」」」

「わ、私も不審者に狙われてるかも知れないから、一緒に行ってあげるわよ」

「そうよ。一人だけ抜け……私達も付いて行った方が安心するでしょ」

「それなら私も行く。みぃ君が他の三人からを迫られたら嫌だし」


 (お前等は俺と紫乃が二人っきりになるのが嫌なだけだろぉぉぉぉぉ!! 後、の事は忘れさせろよ!)


 心の中でそう叫ぶと気持ちを切り替え、四人と一緒に学校へと戻った。

 玲夢はまだ部活中だし、詩と霧崎は家の用事って事で先に帰っている。

 学校の中へ入り二階へ上がると、運動場から野球部の威勢のいい声が廊下まで聞こえて来た。

 野球部が運動場を使ってる間はサッカー部は別の場所で練習をしているらしい。

 そして、サッカー部が運動場を使う時は野球部が別の場所で練習試合をしている。

 本当なら俺も今頃は野球部のメンバーだったのだろうか。

 あの時の先輩は既に卒業してしまったが、今のキャプテンが誰なのか、定かではない。

 そういえば、あいつも野球部だった気がする。


「弁当箱あったよー!」


 廊下の窓から運動場を眺めていると、紫乃が走って戻ってきた。


「紫乃、廊下は走ったらダメだろ!」

「え〜? でも誰も見てないから良くない?」

「それでもだ!」


 本当昔からこいつ等には良く神経を使わされる。俺への好感度はなかなか下がらないし、逆に上がる一方。

 嫌われるには一体どうすれば良いのか、毎晩頭を捻ってに書いているが、嫌われる方法が見つからなくて霧崎に相談はしているけど、お手上げだそうだ。

 それもそうだろう。今日の彼女達の言い寄られも霧崎にとっては有難迷惑だろうし、このまま攻略を続けるのなら、霧崎にもこいつ等と関わっていかなきゃいけなくなる。

 自分が本人だと名乗らなければ、俺はネットだけのに相談し、霧崎には相談をする事なんて無かった筈だ。

 それをあいつは自ら自分がカイだと言ってきて、俺に教えてくれたお陰もあってか、カイさんと言う存在を忘れていた。

 そして霧崎はネットの中では優しいが、現実の霧崎は

 ライバル宣言もされているから、詩には迂闊に近付けなくて……。

 それでも詩はそんな霧崎の気持ちなど知る由もないから、俺に話し掛けてくれる。

 霧崎もだけど幼馴染達もそうだ。

 俺って、監視されてばっかだな……。


 あれこれと考えていたら、紫乃が何かを思いついたのか両手を腰の後ろで組み、可愛く上目遣いで俺を見つめてきた。

 くりくりとした綺麗な翠色の瞳の奥は、俺の姿が小さく映し出されている。


「もうすぐゴールデンウィークだね」


 その瞬間、嫌な予感が俺の脳裏をよぎった。


「皆でデートしよっか」

「……は?」

「付き合ってるのにデートをしないなんておかしいでしょ?」

「まぁ、確かに……。ってだから俺はお前等とは付き合……」

「良いね、それ。みぃ君とデート出来るなら何でも良いよ」

「は? 私はは嫌なんだけど」

「おい、俺の話をむ……」

「まぁまぁ、美月姫。話聞いてよ! 皆でデートするけど、実際はくーちゃんと二人っきりになれるチャンスって事だよ!」

「みっ君と二人きり! その話乗った!」


 こいつ等だけで勝手に盛り上がって、俺は置いてけぼり。

 去年もそうだったが、今年のゴールデンウィークも波乱の予感でしかない——。


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