第20話 幼馴染達は人の話を聞かない
「良く会いますね」
「縁があるみたいだな、俺等」
「は? 冗談は止めてくれますか? 先輩と結ばれるとか吐き気がします」
「おい。俺でも傷付くぞ!」
「仲良しだね」
「「良くない!」」
俺達は生徒の注目を避ける為に、屋上に集まって弁当を食べている。
そこには勿論、あの幼馴染達も居て……。
「私達も仲良いよね! くーちゃん!」
「紫乃、何言ってんの? みっ君と仲が良いのは私よ!」
「違うよ、彩葉。みぃ君と仲良いのは私。結婚の約束だってしたし」
「湊の彼女は私でしょ? 何浮気してんの」
「ちょっと待て。浮気って勝手に決めつけんな! はっきりと言わせてもらうが俺は——」
「「「「彼氏!」」」」
「人の話を聞けぇぇぇ!!」
こいつ等がこうなった原因は母さんって事が分かったのは良いが、余計な事をしてくれたもんだ。
人の話を全く聞く耳持たないし、詩がクラスメイト達に誤解を解きに行ってくれたのだが、「あの男に脅されて可哀想」だと。
どんどん俺の評判が悪くなる一方で、幼馴染四人組は楽しげに俺の話で盛り上がっていた。俺の入れるスキがないから、ほとほと困っている。
「でもびっくりしたよ。くーちゃんの友達がまさか女子だったとは!」
「本当に女子? 男子かと思っちゃった!」
「女子には見えないわね」
「男子の制服を着て、みぃ君に近付いたとかじゃないよね?」
「あの……」
俺の幼馴染達が同時に霧崎に言い寄り、彼女は返答に窮しているようだった。
流石に四人同時に話し掛けられるのは霧崎でも止められない。
(この先輩達をどうにかしてください)
口パクでそう言われた気がした。
(俺にもどうする事も出来ん)
(はぁ? 先輩の幼馴染達ですよね?)
霧崎とは口パクだけで会話をしているのだが、話が通じているのにはびっくりだ。
目線を幼馴染達から詩に移すと、既に弁当を食べ終わっていて片付けている最中のようだ。
「食べ終わるの早いな」
「普通だよ? 湊君達、ずっと話し込んでいて殆ど弁当食べてないし」
「あはは……」
「後ね、噂で聞いちゃったんだけど」
噂、その言葉を聞いた途端、背筋が凍りついた。
美月姫からキスされた事がバレてしまったか……。
「最近この辺りでナイフを持った不審者が出るらしいから、帰りは一人で帰らない方が良いって」
「え……、不審者……?」
「うん。放課後になるとナイフを持った人が現れて目を光らせてるらしくて……」
「何だそれ、怖っ!」
ある意味ホラーだ。
なるべくなら遭遇はしたくない。
帰りは人通りの少ない路傍は避けて、今日は車通りの多い表側から帰る事にしよう。
別に詩からそういう話を聞かされたから、順路を変更するわけじゃない。
たまには気分を変えて別の景色を楽しむのも悪くはないかと、思ったからだ。
言い訳にしか聞こえない理由を、自分自身に言い聞かせ、納得させる。
「あ! 何私のみっ君と楽しそうに話してるの?」
さっきまで霧崎に話しかけていた彩葉が、俺と詩の間に割って入った。
詩と楽しそうに話していたら邪魔されてしまった。
俺からしたら不審者よりも、彩葉の方が怖いのかも知れない。
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