第5話 攻略対象 ヤンデレ(日南 彩葉)

「では、これから作戦会議を始めます!」

「「おー!!」」

「って何で母さんが居るんだよっ!」

「だって〜。二人だけで会議だなんて楽しそうじゃな〜い」


 玲夢が、作戦会議の合図をしたのと同時に俺の声と誰かの声が同時に重なった。

 俺の部屋に呼んだのは玲夢だけだったんだが、何故か母さんまで俺達兄妹の作戦会議に参加していた。

 母さんは頬に手を添えて、にこにこしている。


「これは遊びじゃないんだ! 俺のこれからの人生が掛かってるんだよ!」

「人生?」

「えーっとね、兄ぃは幼馴染達から嫌われる為に色々と苦労してるみたいでね。好感度をどうしたら下げれるかを二人で考えていたとこなの」

「何で? あの子達、礼儀は良いし素直だし、何よりも湊の事を大事に想ってくれてるじゃない。お母さんは湊の結婚相手にするならあの子達しか居ないと思うのよね」


 母さんはそう言うと法悦の笑みを浮かべながら俺を見てきた。


 冗談じゃない!!

 何で俺があいつ等の中で花嫁を選ばなきゃいけないんだよ!

 それに俺には……。


『湊君!』


「何々? 学校に好きな子でも居るの? 今度お母さんにその子紹介してくれる?」

「あー! もう良いだろ! 頼むから作戦会議に集中させてくれ!」


 俺は一向に出て行ってくれない母さんを部屋から無理矢理追い出し鍵を掛けた。

 また俺達兄妹の会議に混ざってたなんて事はないようにしたい。


「油断も隙もない母さんだ」

「でも少しぐらい混ぜてあげても良かったんじゃない?」

「駄目に決まってるじゃないか! 俺はあいつ等の所為で友達も失くして今はそれ所じゃないんだぞ!?」


 興奮してる俺を見て玲夢は硬直していた。

 あいつ等の話になるとつい心が乱れてしまう。

 スマホだって新しいのを買って貰ったし、あいつ等の連絡先は全て消した。

 それに家に帰宅してから直ぐ自分のスマホに詩の連絡先を登録。

 つまり、このスマホには家族以外に詩の連絡先しか入って居ない!!

 幼馴染達の連絡先が入っていないだけで、こんなに気分が良いとは思わなかった!


「兄ぃ? そろそろ作戦会議を始めない? ずっと百面相してて話が進んでないけど」

「ひゃ……百面相?」

「うん……」


 どうやら俺はずっと一人で、しかも妹の前で百面相をしていたらしい。

 それが面白かったのか、いきなり玲夢は小さく笑い出す。

 こっちは真剣に考えていたんだぞ!


「んじゃ、先ずは……」


 俺は机の引き出しからノートを取り出し、シャーペンで幼馴染達の名前とタイプ分けを書いていく。


「何これ?」

「見て分からないか? 自称彼女攻略ノートだ!」

「自称彼女、攻略ノート?」

「これからあいつ等を一人一人攻略していく訳だろ? だったら攻略ノートがあった方が少しでもクリアに近付ける!」

「クリアって……。ゲームみたい」

「俺からしたらゲームなんだよ!」


 好感度ゲージも見えたしな!!


「それで最初は誰から攻略していくの?」

「そうだな…。うん、こいつからだろ」

「ツンデレとデレデレ? 何で二人一緒なの?」


 俺が二人の名前が書かれた場所を指差すと玲夢が首を傾げた。


「ヤンデレとメンヘラに比べたら楽だから?」

「そんなにあっさりしてて良いの?」

「やってみなきゃ分からないしな!」

「確かこの二人とデートの約束をしちゃったのよね? ヤバくない?」

「そうなんだよ! だから玲夢の協力が必要不可欠なんだ!」


 そう言って俺は玲夢の両肩を掴んだ。


「わ、分かったから離して……」


 玲夢は俺の勢いに呑まれて、言葉を失っていた。

 そして俺は立ち上がりノートを机の上に置く。


「俺にツンデレとデレデレの攻略を教えて下さい!」


         ◇


 昨日はあれからずっと妹のゲームをやっていた。攻略対象はツンデレからだ。

 いきなり二人も攻略するのは流石に厳しい。

 そして今日は妹の登校日!


「友達出来るかな?」

「あぁ、きっと出来るさ」


 妹と話していると後ろからいきなり目隠しをされ、足を止めた。


「だ〜れだ!」


 この声は……。

 一瞬ぞわっとしたが後ろを振り返ると幼馴染の一人が俺にべったりと腕にくっついて来て離してくれない。


「えーっと……」

「あ! 玲夢ちゃん、おはよう! 今日から海原高等学院の生徒だね!」

「あ、はい……」


 玲夢が少し怯えてるから止めてくれ!

 俺の幼馴染達の事を知ってるのは玲夢ぐらいだから、こいつが怖いのだろう。


 彼女の名前は日南ひなみ彩葉いろは

 オレンジのシュシュでしっかりと結んだ編み込みポニテ。

 艷のある黒髪に真っ赤に染まった緋眼はまるで宝石のように輝いていた。

 スタイル抜群、運動真剣抜群の彼女は結構色々な人からのスカウトを受けているらしい。

 そして彼女には一番関わりたくないと俺の脳が静かに囁いている。

 こいつはあの幼馴染の中でタイプ分けをするなら、ヤンデレ。

 通称、ヤンデレ自称彼女と名付けよう。

 ヤンデレと言うのは誰かを好き過ぎるあまり精神が病んで、独占欲が凄いとか。

 嫉妬が強いのもヤンデレの特徴だとか……。

 好きな人にはとことん尽くすタイプらしい。


「玲夢ちゃんはお兄ちゃん好き?」

「えーっと……」

「私はね、みっ君大好きだよ。玲夢ちゃんが妹で良かったって思ってるの。もしもね、家族以外の人がみっ君と話してるとこを見たら……」


 彩葉の表情は殺意に満ち溢れたような顔だ。

 攻略が難しいヤンデレ登場で俺は今にも腰が抜けそうになる。


「三人仲良く行こうね」

「「はい……」」

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