第4話 初めての女友達
何で華月さんが俺を呼び止めたんだ?
今まで
一年の時、クラスは別だったがいつも遠くから彼女の事を眺めて目の保養にしていただけで、話し掛ける勇気すら無かったんだ。
華月さんは男女問わず人気があって俺みたいな奴は相手なんてされる訳ないって思っていた。
なのに今俺の目の前にはあの華月さんが居て……。
「急に呼び止めちゃってごめんね」
「えっと、俺に何か用かな?」
「あ、その前に自己紹介かな。私、華月詩って言うの。詩って変な名前でしょ?」
自己紹介しなくても一年の時から知ってたよ!!
「自己紹介しなくても一年の時から知ってたよ」
「え?」
しまった!!
つい心の声が口が滑って出てしまった!
「あ、えーっと。俺、
「あ、ありがとう…」
何だこの空気は!
まるでドラマとかに出て来る告白現場みたいじゃないか!
本当にこれが告白なら俺は嬉しくて運動場を三周ぐらい走って来ても良いぐらいだ。
華月さんは俺から名前を褒められ少し頬を赤く染め、少し俯いていた。
「久遠君も湊って名前カッコいいと思う」
「え……。ありがとう」
「「……」」
また沈黙な空気が流れてしまう。
俺の心臓が持たない!!
二人で目を合わしては逸らし、また目が合えば逸らす。
何か会話……。男として俺が何か話題を作らなければ!!
「えーっと、今日は変なとこ見せてしまったよな! あいつ等は俺の幼馴染で、ちょっと……いやかなり変わってる奴等でさ」
「付き合ってるの?」
「いや、誰とも付き合っては居ないけど……」
「そっか」
そこでまた会話がストップする。
今まで話した事無かったから会話が続きそうにない。
学校から他の生徒達もいつの間にか出て来ていて、此処だと目立ちそうだ。
「此処だと目立っちゃうね。久遠君さえ良ければ帰りながらでも二人で話さない?」
「え? でも俺、四股してると言う噂あるし」
「さっき言ってたじゃん。誰とも付き合って居ないって。久遠君が浮気するような人には見えないし」
「信じてくれるのか?」
「信じるに決まってるよ! 久遠君の目は嘘を付いてる目じゃないから」
華月さんは俺に優しい眼差しを向け笑顔を見せてくれた。
華月さんは一年の時から変わっていない。
俺が最初彼女を見掛けたのは、入学式の日だった。
あの時の俺は少し寝坊をしてしまって、急いで学校に向かったら華月さんが桜の木の下で鼻歌を口ずさんでいるとこを見て、暫く立ち止まって聞いていたら……。
“『おはよう』”
あの時も俺に笑顔で挨拶をしてくれて、一目惚れ。
華月さんはもうあの時の事は忘れてるかも知れないけど、俺は覚えている。
だからこそ、高校では幼馴染に邪魔されなくて済みそうな少しレベルの高い海原高校を選んだのに、あの幼馴染達も俺と同じ高校を受験するとは。
どこまで俺を監視すればあいつ等は気が済むのだろうか。
「華月さん、俺を信じてくれてありがとう」
「うん! あ、そうだ。折角だから名前で呼び合わない?私の事は詩って呼んで欲しいな」
「いや、でも……!」
「詩って名前あまり好きじゃなかったのに久遠君が褒めてくれたんだもん。これは友達の証として!」
「華月さん……」
友達か。さっきまで俺は唯一の友達を失くしたばかりで正直落ち込んでいた。
四股してる俺とは誰も関わりたくないのだろう。
四股と言っても本当にしてる訳じゃない。
勝手にあの四人が彼女と自称してるだけで、実際は付き合っても居ないし、幼馴染の中で好きな人も居ない。
何故あの四人が俺の彼女だと自称するようになったかは分からない。
もしかすると勘違いさせるような発言を俺がしちゃったか、単にあいつ等が勝手に言ってるだけかも知れないけど。
「これからは湊君って呼ぶ事にするね!」
「あ、うん」
「ほら、湊君も!」
「今言わないと駄目か?」
「友達の証としてはここ大事!」
「分かったよ、う……詩」
「良くできました!」
俺が名前で呼ぶと、彼女は恥ずかしそうに少しはにかみ、俺の横に並び歩き出した。
初めて女の子の友達が出来た事に俺は嬉しかった。人生の中で彼女は勿論、幼馴染以外の女子と此処まで急接近になった事は今までに無かった。
だからなのか、何百倍も嬉しく感じるのは。
今だけは幼馴染達の事は忘れよう。
いきなり告白するよりも先ずは友達からとも言うし。
それで、もっと詩と仲良くなれたらその時は告白をしよう。
それで付き合う事が出来て、高校を卒業したら家を出て一人暮らしを始め、二人で同じ大学に入るんだ!
そうすれば今度こそ、あの幼馴染達とはおさらばだ!
「何かこうしてるとカップルみたいだね」
「か、カップル!?」
「あ、ごめんね!気を悪くしちゃって!」
「いや、別に大丈夫!」
「それなら良かった」
急に詩が俺の予想もしていない事を言うから少し戸惑ってしまった。
だけど、カップルか。
本当にそうなれたら良いんだけど……。
そして途中の道の分かれ道で俺達は足を止めた。
「じゃあ、私こっちだから。湊君、また明日学校でね!」
「あぁ! また明日な、詩」
お互い手を軽く振ると俺は彼女とは別の道に沿って歩いた。
さっきまで俺達は楽しく話していたのに急に静かになって少し寂しい。
すると誰かの足跡が聞こえ振り返ったら、詩が慌てて走って来た。
「え?詩!?」
「はぁ、はぁ……。間に合って良かった」
「どうしたんだ?」
詩は息を切らしながら走って来ると、一枚の紙切れを俺に渡してきた。
「私の連絡先。折角友達になれたのにお互い連絡先を知らないとか嫌だし」
「詩……」
「暇な時で良いから連絡してね! また明日!」
それだけ言うと詩はまた同じ道沿いを走って行った。
たったこれだけの為に走って来るとか、どんだけ真面目なんだ!!
その紙切れを制服の胸ポケットに入れ、俺は自宅に向かってまた歩き出した。
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