第3話 攻略対象 デレデレ(椿 紫乃)

         ◇


 朝、HR前に意気込んでいたあれは何だったんだろ。

 授業も終わり、帰りの準備をして帰ろうと思ったのち、待ち伏せしてたのか四人の幼馴染達がニコニコしながら廊下の窓際で待っていた。

 正直教室から出たくないんだけど。


 (知ってる? 去年もあの子達久遠君の教室に来てた……)

 (知ってる知ってる。でも付き合ってるなんて知らなかったよ。それもと)


 だから付き合ってねーーー!!

 勝手に向こうが自称してるだけだ!

 早く皆の誤解を解かないと、噂がもっとおかしな方向にいきそうだ。


「じゃあ、俺は帰るわ」

「え、颯夜もう帰るのか!?」

「だって湊と居たらこっちまで巻き込まれそうだから」

「何だよ、それ!!」


 裏切り者ーーー!!


 颯夜は俺の言葉を無視して教室から出て行ってしまった。

 唯一、クラスの中で話せるのが颯夜だけだったのに。

 俺、終わった?

 彼女作る以前に友達を失くした?

 俺は廊下で話してる幼馴染達をガン見してやった。


「湊がこっち見てる。いくら付き合ってるからって」

「違うよ! 彼女の私を見てるんだよ!」

「はぁ? 何言ってるの? みっ君は私だけしか見てないの。私はみっ君の彼女よ?」

「もしかして別れ話を持ち掛けて来るんじゃ……」


 あいつ等、凄い楽しそうで羨ましいな……。


 んな訳ねぇだろぉぉぉぉお!!!



 何勝手に盛り上がってんだよ!!

 俺が四股してると言う噂が広まったじゃないか!!

 付き合っても居ないのに、勝手な事言ってんじゃねーーー!!


 そんな心の叫びも虚しくなる。いくら叫んだって意味がない。

 この幼馴染達を先ずどうにかして攻略していかないと、俺の人生がここで終わってしまう。


 仕方あるまい。教室から出たら走るしか方法は無い。

 あいつ等に捕まったら絶対面倒くさい事になる。

 よし、3・2・1。


 ダッシュ!!


「あ、逃げた!」

「逃げても無ー駄。直ぐ捕まえちゃうんだから!」

「逃げるなんて酷いよ!」

「大丈夫! 私が捕まえるんだから♪」


 幼馴染達四人を横切り、俺は階段を降りた。階段を降りてから下駄箱へと向かう。

 下駄箱への距離はそんなに離れてはいないから直ぐに着けた。

 上履きから靴に履き替え正面玄関を出ようとした所で幼馴染達の中で一番足が速い彼女が追い付く。


「何で追い掛けて来てんだよ!」

「だってくーちゃんが逃げるから」


 彼女の名前は、椿つばき紫乃しの

 ストレートセミロングの金髪翠眼に目がくりくりっとした女の子だ。

 背丈は他の幼馴染と比べたら低く、容貌もロリに近い。

 普通なら癒やし系担当だろう。

 そして紫乃はあの四人のタイプ分けをするならデレデレタイプだ!

 デレデレ自称彼女と名付けておこう。


 幼馴染達の中では足はかなり速い方で、男の俺でも直ぐに追い付かれてしまう。

 俺がどんなに息を切らして走っても、紫乃は平然とした様子で俺の目の前に立つ。

 俺は他の三人が来る前に紫乃の手を取り、校舎裏へと連れて行った。


「きゃっ! くーちゃん、だいた〜ん! そんなに私と手を繋ぎたかったの?」


 うぜぇぇぇ!!!

 デレデレめんどくせぇよ!!


 校舎裏に着くと俺の目の前できゃっきゃっとはしゃいでいる女子が約一名居る。

 そして彼女は俺にデレデレだ。

 説明しよう!

 デレデレとは、そのままの意味で好きな人に対してデレる事である。

 アピールも凄いし、態度や姿勢に締まりが無い。

 それにこう言うタイプの女子に冷たい態度を取っても逆効果になるらしい。

 彼女の場合は!

 攻略するには少し難易度が高いか?


「あのさ、学校ではあまり引っ付かないで欲しいんだけどな……」

「恥ずかしいから?」

「いやいや! 恥ずかしいとかじゃなくて、学校は勉強する所。イチャつく場所じゃないのはお前だって分かるだろ?」

「た、確かにそうかも知れないね」


 好感度ゲージが右端に現れた。

 俺への好感度は90に下がってる。

 しかし、またMAXに戻ってしまったんだけど!?


「じゃあ、今度デートしようよ!」

「え? デート?」

「うん! 今週の日曜日とかどうかな?」

「わ、分かった。良いよ」

「やった!!」


 紫乃は嬉しそうに俺の目の前でジャンプをしていた。

 デレデレタイプの女子の好感度を下げるにはどうしたら良いんだ?

 幼馴染達の説明書があるなら絶対買うのに!!


「あ、そろそろ帰らないとお母さんが心配しちゃう。本当は一緒に帰ろうと思ったんだけどごめんね!」

「そっか! それは残念残念」


 俺の下手な演技でも紫乃は素直過ぎて、全く気付いてない様子だ。

 これが他の三人に通用するかどうかと言われたら話はまた別。

 紫乃は最後まで俺にデレデレで、手を大きくぶんぶんと振った後、スクールバッグを肩に掛け急いで帰って行った。

 今日だけで俺の精神が壊れそうなぐらい疲れて、いつまで精神が保てるか分からない。


 あれ? 今、今週の日曜日って言わなかったか?

 確か今週の日曜日って……。

 一瞬俺は血の気が引いた。

 二人も約束してしまっている事に!!

 これも帰ったら妹と作戦会かな……。


俺はスクールバッグを肩に掛け、校舎裏から出て校門前を通り過ぎる時だった。


「待って!」


 誰かに声を掛けられ後ろを振り返ったらそこには俺の片思いの相手、華月詩が息を切らし此方を見ていた。

 挨拶程度しか会話はしてなかったが、まさか挨拶以外にも話し掛けられるとは思ってもみなかった。

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