第11話 ヤンデレシミュレーション

 やっぱり俺の見間違いではなかったようだ。オレンジのシュシュに編み込みポニテと言ったら、こいつしか居ないだろ!!

 黒髪ポニーテールを揺らしながら、俺の事を此処まで追っ掛けて来たようだ。

 もしかしたら他の幼馴染達も何処かで俺の事を見張って居るのでは? と思ったが、彩葉以外の幼馴染達の姿が何処にも見えない。


「どうやって来た?」

「そんなに怒んないでよ♡私だって必死だったのよ? あの女、湊君の目の前で私に恥を欠かせてくれたんだから黙って帰る訳には行かないでしょ!」

「他の皆は?」

「あー、ジャンケンで負けたから帰って貰ったよ? もし約束を破って付いてきたら刺すよ? って言ったら帰っちゃった♡」


 いや、それ絶対ビビって帰っただけだろ!

てかいくら嫌いな幼馴染でも脅すのは許せんな!

 彩葉の好感度ゲージを確認してみると少しずつ、ゲージが回復していってるのに俺は気付いた。


 えーい!

 もうどうにでもなれ!!


「た、頼むから俺を嫌いになってくれ!!」


 俺は目を瞑って両手を合わせ、死ぬ覚悟で彩葉に頼み込んだ。

 彩葉が怖くて顔を上げられないでいると、俺の顔を覗き込みニコッと微笑んできた。


「分かった」

「え?」


 彩葉の言葉に俺は顔を上げると、何と好感度ゲージが有り難い事に一旦ストップしてくれてるではないか!!


「分かってくれたのか?」

「うん。みっ君を嫌いになれば良いのよね?」

「! あぁ……」


 何だ何だ? いきなりどうしたって言うんだ? もしかして彩葉って話せば分かる奴だったのか?

 こんなにあっさり攻略しちゃっても良いのか!?


「じゃあ、俺もう行くけど良いんだよな?」

「うん。大丈夫、ちゃんと嫌いになるからね」

「そっかそっか! じゃあ後は気を付けて帰れよ!」


 何か良く分からないけど、これってヤンデレ攻略で良いんだよな?

 でも少しだけ彩葉に違和感を覚えたのは何故だろうか。

 好感度ゲージは減っただけで、俺への好感度が0になった訳ではない。

 ⚠マークもいつの間にか消えていて、もう彩葉には怯えたりしなくて済んだのだろう。

 それが分かった途端俺は嬉しくて、急歩でフードコートに向かう。

 すれ違った人達が変なものでも見るかのように俺を見てきたが、気にする必要はない。

 フードコートへ行き詩を探していると、肩まで真っ直ぐに伸びた薄い茶髪の女子が椅子に腰を掛けて座っていた。

 俺が近付くと直ぐに気付いてくれて、席を立ち上がった。


「湊君、トイレ長い! 食べる時間無くなっちゃうでしょ?」

「あー、悪い! は、腹が痛くてさ」

「しょうがないから今日はドーナツね。ドーナツなら直ぐに食べられるでしょ?」


 そう言って詩から手渡された袋の中にはイチゴとチョコのポンデリングが二つぐらい入っていた。

 俺の為に態々買ってきてくれたらしい。

本当は男である俺が彼女の事をエスコートするのだが、今日はエスコート失敗だ。

 始めて女の子の友達が出来たのに男らしい所をまだ少しも見せられていないではないか!

 手渡されたドーナツを急いで食べ、映画館へと向かう。

上映時間15分前になると映画館でアナウンスが掛り、中へと通される。

 俺達は8番のスクリーンの所へ行き、真ん中の席へ。

 今日は以外とお客も少ないようで、俺達は快適に映画を楽しめそうだ。


         ◇


「面白かったぁ!」

「だな。特にあの俳優さんが飛び移るシーンとか!」

「うんうん! ヒロインの子も可愛かったし!」


 俺と詩は帰り際に先程観たばかりの映画で盛り上がっている最中だ。

 まさか詩もアクション映画を好きになるとは思わなかったから、同じ物を好きになってくれて嬉しい。


「それじゃあ、また明日学校でね!」

「あぁ! 帰り、気を付けて帰れよ?」

「うん!」


 詩に軽く手を振り、自分の家に向かって足を進めると誰かに後をつけられてる気がしてバッと振返ったが誰も居なかった。

 詩の姿は既に見えなくなってるし、人は誰も歩いていないから余計に怖くなった。

 そして、自分の自宅に向かって走り出すと気配も消え少し安心する。

 さっきの気配はきっと気のせいだろう。

 家に帰り着いた俺は質問箱の事を思い出す。玲夢から借りていたパソコンを開くと、カイさんのアカウントにDMを送ってみた。

 妹のアカウントを借りる兄ってどうなんだろうか。


『今お時間大丈夫ですか?』


送信っと。


 あの後急に詩からの着信があって、浮かれていたせいもあってすっかりカイさんの事を忘れていた。

 そこから10分後、カイさんから返信が来ると慌ててメールを開く。


『もしかして、自称彼女の攻略に苦戦している匿名様ですか?』


 この人良く質問した人が俺って分かったな。もしかして他の質問者が居なかったのか?

 取り敢えず俺も返信をする。


『はい、昨日は直ぐにDMが送れずすみません。実は今日、好きな人とデートをして来たばかりで』


 ——送信。


 ん? あれ?

 今俺、初対面の人に関係の無い話を送ってしまったんだが!?

 と、取り消しは……で、出来ないだと!!

 何て事だ。俺は妹のアカウントで何を送ってしまったんだ!!

 送ってしまったものは仕方が無いと、俺は諦める事にし、カイさんの返信を待ってみた。

 すると暫くしてからやっと返信が来た。


『微笑ましいです(笑)実は僕にも好きな人が居まして、今片想い中なんです』


 カイさんはノリが良い人なのか、関係の無い話でもしっかりと返してくれた。

 これがノリの悪い人だったら……。

 まぁ今はそんな事どうでも良い。

 そして俺はカイさんに今日あった事を伝えてみる事にする。


『ヤンデレ自称彼女の様子がおかしいのですが……』

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