第12話 二人きりには要注意

『ヤンデレ自称彼女がどうかしましたか?』

『どこから話せば良いのか分かりませんが、イ○ンモールまで追っ掛けて来たのですが、俺が嫌いになってくれと頼んだら素直に嫌いになるって言って……』

『嫌いになる、ですか……』


 カイさんにこんな事を話しても、顔の見えない相手をどうにかするのは難しい。

 いくら攻略部の人でも現実の女の子の攻略はきっと難しいだろう。

 そしてカイさんから返信が来た。


『ヤンデレは何を企んでるのか分からないから、一人になるのは避けてください。ヤンデレが簡単に好きな人を諦めるとは、僕は到底思いません』

『分かりました。ご相談に乗って頂きありがとうございます』


 そこで俺達の会話は終わった。

 一人になるのを避ければ大丈夫って事は分かった。後は彩葉をどうするかを考えなければならない。

 一人で悶々と考えているとコンコンと、俺の部屋をノックする音が聞こえた。


「兄ぃ? 今良い?」

「あー、玲夢か。どうした?」

「いや、パソコン使いたいから一回返して貰っても良いかな?」

「え? あー、分かった」


 すっかり忘れていたが、これは玲夢のパソコンじゃないか! 危うく自分の物にするとこだった。


「あ、そうそう。今度友達を連れてきても良い?」

「友達?」

「うん! 同じシミュレーションゲーム仲間!」

「あー、別に良いけど」

「ありがと!」


 パソコンを両手で、俺の部屋から出て行った。

 玲夢に友達か……。

 そういや、玲夢の友達が家に遊びに来ると言うのは初めてだ。

 その時になったら色々と何かを買っておこう。そしてその日は眠りについた。


        ◇


 (あれ……。此処はどこだ? 確か俺は自分の部屋で寝ていた筈だが……)


 きょろきょろと辺りを見回してみるが、暗くて何も見えない。

 どんなに歩いても壁にぶつかる事はないし、出口らしいものは何も見えない。

 分かる事と言えば、真っ暗な闇の中をずっと彷徨ってるぐらいだ。

 だけどきっと出口はある筈なんだ。

 出口がないなんて事は絶対有り得ない。

 そしてようやく見つけた光の先に人影が見えた。

 俺は人影に向かって走った。

 その人の前で立ち止まると声を掛けてみる事にする。


『あ、あの!』


 それまでは気付かなかったのだが、話し掛けた相手が悪かった。


『見ぃつけた♡』



「うわぁぁぁぁ!!!」


 慌てて起き上がると自分の部屋のベッドだった。俺の額には汗がびっしょりと濡れていて、はぁはぁと呼吸が激しい。

 夢の内容までは覚えていないが、さっきまでとんでもない悪夢を見ていたようだ。

 パジャマから制服に着替えリビングへと階段を下りる。

 母さんも父さんも朝が早いから、俺と玲夢は用意されている朝食をとり、テレビを見てみる。


『今日の天気は晴れのち雨! 出掛ける際は傘を忘れずに!』


「ご馳走さま」

「もう良いの?」

「あぁ、何だかお腹いっぱいでさ」

「珍しい。いつもならおかわりするのに」

「ははは。玲夢も急いで食べないと遅刻するぞ?」

「そうだった!」


 俺に言われ玲夢は止まっていた箸を動かす。そんなに慌てて食べたら喉に詰まるから、もう少しゆっくりでも良いと思うけど。

 家から出てバス停に向かうと俺はいつものように周りを警戒する。

 右、左、前、後ろ。

 うん、あいつ等は居ないようだ。

 いつも俺の事を朝からずっと見張ってるし、いつあいつ等に見つかるか分からないから油断は出来ない。

 急いでバスに乗り込み扉が閉まるのを確認。扉が閉まると急に全身の力が抜けたように、座席にへたり込む。

 何で俺だけ朝登校をするだけなのに、こんなにも疲れるんだ。

 暫くバスに揺られ俺等の通う高校近くになると降車ボタンを押した。

 プシューと開かれる扉を合図に俺と玲夢は、席から立ち上がりICカードを通してから降りる。

 学校へ着いた俺は早速だが全学年の注目の的だ。


(うわー、来たよあいつ)

(四股もしてるくせに良く学校に来れるよな)


 だから四股してねーーー!!

 勝手にあいつ等が自称してるだけだっての!!

 これっていつまで続くのだろうか。

 いい加減そろそろ、俺の噂終わってくれよ。


「何なの? 兄ぃが浮気とかする筈ないし。私が皆に言ってあげようか? 兄ぃは誰とも付き合っていないって」

「やめとけ。どうせもっと噂が酷くなるだけだ」

「で、でも!」

「俺は先に行く。お前まで巻き込んでしまっては折角の高校生活を潰してしまう事になる」

「兄ぃ……」


 俺は玲夢から離れ先に学校の中へと入った。こんなのは日常茶飯事だと思えば良い。

まだあの噂から四日しか経っていないが、きっと俺はこれからも浮気男だと言うレッテルを貼られ、周囲からは避けられる始末。

 いつか詩からも嫌われちゃうんだろうな。

 それを考えたら少しだけ自分が嫌になる。

 自分の教室前に着くと直ぐに教室には入れず、俺は保健室へ。

 元はと言えば、あの幼馴染達のせいじゃないか。なのに何で俺だけこんな目に遭う?

 明らかにおかしいだろ!!

 保健室に着くと気分が悪いと言うことを先生に伝え少しだけベッドに横になる。


「ははは……。これじゃあまるで、保健室登校してる生徒じゃないか」


 そんな言葉と同時に突然、保健室の扉が開かれた。確認せずとも誰が入って来たのか直ぐに分かる。


「大丈夫!? くーちゃん!」

「気分が悪いって本当?」

「みぃ君の教室に行ったらまだ来ていないって言ってたから、あちこち探し回ったんだよ?」

「そしたらね、保健の先生とバッタリ会っちゃって、みっ君の居場所を聞き出したの♡」



一斉に俺に話し掛けて来るんじゃねーー!!

 こっちはお前達のせいで気分が悪いんだよ!!

 後、聞き出したって発言怖いんだけど!?

 やっぱり先に攻略するのはヤンデレの方が良いのか?

 そんな事を考えていると彩葉がニコッと俺に向けて微笑んで来た。


「私、みっ君に話があるから三人は先に教室に戻っててくれない?」


 彩葉が三人に合図をすると、素直にこくりと頷き保健室から出て行った。

 あの三人が素直に聞き入れるって、彩葉は一体あの三人に何を吹き込んだんだよ!

 三人の幼馴染達が保健室から出て行くのを確認すると、彩葉が急に俺に近付いて来た。


「これでみっ君と私は二人きり♡もう逃げられないね」

「は?」


 言ってる意味が分からず、彩葉を見ているとガチャと鈍い音が俺の近くで鳴った。

 音が鳴った自分の手首に目線を向けると、鉄のがかけられていて……。


「私がみっ君を嫌いになる訳ないでしょ? あの女から言いくるめられてるだけだよね?」

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