第13話 幼馴染の様子

「は? 何言って……」

「だ・か・ら〜、あの女から何か言われたんでしょ?」


 あの女と言うのは間違いなく詩の事だ。

 だけど本当の事を話したとしても、こいつは俺を疑うに違いない。

 そこで俺は脳内で三つの選択肢を出してみた。


 この状況をどうする?

 1、誤魔化す

 2、本当の事を話す

 3、スキを見て逃げる


 うん、どれもハズレな気がする。

 そもそも何故こいつは手錠を学校に持って来てるんだよ!

 彩葉のクラスは持ち物検査とか無いのか!? しかし四人とも同じクラスなのには驚いた。

 俺なんて幼馴染達とクラスが離れているし、運が良かっただけなのか?


「話してくれるなら、手錠を外してあげるよ?」


 いや、嘘だ。顔は笑っているけど目が笑っていない。

 でもこの状況がいつまでも続くとは限らない。何故なら保健の先生だってずっと不在なわけでもないだろうし、今ここでこいつの時間稼ぎさえ出来れば保健の先生がそのうち戻って来る。

 それまで俺が持ち堪えられるかは分からないけど。


「彩葉はさ、何でそこまで俺に執着してるんだ? 彩葉ぐらいの美人さんなら俺以上にいい男が居ると思うけど」


「……本当にそう思ってる?」

「え?」


 彩葉はさっきまでの表情とは裏腹に、真面目な顔で俺に聞き返した。

 さっきまで俺を見てニヤニヤしていた彼女だったが、今は明らかに様子がおかしい。


「みっ君以上にいい男? そんな人居るわけないじゃん……」

「彩葉……?」


 カチャ、と音が鳴り腕を見れば手錠は外され彩葉は俺から離れていき、保健室から出て行った。

 何がなんだか俺にはよく分からない。

 最後に好感度を確認してみたら、20しか残ってなかった。

 追い掛けようとも思ったが、追い掛けたとこでまた俺への好感度が上がるだけ。

 それを考えたらこのまま放置してる方が良いのかも知れない。

 少しすると他の幼馴染達が俺の所へ息を切らしながらやって来た。


「みぃ君、彩葉に何か言ったの?」

「雨衣? どうしたんだよ、他の二人も」


 雨衣は俺のベッドの横に来ると、はぁはぁと息を吐き出しながら聞いてきた。

 そして他の二人も息を切らしているようだ。


「い、彩葉が居なくなったのよ!」

「え……? 居なくなった?」

「くーちゃんなら何か知ってるかなと思ったんだけど」


 そういえば明らかに彩葉の様子がおかしかった。手錠をしたかと思えば、俺以上にいい男が居ると思うって言った途端、急に彩葉の表情が変わり手錠を外してくれた。

 そして俺への好感度も下がっていた。


「ごめん、皆。あいつ探してくる」


 やっぱり俺って、自称彼女達の攻略は無理なんかなぁ。すぐに同情しちゃうし。

 相談に乗ってもらったカイさんには悪いが、昔からの馴染みって事もあり俺には無視なんて出来やしない。

 廊下を走っていると途中の曲がり角で誰かとぶつかってしまい、相手を突き飛ばしてしまった。


「……っ!」

「ごめん! 怪我はないか? 俺が廊下で走ったから」

「いぇ……。大丈夫です」


 尻餅をついてるに手を差し伸べたが、俺の手を取ることなく自分で立ち上がった。

 相手のネクタイを確認すると色は赤。

 つまり一年生って事になる。一年生と言えば玲夢と同級って事だ。

 黒髪の男子は俺に頭を下げ、すたすたと俺の横を通りすぎて行った。

 廊下を走るのは止めとこう。

 またいつ人にぶつかるかも分からないし。

 そして、廊下の壁には『走るな!』と書かれたポスターが貼られてあった。


         ◇


「それで結局、一日中走り回っていたの?」

「まぁ、そうだな」


 昼休み、幼馴染達の教室を覗いてみると彩葉の姿がどこにも見えず、突然早退したとの事だった。

 あいつが早退とか珍しい。


「今日はあの幼馴染達は、一緒じゃないんだね」

「……」



『ごめん、湊。私達今日は彩葉の家に行ってみる』

『本当はくーちゃんと一緒に帰りたかったんだけど、一応幼馴染としては心配だし』

『悲しまないで。明日は一緒に帰ってあげるから』


 謝る必要などない。何故なら俺は今、詩と二人で一緒に帰れて最高に幸せだからだ。

 そして俺は今、詩とファーストフード店に居る!


「ねぇ湊君、これ美味しいよ!」


 アップルパイを口に頬張る彼女を見て俺は、リスみたいで可愛いなどと勝手に思ってしまった。

 これってデートじゃね?

 他の客を見てみると、男女のカップルがあちこちの席に座って「あーん」とかしたり、二人でドリンクの飲み合いっこをしたり、見てるこっちが恥ずかしい。

 周りから見れば俺達もカップルに見えているのだろうか?

 そうだと嬉しい、なんてな……。


「あ、そうそう。折角だから湊君には紹介しておこうと思って、ここに呼んでみたけど良かったかな?」

「紹介?」

「うん。私の大切な人」

「大切?」


 詩の友達だろうか? 誰であろうと詩の友達なら大歓迎だ!


「詩!」


 突然俺の背後から、ハスキーな声が聞こえ振り返って気付いた。

 黒の学ランに身を包み、赤いネクタイをしてる男子生徒。


「あ、やっと来た!」


 俺が廊下でぶつかった黒髪男子が、詩に手を振りながら俺達が座ってる席まで歩いてきた。

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