第17話 ツンデレを攻略!

「えーっと美月姫……?」

「湊に聞きたい事があるの」

「聞きたい事?」


 口を開いたかと思えば突然、美月姫からそんな言葉が出る。


「朝、私が下駄箱前で湊の制服の裾を掴んだでしょ? 少し話したい事があったんだけど、あの三人も居たから話せなくて……」


 言うのを躊躇っているのか、美月姫は口をもごもごさせながら途中から何を言ってるのか分からない。

 あの三人には言えない事なのだろうか。

 そして美月姫はいきなり俺の頬を擦ってきた。


「美月姫……?」


 攻略対象なのに、何故か今の俺は美月姫から頬に触れられただけでドキドキしている。

 こんなのおかしい。確かに顔は美人だけど、相手は自称彼女。

 俺が好きなのは詩で、幼馴染達に恋愛感情は少しも抱いてはいない。


「湊はさ、四人の中で誰が一番好きなの?」

「え……?」


 そんな質問をされたら返答に困るのは俺。

 好きな人を簡単に答えられるはずもなく、別の理由を探してみるが見つからない。

 美月姫は俺の目をしっかりと捉えていて、離してはくれない。


「私、別に湊から好きとか言われたい訳じゃないけど、たまには言ってくれても良いのよ? 私はね、湊の事……」


 え、これキスされる!?

 顔が近い!!


 1、かわす

 2、目を瞑る


 今回は二択しか俺の脳内には表示されていない。俺への好感度を0にするのがクリア条件。

 確かツンデレは素直じゃないと玲夢が言っていた。それなら三つ目の選択肢ぐらい表示しろよ!


 3、迫れ


 は? 何だこれ……。

 三つ目の選択肢は

 どういう事なのか分からない。

 迫ったら逆に喜ばないか?

 ん、喜ぶ? いや、相手はツンデレ。

 それなら……!


「は? な、何いきなり!」


 恥ずかしいけど、美月姫を思いっきり抱きしめてみる。そーっと美月姫の顔を窺ってみると、想像以上に美月姫の顔はトマトのように真っ赤に染まっていた。

 好感度は、20も減少して80になっていた。嫌われるにはまだまだだ!

 女の子から嫌われたい、だなんて他の人がそれを知ったら絶対笑うだろう。

 バカバカしいと思われるかも知れないが、最善を尽くすにはこの方法しかない。

 ツンデレなら攻めは弱いはずだ!


「湊君……?」

「え?」


 美月姫を抱き締めたまま横を見ると、詩が驚愕したままその場で立ち尽くしていた。

 すっかり忘れていたのだが、ここは俺のクラス、2年C組の前。

 そして俺は発汗させながら固唾を呑む。


「こ、これはその……」

「湊……。早く離してくれない?」


 俺の腕の中に顔を埋めた美月姫の声は少し籠もっていた。

 慌てて美月姫を離すと顔を真っ赤にしたまま、目には涙が溜まっている。

 そして一番見られたくなかった詩に、この現場を見られてしまい、今すぐここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


「私を○す気?」

「あー、違うんだ! 何て言うかその……」


 妥当な理由が見つからず、あたふたしていると美月姫からいきなりビンタをされた俺の右の頬はヒリヒリして痛い。


「そんなに私の事を抱き締めたいなら、少しは場所を考えなさいよね!」


 それだけを言うと美月姫は俺に背を向け、自分のクラスへと歩いて行く。

 その時に一瞬だけ見えた美月姫の好感度が50に減少していた。

 嫌われる為なら手段を選ばない。

 それがこの俺、久遠湊だ!!

 しかし、今俺の目の前に居る詩には何と説明をするか考えてみたがツンデレの攻略で頭がいっぱいだったせいか、選択肢が表示されなくなった。


「美月姫さんと仲良いんだね?」

「あ、えーっと……」

「もしかして付き合ってるの?」


 あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!

 一番誤解されたくなかった人から誤解をされてしまったぁぁぁぁぁ!!


「付き合ってはない!」

「え? でも普通に抱きしめ合ってたよね?」

「ち、違う! これは攻略するにあたって必要な行動と言うか、俺のやり方と言いますか……」

「抱きしめ合う事がそうなの?」

「ぐっ……」


 詩から問い詰められ言葉が詰まる。

 そして俺は後悔した。やるなら誰も居ない屋上でやるべきだったと。


         ◇


 お昼休み食堂へ向かっていると、幼馴染達が一つのテーブルに四人で座っているのが見えた。


「みぃ君だ」

「やっぱり来ると思ってたんだぁ! みっ君と私は赤い糸で結ばれてるもんね」

「えー? くーちゃんと赤い糸で結ばれてるのは私だよ?」


 俺の姿を見る度にこいつらは、一々呼び掛けて来る。他の生徒達から見られてるからやめてくれ。


「ごちそうさま」


 先に食べ終わったらしい美月姫は椅子から立ち上がると、食器を返却口まで返しに行った。いつもの美月姫なら俺の側まで来るはずなのだが……。


「み、美月姫!」

「……」

「さっきの事なんだが……」

「丁度良かった」

「え?」


 ふわっと優しいシャンプーの香りを漂わせ、俺の目の前まで来るといきなり柔らかい物が俺の口を塞いだ。

 確認しなくてもすぐに分かる。


「「「美月姫!」」」


「ごめん、やっぱり湊の事好き」


「……へ?」


 少し目を疑ったが、美月姫の好感度が彩葉の時と同じように好感度レベルが2へと、ランクアップ。

 そして、このによって、幼馴染(自称彼女)達の行動が大きく変わろうとしていた——。

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