第15話 バスの中で

 幼馴染達四人と妹の玲夢、そしてこの俺。

 今バスに乗って学校へ向かってる途中なんだが、幼馴染達が俺の取り合いをしています。


「だ〜か〜ら〜。湊は私と座る予定だったの!」

「はぁ? 美月姫はじゃんけんで負けたんだから、みっ君は勝った私と座るべきでしょ?」

「ち、違うよ! わ、私とだもん!」

「くーちゃんは照れ屋だから、座ってくれないのは仕方ないよね」


 そう、俺と一緒に座るのは誰かをこいつらは勝手にじゃんけんで勝負して決めていた。

 しかし、俺はこいつらの勝負を無視して玲夢と一緒に座席へ座ったらバスの中で揉め出す幼馴染四人組。

 バスの運転手の顔が鏡越しに見えていて、運転しながらハンドルを人差し指でとんとんしていた。

 そろそろマイクで注意されるぞ!


「あのさ、今バスの中だし揉めるなら降りてからでも……」

「大体彩葉は私達を刃物で脅し、湊をイ○ンモールまで追いかけたでしょ!」

「そ、そうだよ。幼馴染を脅すのは良くないよ」

「くーちゃんを取られたくない気持ちは分かるけど、それは私達も同じだしね〜」

「私はどんな事をしてでもみっ君と一緒に居るって決めてるの。おばちゃんだって私とみっ君のお付き合いを認めてくれたのよ?」


 認めた?


「何言ってるの? 湊のおばちゃんが付き合いを認めてくれたのはこの私なんだからね!」


 は?


「違う! みぃ君のおばちゃんから認められたのは私だもん!」


 ちょっと待て。

 話が見えてこないんだが。


「皆勘違いしてるとこ悪いんだけど、くーちゃんのおばちゃんが彼女と認めてくれたのは私だよ?」


 やっと理解出来た。こいつらが俺のだと自称するようになったのって、もしかして……。


「四人とも少し良いか?」

「「「「何?」」」」


 俺が四人に呼びかけると全員が俺に目線を移す。


「俺、お前たちに付き合おうなんて言ったか?」


 四人に聞いてみると互いに顔を合わせ、また俺に目線を移した。


「「「「おばちゃんに言われた」」」」

「はぁ!?」


 待て待て待て!

 それ俺の言葉じゃないよな!

 俺の母さんの言葉だよな!!


「前ね、みっ君の家に上がらせてもらった時におばちゃんから「湊に付き合ってくれる?」って頼まれたの♪」


 何勝手にこいつを上がらせてんだよ!後、の意味、絶対違うだろ!


「それなら私だって頼まれたわよ? 「湊はあんなんだけど、付き合ってくれたら嬉しいな」って」


 おいっ!

 何か勘違いしてるだろ!


「私も「湊に付き合ってあげてね」って言われたよ!」


 だからそれ付き添いの意味だろ!


「私は「湊の側に居てあげてね」って言われた」


 雨衣に関しては絶対違うだろ!!

と言う単語はどこにいった!


 心の中でこいつらにツッコんでも意味がない。だけど、だとする意味ぐらいは分かった。

 全部、母さんのせいじゃねーか!!!!!


 自称する意味が分からなくてずっとモヤモヤしていた気持ちがすっと全身から抜けたかのような感覚だ。


「もう何も言わなくていい……」


『ごほごほっ』


 急にバスの運転手が咳払いをし、俺たちは話すのをやめた。

 座席に座ってる若い男性や老人、女性の人から注目の的になっていて、全員ジロッと俺達を見ていた。


「すみません!」


 何故か謝ったのは俺。

 元はと言えばこいつらが声を荒らげて話すのがいけないと思うんだが。

 俺だけが謝るのはおかしい。

 早いとこ幼馴染達に嫌われないと、どんどんエスカレートしていってしまう。

 だけど、どうやったらこいつらから嫌われるのか分からない。

 俺の事が好きすぎるあまり、簡単には嫌いになれないのだろう。

 幼馴染達に見えないように俺は、スクールバッグからを取り出した。


「兄ぃ、それ学校にまで持って来てたの?」

「しっ。あいつらにバレるだろ? この攻略ノートに、ツンデレ、ヤンデレ、メンヘラ、デレデレについて分かった事を書き足すんだよ」

「あはは……。兄ぃは色々と悩みがあって大変だね」

「そういうお前は全然悩みがなさそうで羨ましいけどな」

「二人で何話してるの?」

「紫乃! な、何でもないから!」


『お客様、乗車中はお静かにお願いします』


「す、すみません……」


 我慢の限界だったのか、とうとうマイクで注意をされてしまった。

 謝ったのは俺だけど。

 こいつらは自分達が言われてるとは思ってもいないだろう。少しは自覚してほしい。



 もうこいつらとは一生バスに乗らないからな!!

 そして気付けば俺たちの高校がバスの中から見えた。

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