第26話 帝都見学

 面白そうなことに関して俺達の行動力は途轍もない。

 帝国との戦争が終わってから1週間後、俺たちはお忍びで帝国の首都へと赴いた。

 ついて来たのはシーラ、キーラ、マナ、ゼルセラの四人だ。

 当然だが、全員変装済みだ。

 恐らく俺の姿はばれているだろうし、せっかくの旅行が台無しになるのも避けたい。

 そこで俺は異世界人に扮することにした。

 俺の変装に関しては黒髪の美男子だ。

 異世界人が多いというのなら紛れるのは容易い。

 シーラとキーラは銀髪から黒髪に変更し、ゼルセラは羽と天使の輪を収納した。

 マナは姫っぽい衣装から一般の吸血鬼が着てそうな服装に変更しただけだが、衣装が変わっただけでその美貌が衰えることはない。

 美女四人を連れる美男子。

 当然目立つ。


 帝国への不法入国を果たした俺たちはあえて堂々と大通りを歩いた。

 王国よりも活気があるのが不思議で仕方がなかった。

 帝国は俺達王国との戦争で200万の人員を失い財政的にも人員的にも苦労していると思ったのだ。

 それが...悲しみに暮れている住民は一人としていなかった。

 町は活気にあふれ皆活き活きとしている。


「おかしくないかしら?200万人死んだのよ?」


 マナから疑問の声が上がるが俺だってそうだ。

 俺だって思ったが立場上そう軽々しくわからない事があってはならないのだ。

 そこで俺はいつもの様にこっそりとシーラに伺いを立てる。

 シーラ曰く。

 戦争に駆り出されたのは思念隊だそうだ。

 思念隊、実態が乗り移ったアバターとでも言うべき存在、俺やカオスが最近遊んでいる骸骨と鎧に近い。


 シーラの推理は必中だ。

 そのことを踏まえるとするなら、あの戦争の兵団はすべて偽りだったという事だ。

 そりゃあ、悲しむ者が居ないのは納得だ。

 ゲームでアバターが死んだからと言って悲しむ者はいないのと同じ。

 戦争にアバターを利用するあたり...童帝は中々頭の切れる奴のようだ。


 適当に宿屋を見繕った。

 周りが一緒が良いと言うので5人でも泊まれる大部屋を取る羽目になった...。


 夜中、周りが寝静まったのを確認した後俺はこっそりと宿屋を抜けある店に向かった。

 しっかりと毒耐性を切りアルコールを飲めるようにしておく。

 夜中女に黙ってこっそりと行く場所は決まっている。

 昼間こっそりと探していた飲み屋。

 エルフのお姉さんやケモミミのお姉さんらが経営するガールズバー。


 異世界のガールズバー...かわいくないわけが無い!


 今の俺は普通の青年、つまり覇王として取り繕う必要もないので思う存分遊ぶ。

 久しぶりの酒だ...綺麗な人に尺してもらいたいものだ。


 高まる気持ちを抑えることもせずに店に突入する。

 開いた瞬間に出迎えの声とホルスタイン柄の巨乳っ娘が出迎えくれた。


「いらっしゃいませ~お一人様ですか?」

「はい、一人です」


 鼻の下を伸ばしながら人差し指を立てて一人をアピールする。


「こちらへどうぞ~」


 牛娘の後をついて歩きその容姿を眺める。

 全体的に豊満で、それでいてデブという訳では無い、ボンキュンボンという表現が一番ぴったりだろう。

 胸は常人では考えられないほどに大きいが....獣人種、その中でも牛という種族の特徴だろう。

 牛娘...いいな...。


 席に着くとそのまま牛娘の子が席に座るのでこの子が接客してくれるのだろう。

 手始めに軽めの酒を頼み世間話を始める。

 最初からセクハラなんてするわけにはいかないのだ...この子が乳牛かどうかなんて聞くわけにはいかないのだ。


「今日はどうしてここに来てくださったんですか?」

「昼間たまたま見かけたからね、お忍びで来てるからできれば内緒にね」


 特にばらされて困る事もないしこの姿の時は実名を名乗るグレースではなく、佐藤健太という前世の名前を。

 健太なんて名前明らかに日本人だとばれてしまうだろう。


「ケンタ様は異世界から来たんですか?」

「いや、僕は王国の貴族だよ」

「へぇ王国からなんですね~」


 酒のペースも進み牛娘との仲も徐々に深まっていく。

 気分も良くなり少し高めの酒もガンガン注文する。まさに大盤振る舞いだ。

 金に困っているわけでは無い。


 すると追加でキャストさんが呼ばれた。

 エルフの娘にケモミミの娘、悪魔っ娘、さらに人魚と美少女。

 様々な種族の娘を新しく席に迎え入れ、酒の注文にも拍車が掛る。

 イケイケの新しく入ってきた子達とは違い最初から居た子は支払いの事を気にしてくれる。


「注文ペース早くなってきてますがお支払いは大丈夫なんですか...」


 黄色い歓声が飛び交うこの状況でお金きついのでこの辺で...と止めるのはさすがに野暮というものだろう。

 俺は貨幣の中で最も高価な大金貨を5枚取り出した。

 金貨は一枚でもあれば町でも最上級の部屋に泊まることができる。

 冒険者などが泊まる宿は小部屋で銅貨3枚、大部屋で銀貨一枚。

 修羅の世界で金はほとんど使用していないのでこちらの世界に来て初めてかもしれない。

 俺の脳内では銅貨は10円玉、銀貨は100円玉、金貨は1万円札、大金貨は100万円。という認識だった。


 だが...キャストの中に居た異世界出身の人間が言うには大金貨は一枚で1億の価値があるという。


 え...?。


 だから庶民は疎か貴族の間でもめったに出回らないとの事。

 一晩飲み明かしたとしても大金貨1枚で事足りるむしろお釣りが出るほどだ。

 それを5枚も出してしまったのだ、キャストさん達も驚きを通り越し唖然と言った表情を浮かべている。

 そんなに高価なものだったのか.....


 こっそり4枚を懐に戻し酒を飲み干す。これから気を付ければいいのだ。

 ふと店内を見渡せば女性の客もいることに気付く。

 金髪に赤目で黒を基調としたコートを羽織る.....


 え...何故マナがここに...?。


 一瞬にして酔いが醒めた。

 冷静さが戻った俺は即座に対処方法を考える。

 ちらりとマナの様子を伺うと最初からキャストが二人も既についている。

 何をエンジョイしてるんじゃい!!


 ふと、頭に浮かんだのは俺を探しに来た訳じゃない説だ。

 単純にこの店に遊びに来た可能性がかなり高くなった。

 というか...

 あいつ...酒弱いな...それにあれではほぼセクハラをする質の悪いおっさんだ。

 女同しだから許されている様なもの...いや...あの美貌にキャストがやられているのか...。


「どうかなさいましたか?」


 隣に座る牛娘が落ち着きを取り戻した俺のことを不審に思ったのか顔を覗き込んでくる。

 無理もない...修羅場かもしれないのだ。


「先程からあちらのお客様を覗かれてますが...」

「いや、そうじゃなくてね...」

「美しい方ですもんね...」


 気まずい空気になってしまった...。

 そもそも、キャストよりも可愛い客が来るのはまずいだろ...。

 完全に場はシラケてしまい完全にお通夜だ...。


 徐々に客が増えたことも重なり一人また一人と俺の席から離れていった。


「あはは...お客さん増えてきましたね...でも、安心してください!私はお時間までしっかりお傍に居るので!」


 という言葉がかなり心にダメージとなり刺さったが、それでも屈託の無い笑顔を浮かべるので悲しくなり許すことにした...。


「王国じゃこんなお店無いわ!この店だけでも来た甲斐があったの言うものよ」


 店内に「お嬢様~」という黄色い歓声が響く。

 随分エンジョイしてるな...いや、ほんとに...。


「もしかしてお知り合いの方ですか??」

「え?あぁ...まぁ、それなりに」

「もしかして立場的にまずいお方ですか...?」


 確かに立場的には非常にまずい。

 いっそばらしてしまっても構わない気がしなくもない。

 どうせ、この席には俺と牛娘しかいないのだから...。


「あれは...俺の妻だよ...」

「はぁ...え?えっ?!?!?!」


 さすがに驚いたのかお酒を吹き出す牛娘。

謝罪しながら吹き出した箇所を拭き冷静さを取り戻そうとしている。無理もないか...


「嫁と妹を連れて帝国に遊びに来て、夜だし適当なところ行こうと思ってたんだけど....」

「だ、大丈夫なんですか?!奥様と同じお店で....あわわわわわ」


 動揺が簡単に伝わってきた。


「大丈夫だよ、今は見た目も変えてるし」

「そうですか...え?」


 見た目は変えている、まぁこの見た目自体はバレているけど...

 ひとまずの牛娘を落ち着かせこの話題から離れることにする。


「そういえば...王国と帝国って少し前に戦争してたけど来て大丈夫だったのかな?」

「戦争ですか?」


 頭に疑問符を浮かべるので俺も疑問符を浮かべる。


「大きい戦争があったみたいだよ、詳しくは知らないんだけどさ」

「そんなことがあったんですね」


 戦争があったことを知らない??

 それはおかしい...

 あの数のアバターを同時に使役するなど可能な技ではない、いや...それを可能とするのが童帝という事なのか?

 話をしているとどこかの席から興味深い内容の会話が聞こえてくる。


「見てよ、俺のキャラ、最近新しい装備ゲットしてさ~」

「あら、すごいレア度の装備ですね~」

「だろ~苦労したんだよ~」


 キャラ?レア度?

 それじゃあまるでゲームじゃないか。

 いや、もしかして...


「君のキャラ見せてくれたりする?」

「え?いいですけど...ご存じだったんですね」

「今、聞こえてきてさ、君もやってるのかなぁって」

「少々お待ちくださいね」


 そういい、一度控室に向かった牛娘を見送り酒を飲む。

 住民の一人一人がゲームと思い込みキャラクターを育てそれを国が管理する...戦争でそのキャラクターを戦わせれば自国への損害はほとんどない。

 例えキャラクターが戦場で死んだとしてもデータは残るので問題はない...。

 ならば...


「お待たせしました~」


 差し出されたのは黒い板だ。

 いや....久しく見てなかったから、わからなかったが、これはスマホだ。

 え...この国こんなに中世的な街並みしてスマホ普及してるの?!

 電気使ってる様子もないし、一体どうやって....充電...いや...電力を魔力で補っているの...か...?。

 スマホの中のアプリにこの世界に酷似したゲームがあった。


「今の流行りはこのアプリですね~MMOって言ってモンスター倒したり色々出来て冒険者になったみたいなことが出来るんですよ!」

「やっぱりやってたんだね」


 あたかも自分もやってますよアピールをしておく。

 その隙に最高速の解析能力を屈指しスマホを解析し俺専用のスマホの組み立てる。

 アプリも入れ、面倒なのでシステムを改竄し俺のアバターである骸骨のタナティスのデータをコピーし入れておく。


「こう見えても私結構このアプリに嵌ってて、仕事の時以外は基本的にやっているのでかなり高ランカーなんですよ!レベルはなんと85、ステータスの平均は9000越え、さらに最高レア度の装備も揃えました!!その分お金掛かっちゃいましたけど...」

「へぇすごいね」


 あぁ心が痛む。

 俺のタナティスのレベルは9999...ステータスに関しては表示がバグっている。

 このアプリ99999以上の数値には対応してないようだ...。


「さっき君も!って言ってましたけどやってるんですか!?」


 好きだからだろう、圧がかなりある。

 バレるだろうなぁ...

 ふとアプリを見れば対戦という機能がある。


「じゃあ対戦しよっか」

「はい!!負けませんよ~」


 そうして始まった戦いは俺の全勝。まぁ当然だけど。


「強いです!強すぎです!!装備構成見せてくださいよ!!」

「ダメダメ!勝ったら見せてあげるよ」


 このゲーム以外に楽しい。

 人気なのもうなずける。


 酒を飲むのも忘れゲームに没頭する。

 ある程度堪能した所でふいに我に戻り、時間を確認する。

 思いのほか時間がたっており、店内には俺とマナくらいだった。

 なんでそんな長居してんだよ...。


「今日はそろそろ帰らせてもらうよ」


 会計はすでに済ませてある。

 大金貨一枚でお釣りがくるほどに...。

 面倒なのでお釣りはもらってないが...。


 店の外まで見送り来てくれたので少しだけ驚かすことにする。


「今日はありがとね」

「ご来店ありがとうございました!良かったらまた来てくださいね、次は必ずリベンジして見せますから!」

「あはは、期待しているよ」


 驚かせるなら、やっぱり俺が姿を現すのがいいだろう。

 今の黒髪の青年も可愛がられて楽しいが、やはり元の身体はグレースなのだから。

 俺は変装を解除し銀髪のロングヘア―に赤いメッシュの髪形に戻し服装も白を基調とし炎の刺繍がされているロングコートに戻す。


 っふ。堕ちたな。

 グレースは誰が見たってイケメン。

 堕ちない女など居ないのだから。

 必殺技のイケメンの頭なでなでを発動させ優しく微笑む。


「はわわわわ////」

「じゃあ、また遊びに来させてもらうぞ」

「はい...///」


 さっきまでの威勢はなくなりしおらしくなる牛娘をかわいく思う。

 さてと、せっかく元の姿に戻ったのだ、やることは一つ。


「あそこの女を呼んできてもらえるか」

「え?あぁ奥様ですね!畏まりました!」


 あえて腕を組み多少の魔力を開放する。

 もちろん店に危害を加えるつもりは無い。

 あくまでもマナにだけだ。

 俺の魔力に気が付いたのか、気まずそうに店を後にしようとするマナに対して俺は一言。


「会計!!」


 あんだけセクハラして、あんだけ長居してただで帰ろうなんて絶対に許さない。

 店内のキャストの子達も俺に夢中になっている。

 残念だったなマナ、ここの子達はすでに俺の虜だ。ガハハ。


 マナとの気まずい空気になりながらも今回の件をきっちりと説明してもらった。

 正直どうでもいい。


「それで、何してたんだ?」

「えっと...イチャイチャかしら...」

「だろうな、まぁいいさ、というか、女好きだろ?」

「だってかわいいんだもの...うちの所の子達ってみんな忠誠心強すぎるのよ...」


 あぁその気持ちはわかる。

 まぁ男と遊んでいた訳では無いのだし、俺も遊んでいた訳だし責めるつもりは無い。

 ただ...もう少し、女らしくイチャイチャしてほしものだ、できればおっさん実を消して欲しい。


 そうして帰路に就いた俺たちの長いようで短いガールズバー見学は終わったのだった。

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