第2話 獣人の少年少女

 ジルニルと二人でしばらくの間可愛い部屋と言うものを思考錯誤していると部屋のドアが叩かれる。

 一応この部屋の先輩としてジルニルが返事をする。

 主従関係の立場ではないと信じたい。


「はーい」


 ジルニルが返事をすると先ほど聞いた事のある寮母さんの優しい声が聞こえてくる。

 扉を開ける事無く寮母さんは話を始める。


「ここの寮、今年からだからしっかりとした説明と寮生の顔合わせをしようと思ってるんだけど...どうかしら」


 ジルニルは寮母さんからの言葉を聞くとこちらに視線を向けてくる。

 この場合は、「どうしますか?」だろう。

 当然説明を受けるべきだろう。

 私は首を縦に振るとジルニルは参加の旨を寮母さんに伝える。


 そんなことより...ジルニルは何故扉を開けないのだろうか...。

 恐らくルノアールやドミナミからの英才教育として扉は安全が確証されるまで開けてはならないと教わっているのだろうが...。

 普通の少女達がそんな事を常に心がけている訳がないだろうに...。


「ジルちゃん...扉開けていいよ」


 私の言葉を聞くとジルニルは迷わずに扉を開ける。


「あら?扉を開けてくれるの?別によかったの....え...」


 寮母さんは私たちの部屋を見て目を点にする。

 しまった...いやここは...。

 私はジルニルの脳内に誤魔化すように告げる。

 覇王様から魔法道具を貰ったとでも言えばどうとでもなるだろう。


「どうかしましたか?」


 ジルニルはまずあくまでも平然を装う作戦を取るようだ。

 驚きを通り越して呆然と言った表情の寮母さんは引き攣った笑顔を浮かべながらジルニルに質問をする。


「さっきまで普通の部屋だったわよね?あれ・この部屋だけ特別だったかしら...」

「えっと...ご主人様から魔法道具マジックアイテムを頂いたので試しに使ってみたのですがまずかったでしょうか?」

「まずくわないのだけど...すごい技術ね...流石と言うべきでしょうか...」

「はい!流石ご主人様です!!」


 主を褒められたのが余程嬉しかったのか満面の笑みを浮かべる。

 正直恥ずかしいのでやめて欲しい...。

 悪口ではないので気分は悪くないが...。


「とりあえず皆をロビーに皆を集めてるのでジルニルさんとリリィさんもロビーに向かってくださいね」


 ジルニルと顔を見合わせると無性に照れくさいので私は急ぎ足で寮のロビーに向かった。

 私が向かうと私の後ろをトコトコとついて来るので少しペースを落とし隣に並ぶ。


「よろしいのですか?」

「よろしいもなにも...私たちは友達でしょ?だったら上下関係は無しだよ」

「畏まりました...」


 何故...少し悲しそうなのだろうか...。

 時々配下の気持ちがわからないが従者とは上下関係が欲しいものなのだろうか...。

 私としては常に上下関係なく友達や仲間の様に接したいと言うのに...。


 そんな事を考えながら廊下を歩いていくと恐らく寮生だと思われる獣人の一行と通路で鉢合わせる事になった。

 恐らく、犬、猫、兎、獅子、虎、狼、狐、蛇、鳥....最後のこいつは...なんだ?

 他の者達は特徴的な部位があるのでわかりやすいのだが、最期の一匹だけ特徴を複数持っているのだ。

 猫の様な耳を持っているが鳥らしい翼を生やし蛇のような尻尾を生やしている。


「キメラかな?」

「キメラ...ですか?」

「詳しい動物はわかんないけどたぶん色んな動物の特徴を合わせたんだと思う」


 一目見ただけで猫と取りと蛇が合わさっている事が分かる。

 しっかりと見ればもっと分かるだろうが下手にスキルを使用して私の実力がばれてしまうとこれからの生活に支障がでそうだ。

 チラチラとこちらを見てくる犬の獣人の少女と何度か目が合ってしまう。

 犬の少女は目が合う度にこちらに手を振り無邪気な笑みを浮かべる。

 その度に虎と狼と獅子の獣人に睨み付けられるのだ。

 人間はやはり嫌われているのだろうか...。

 権力が無い今、少女としてはとても生きずらいかもしれないが...これは一種の興味心なのだ。

 人間が他種族からどう思われているか、覇王としての俺の前では基本的にどの種族で在っても平伏を余儀なくされている。

 だが、今の様に一般の少女だとすると、圧倒的に格下だと思われてしまう。

 相手のステータスはジルニルに遠く及ばないので戦力的に恐ろしい訳ではない。

 ある意味、私が危害を加えられた時にジルニルのスキルが発動しないかが少し心配ではある。

 今の少女の肉体では総HP量が少ないので多少のダメージでジルニルの覚醒を促してしまう可能性を秘めている。

 そもそもこの偽りの肉体で覚醒するかさえ怪しい所ではあるのだが...。

 ぜひともこの獣人の少女たちと仲良くなりたい、いや仲良くなるべきだ!!

 期待に胸を膨らませながらロビーに向かう。

 チラチラとこちらを見る犬の獣人の子になんとなく手を振ってみると尻尾をおおきく振りながらこちらへと近づいてきてしまった。

 え...来なくていいのに....

 主に...


「おいおいそんなのに構ってないで行くぞ」


 私に近づく犬の獣人を引き留める様に狼はこちらを睨みつける。

 何かした記憶も何か恨まれる覚えもないのにも関らずこの対応...。


「ルイ!行くぞ、厄介事は御免だ」


 狼だけでなく獅子までもが私を厄介者扱いする様にさすがのジルニルもご立腹な様子。


「ちょっと失礼じゃないですか!!リリィちゃん何もしてないのに!!」

「いいよジルちゃん」


 ジルニルが私の為に怒ってるだけで少し嬉しいのでこの獣人の子達の態度にそこまで怒っている訳ではない。

 だからこそジルニルを宥める。

 例えここで喧嘩になったとしてもジルニルならば大丈夫だろうが獣人の少女達と仲良くなれなくなる可能性があるのでできれば避けたい。


「天使が人間とつるむなんて珍しい事もあるんだな」

「私は天使じゃない...」


 蛇を思わせる糸目の青年はなんでもないかのように言う、その独り言ともいえる言葉にジルニルは反応してしまう。

 天使の輪に白銀の翼。

 誰がどう見たって天使だと言うのにそれを否定する。


「私の種族名はフリューゲル」


 ほとんどの獣人の子達が聞いた事も無い種族名に戸惑う中、様々な特徴を持つキメラ個体だけはジルニルを警戒の眼差しで見つめる。

 所詮は学生に満たない子達と侮っていたが、このキメラ個体はジルニルの強さに気付いている様だ。

 フリューゲル。

 それは俺自身が作り出した特別な種族。

 厳密にはフリューゲルを少し改良したのでフリューゲル 改が正しいがほぼ神話の世界でも語られないフリューゲルと言う種族。

 それを一般の学生が知るわけがないのだ。


「聞いた事も無い種族だな...固有スキルとかあるのか?」

「うん、初期スキルで能力吸収は持ってる」


 ジルニルは何気なく答えたようだが場は静まりかえる。

 なんで言ってしまうんだ...能力吸収なんて最上級のスキルだと言うのに... 


「なら一回戦ってみようぜ?!そんなスキルを持ってるなら強ェ―んだろ?」


 首や手の骨を鳴らしながら準備運動を始める狼。


「やめた方がいい。負けるよ」


 キメラ個体の少女が冷徹に狼に告げる。

 それに対して声を荒げながら対抗する狼、それに対してキメラ個体は冷静にジルニルを分析する。


「人間の方なら負けないけどこっちの天使は無理よ」

「はぁ?!」


 獣人達はキメラ個体が言ったことに驚愕しジルニルから少し距離を取るように動く。


「嘘だろ!?メキアより強いってのか?!」


 驚く獅子に対し冷静に頷くメキアと言われたキメラ個体の少女。

 驚く少年少女達を裏に私は自分の偽装が完璧に出来ている事が嬉しくて仕方がなかった。

 それにしてもメキアだっけ?ジルニルの強さに気付けてるようだが正直私の強さにも気付いて欲しかった所ではある。

 普段の時もシーラの偽装が完璧すぎてほとんど相手にこちらの強さが伝わることが無い。

 まぁ...それに関しては相手の脳がステータスを解析した時にショートしてしまうからなのだが...。

 それもあって偽装をしておかないとそれだけで相手が戦闘不能になってしまう。

 ジルニルは戦闘態勢を取っている訳ではないが獣人達に緊張が走る。


「なにか問題でもありましたかー?」


 険悪ムードの救い手の様に寮母さんが訪れ獣人達の緊張が解ける。

 寮母さんの方を見てみれば付き添いの様に一人の魔法使いが立っていた。


「えっと紹介しますね。こちら学院の魔法科の責任者のリーエン様です」


 何故リーエンがこんな所に来ているかは分からないが顔馴染みが見れて少しは安心できた。

 勝手にリーエンは俺の弟子を名乗ってるが認めたつもりはない、それでもある程度の忠誠はあるようなので配下として置いてはいるが、未だに力は与えて居ないし、時空の狭間も使用させてはいない。


「今日はこの寮制度の初日として訪ねたけど、一触即発な雰囲気のようね」

「申し訳ありません...私が目を離した隙に...」

「まだ初日だから仕方ないわ、それにしても師匠の配下の人に喧嘩を売るなんてあなた達すごい勇気ね」


 リーエンは妖艶な笑みを浮かべながら獣人達をなめる様に視線を動かす。

 全員を見終わったリーエンはあからさまにため息をつく。


「なんだ...気付いたのは一人だけなのね...」


 恐らくメキアの事だろう。

 多少でも相手との力量差がわかれば戦うと言う行為は愚策中の愚策でしかない。


「とりあえず問題は起こさない様に、それと戦闘行為を行うなら必ず模擬戦かランキング戦のどちらかを宣言する事。いいわね?」

「はい...」


 獣人達は返事をするとロビーへ向かった。

 恐らくリーエンのステータス程度ならば解析が出来たのだろう。

 だからこそ大人しく従ったのだ。

 私とジルニルもロビーへ向かう。

 私は正直感心していた。

 リーエンにはいろんな一面があると言う事。

 私の前ではただの雑用係にしか過ぎないが他の者達の前では貫禄というか強者の雰囲気を出している。


 私とジルニルがロビーに着くとそこには既に様々な種族の寮生が集合していた。

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