第3話 寮生達との顔合わせ

 私とジルニルがロビーに着くとそこには既に様々な種族の面々が顔を揃えていた。

 といってもすべて同盟を組んだ魔王達の子孫やら住民たちだ。


 吸血鬼、蜘蛛人、獣人、巨人、鬼人、そして最後に私とジルニルの人間に天使。

協力的な魔王が収める国の学生が来てくれた後はマーシャとサーシャの配下になった竜種の配下辺りが―――


「すいませーーーん!!!遅れちゃいましたか?!!!」


 遅れて来た少女には大きな羽とトカゲの様な尻尾が生えている。

 つまりはドラゴンだ。龍ではなく竜でありワイバーンからより人に近いしい知性を蓄えた種族だ。だが、いまだ未熟な為人に化けることが出来ないでいた、なので指輪を渡し人化を可能にしたのだ。


「まだ人型の調整がうまく出来なくて...」


 その少女は笑顔を振りまくが他の寮生達はほとんどがドン引きだ。

 ドラゴンとは普通に生きて居れば滅多に出会う存在ではない、そんな希少種があっさりと出てくるのだ。

 恐怖に慄く者、その魔力に魅了されるもの。

 私はと言うと...その姿に魅了されていた。

 綺麗な白髪に青い瞳そして豊満な胸。

 ふつくしい...。

 その少女は寮生達を見回しジルニルの所で視線を止める。


「あ!フリューゲル様ですよね!?ぜひとも覇王様と龍神様に感謝をお伝えください!!この姿で居られるのもあの方々のお陰ですから!!」

「はい!私はフリューゲルのジルニルと言います!!これからよろしくお願いします!えーっと...」

「シェリアです!!」


 ジルニルとドラゴンの少女シェリアの会話に寮生達がどよめく。

今シェリアが言ったように龍神―――つまりはマーシャもこの計画に協力してもらているドラゴンの頂点たるマーシャの協力があれば学生の派遣なんて簡単なものだ。


「竜種とも繋がりがあるなんて...」

「魔王様より言われていたけど...覇王...規格外の化け物....」


 何人か私の事を化け物と言っているが...ここは我慢。

 後で魔王達にお灸を据えよう...。


「顔合わせも済んだようなのでこの寮の詳しい説明を行いますね」


 え?顔合わせこれで終わり?自己紹介とか無いの?

 ないならば仕方がない...みんなの名前を覚えるチャンスだったのだが...。


「まずは...この寮に関して門限はありません。ただし!覇王様の領地のみとなります。覇王領から出た場合厳罰になります」


 ほう、そんな規則ができたのか...。

 私の知らない所で色々な事が進んでるようだ。

 寮母さんもといハイエルフのマリー。

 もとは修羅の世界の住民であり、子供が好きと言う理由から寮の運営を任せてみたのだ。


「あの、厳罰とは具体的にどのような物でしょうか?」


 獣人の中の鳥類と思われる翼を生やした大人の色気が溢れる女性が厳罰の内容について問う。

 正直これに関しては私も気になっている。

 寮のルールに関してはマリーに一任しているので私は内容を知らない。

 そもそも規則などを作った時や新しい企画を作った時は秘書のマナに話が行く流れとなっている。

 ゼルセラは教師になったのでその代役としてマナが立候補したのだ。

 単に暇だっただけな気もするけど...。

 寮母さんは迷う事無く質問に答える。

 ここで内緒とか言われたら逆に怖くて規則を破る気にもならないが...。


「他の規則でも厳罰は良く出るのでこれを機に説明しますね。

 まず、誰が何をしたかを覇王様にしっかりと報告したうえで直接謝罪に行って貰います。厳罰と言うのはその場で覇王様に決めていただくので、私が罰を決める訳ではありませんいいですね?」


 寮母さんの言葉に空気が凍ってしまった。

 私も例外なく驚いている。

 前部私に丸投げじゃん...そんなことある?

 あ、でも...いいかも...と少し思い脳内でほくそ笑む

 これは私の元に謝罪に来た人を見たうえで罰として悪戯的なことが出来ると言う事。

 よくやったぞマリー!!

 これであの猫耳と犬耳はこの私の物だ。フハハハ!!邪悪な笑を浮かべ私は話の行く先を見守る。


「ちょっと待ってください!!それはもし問題を起こしたら何をされるかわからないと言う事ですか?!!」


 意外と丁寧な口調で巨人族の少女は声を上げる。


「そうですよ?基本的に覇王様の言う事は絶対です!それに規則に関してもそこまで理不尽なものではありません。

 まず、日が沈むまでに覇王領内に居る事、覇王領内にさえ居れば門限はありません。もちろん昼間は覇王領から出ても構いません。ここまでは良いですか?」


 全員が理解している事を確認すると寮母は話を続ける。


「覇王領にいれば基本的に安全です。なので夜道を歩く事は危険ではありません。

 あなた方の安全の為です。同盟を結んだとはいえ人間の国に魔族が来ることを良く思わない人間も多く居ます。覇王様はそれを嘆いておられましたが...その人間達から守る為にある規則なのでしっかりと守ってください。

 覇王様はあなた方に感謝しているのです、不安もある中勇気を出してくれたことに...だから私たちも貴方たちを全力で守ります。

 人間は欲深く醜い生き物です...それは覇王様もおっしゃられていました...

 あっすいませんすべての人間がと言う意味では無いですよ!!一部の人間がと言う話です」


 急に私に気を使われて正直びっくりした。

 話しに夢中になりあまり気にしてなかったが...

 そういえば...俺....今普通の女子だった...。


「気にしないでください...私もそう思ってますから」


 素直に打ち明けると寮母さんはほっとしたのか胸を撫で下ろす。


「配慮の足りない発言申し訳ありません...これからは気を付けますので」


 寮母さんは私に謝っているが私自身は特に気にしていない。

 それなのにも関らず何故か寮生達からは憐みの視線を向けられる。

 やめて?!私悲しくないから?そんな憐れまれると逆に可哀想になるじゃない!!


「話を戻させていただきますね。基本的に門限さえ守ってくれれば大概の事は許してあげます。いいですね?」


 案外緩い規則すぎて拍子抜けも良い所だがどうせ色々と規則は増えて行くことだろう。


「それだけ...ですか?」


 規則の少なさに他の寮生達も呆然としてしまっている。

 規則やらなにやらでガチガチに固まった平和なんてそんなものは支配となんら変わりはない。

 ただ今の現状でなんのルールも無くしてしまうと流石に争いは置き最悪の場合戦争に発展してしまう恐れがある。

 私が一国の王ならばそれを施行することも可能だが残念ながら私は王ではないのだから。


「それにしても...ドラゴンもそうだがまさかプライドの高い大鬼オーガ族がこの学院寮に参加するとはな」


 巨人族の男が鷹揚と呟く。

 巨人族とは言えどある指輪のお陰で普通の人間ほどのサイズに代わっている。

 身長は2メートルくらいなので普通の人間よりはかなり大柄ではあるが...。

 そんな大男の視線の先にはオーガ族の男女達だ。

 リーダーと思しき鬼は怒りに眉を顰める。


「俺たちだって若....姫様が言わなければ参加しなかったさ。それと俺たちは大鬼ではなく鬼人だ。二度と間違えるな」


 リーダーのらしき男は口籠りながらも巨人族の男に返答をしその場を去ってしまった。

 それに続くように他の鬼人達はその場を後にする。

 だが一人だけ置いてけぼりになったのか目を閉じ腕を組んだままの金髪に漆黒の一本角が特徴的な鬼人の少女が立ったまま寝ている。


「あの~~皆さん行っちゃいましたよ...?」

「んあ!?」


 吸血鬼の少女が優しく声を掛けると鬼人の少女はようやく目を覚ました。

 あたりをキョロキョロと見渡した後少し冷静になり堂々と宣言する。


「私はみんなにここでの話を伝える役目があるから!!」


 苦し紛れの言い訳を少し可愛くも思う。

 ふむ、この子も候補に入れるとしよう。

 それはいいとして...。


「あの他には規則ってないんですか?」


 ちょっと気になるので私自らそれを聞いてみる。

 だが返答は寂しい物だった。


「ありませんよ。門限さえ守ってくれれば自由です」


 これでは規則を破った少女を俺の元へ来させる計画があってないようなものだ...。


「では、説明は以上となりますので明日は遅刻しない様に気を付けてくださいね」


 これで解散???

 正直来なくてもよかったなと思い私とジルニルもその場を去ろうとするとある一団が私たち、主にジルニルを引き留める。


「お引止めして申し訳ありません。私どもから一言だけ、覇王様にお伝えください」

「なんでしょうか?」

『お嬢様を救って頂き感謝しています。我ら吸血鬼一同覇王様に絶対の忠誠を捧げます』

「はい!しっかりと伝えておきますね!!」


 むず痒い気持ちを抑え吸血鬼の一団に背を向け部屋へと戻る。

 周りに人が居ない事を確認した後私に近寄り笑みを浮かべる。


「よかったですねリリィちゃん!!みなさん感謝してるみたいですよ」

「さぁね」


 余裕そうにはぐらかしてみたが内心はあまりの恥ずかしさに今すぐにでも覇王城に帰りたくなるほど。

 この先もこうゆう事はあるだろう、逆もまたしかり私のことを恨む者達も多く存在している事だろう。

 気にしても仕方がないし特に気にする気もないが。

 さっきの吸血鬼達も私の配下であるジルニルには敬意を払っていたようだが私自身は視界にも居れてなかった様子。

 それ程までに私の変身が完璧だと言う事に多少の満足感は得ているがこの状態時は少し寂しくもある。

 普通に接してほしい反面従って欲しいと言う気持ちが心の中で反発しあっているのだ。

 この葛藤は抗いがたく自分に素直になるしかない、つまりどちらも経験すれば済む事と思い変身してみたんだが...結果は御覧の通りだ。

 

「この後はどうしますか?」

「ご飯でも食べに行くよ!!」


 私とジルニルは料理を食べ歩く事にした。

 私はこの普通の少女としての自分の街を見て見たかったのだ。

 今の自分に対し修羅から来た住民たちはどのような態度を取るのか。


 興味がある反面少し怖くもあった。

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