第6話 救われた幻獣
俺が寮に備えられている応接室に戻ると指示通り残っていた4人の視線は真っすぐ俺へと向けられた。
正直マナからの視線が痛い。
「それであの子はなんなの?」
マナから突然飛んできた質問に肩が跳ね上がる。
部屋に戻った以上俺に聞く事があるのは当然だろう。むしろ俺が驚くという事はなにか俺にやましいことがあると伝わってしまう。
だからここは....
「あれは只の人間だからな...人間は脆い生き物だ、放っておけばすぐに死ぬだろう」
「人間ってそんなに脆かったかしら...」
「ただの人間なんて俺が何もしなくても死ぬんだぞ!俺が気を配るのも当然だろ!」
「それくらい私だってしてるわよ!!さっきだって魔力開放したのだってほんの一部だったんだから!」
「あぁ?俺も解放してやろうか?」
お互い魔力を漏らしながら言い合う。その様子にメキアはもちろんマリーも怯えてしまっている。
『奥様!!お客様の前ですよ』
突然現れた銀髪の少女によりマナは宥められる。
特徴的なのはメイド服を纏っている事だろうか。
俺の眷属であるシルビアだ。美しい見た目は俺の眷属なのだから当然だろう。
「シルビア...どうしてあなたがここに...」
「奥様の魔力を感じたので揉め事かと思いつい...」
シルビアの登場に正直俺は助かった。このままだと夫婦喧嘩を晒し俺の計画が露呈し全てが台無しになる恐れがあった。ありがとうシルビア...。
俺とマナの会話を聞きさらにもう一人の強者が突然現れたことによりキメラの少女は引き攣った顔をしている。
俺たちの力は本当の意味で次元が違う。こちらの世界の生き物など取るに足らない存在に過ぎないのだ。
触れる物は脆く壊れやすい、俺達はある種の枷に囚われている状況ともいえる。
そんな俺のストレス発散方法...それは...
「用は済んだようだな....俺は行くぞ」
「ちょっと待ちなさいよ...せっかく来たんだからこの子の罰を考えなさいよ...」
そそくさとその場を去ろうとする俺をマナが引き留める、まぁ正直マナの言う事も一理ある。
というより、これでは俺が来た意味がまるでない。
だが、罰と言われても正直思いつかないのが現状だった。
俺は改めてキメラの少女、もとい【
様々な獣の特徴を取り入れいつでも自由に力を発揮できる彼女はある意味一石二鳥なのではないのか...
一人で何度もおいしいとはこの事だ。
「そうだな...俺の配下にでもなるか?そしてこの事は秘密だ。もし獣王国の連中に何か言われたら俺に伝えろ。俺が直々にあの獣王に話を付けてやろう」
「それだけでしょうか...?」
「もっとあった方がいいか?まぁひとまずは学園生活を満喫してくれ、ジルニルとリリィとも仲良くして貰えると助かるな」
「はい...覇王様の多大なるご慈悲に感謝感激でございます...」
その言葉にメキアは膝を付き配下としての姿勢を取った。
そんなに畏まらなくてもいいのだが...。
「それとお前自身秘密兵器の様に扱われていたのなら世間を知らないだろ?安全なこの地で色々と学ぶと良い」
「はっ!!」
なんだか仰々しすぎる様な気もするが...
とりあえず罰も決まったので俺はその場を去る。
俺が転移した先は俺の妹であるキーラの元だ。
用があるのはキーラと言うよりキーラの中にいる
―――――――――――――――――――――――
覇王は台風の様に去って行った。
その事に吸血鬼の女性は呆れたように溜息を付いた。
理解が追い付かないほどの旋風に戸惑う。吸血鬼の女性はロール掛かった髪を指で弄りながら私の方に向き直る。
「グレースの言っていた通りよ。しばらくは魔法学院を満喫すること、そしてもし獣王国の上層部が接触してきたら連絡をする事。いいわね?」
「はい!」
迷う事なく返事をする。強者に計画がばれたのにも関らず生きている。さらにはその絶対的な強者達から命の保証までして貰えたのだ。私の方針は決まったと言える。あとはそれをみんなに説明し納得してもらえるかどうか...。
この目で見た瞬間に理解した。覇王とは正真正銘の化け物でりその配下も化け物と言う事、敵対自体が愚かな行為であり敵対を選ぶことは死を意味する。
この吸血鬼の女性の先ほどの魔力。圧倒敵だった、だが、それはほんの一部だったらしい。
もし仮に本気で解放していたらどうなっていたのか見当もつかない。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。改めて名乗るわ!
私は覇王の第一妃スカーレット・ジル・ノヴァよ」
私は丁寧に返事をした。すると突然視界が切り替わった。
見慣れた顔に見覚えのある家具。
「うぅ....メキアちゃぁぁぁん!!」
涙を溢れさせ私に抱き着くバニステルの頭をそっと撫で私は覇王様に感謝を捧げた。
もしも本当に理不尽な存在ならば私はこうしてこの子の頭を撫でる事なんてなかったのだから。
その力は恐ろしいが覇王様と第一妃のスカーレット様はとてもお優しい人達だ。
敵対はありえない、あとは私の努力次第。
私は決意を固め先にバニステルに今起きたことを細かく説明した。
―――――――――――――――――――――――
俺が覇王城に備えられているキーラの部屋の手前に転移すると即座に俺の横に当番のフリューゲルが転移してくる。
この当番制...正直邪魔だとも思う、だが、しかしこれは彼女達が好意で行っている事。
なんでもできる俺の雑用をこなすフリューゲル。正直フリューゲルはどの子も可愛いし戦闘においても役に立つ、さらには博識でもある。こと戦闘面に関して彼女たちは変態である。
そんな彼女たちに雑用をさせるのは勿体ないのだ。
当番の子はもちろん警備、事務、料理場、接待。
フリューゲルはこの程度の雑務を行う為に生み出したのではない。
そんな事を思いながら今日の当番であるフリューゲルに目をやる。
お前かよ....
ルノアール。
彼女はゼルセラに次ぐ実力者である。
戦闘面では劣るがそれ以外で二人の能力はほとんど同じと言える。
そんな彼女は強さと同じくフリューゲルのナンバー2と言える。そんな逸材が....今日1日は俺の雑用。
優秀な彼女をこんな場所で遊ばせるのは勿体ない。
智天使クラスである彼女は何をやらせても卒なくこなすだろう。
それこそ現在教員として活動中のゼルセラの代わりとしてフリューゲルの統括をおこなって貰っている。
そんな、重鎮が俺の雑用??
ノンノン....。
「仕事に戻れ」
俺がそれだけ伝えルノアールを転移させようとすると困った顔でルノアールは俺を説得しようとする。
「お願いします!!!!今日だけですから!!」
「ルノ...皆の統括を行っているのだから俺に割く時間は無いはずだろ...」
「そう言っても当番なんですから!ここで私が当番の仕事をしていなかったなんてゼルに知られたら私大変な事になっちゃいます!!!」
などとルノアールは俺に泣きつく。【大変な事】この言葉に興味はある、一体どんな運命が待っているのだろうか...と、どうせなら見てみようかとも思ったが、潤んだ瞳で俺を見つめてくるルノアールの可愛さに俺は負けた。
「仕方がない...だが...手は出すなよ?」
「はい!!お任せを!!」
本当に大丈夫なんだろうか...一抹の不安はあるが俺は先の不安をその時の俺に丸投げしてキーラの部屋のドアをノックした。
すると直ぐに返事が返ってくる、入室の許可が下りたので扉を開き部屋に入る。
肩に着くか着かないくらいの銀髪の内側に桃色のメッシュが入っている。肌は白く瞳は俺と同じワインレッド妹のシーラよりも発育が良い。どことは言わんが...。
幼さの残る表情はとても可愛らしい。
「兄様!どうかしましたか?」
「いやちょっと混沌に用が合ってな....変われるか?」
「うんちょと待ってね」
そう言い目を閉じるキーラ。再び目を開くと先ほどまで白かった結膜、俗にゆう白目が真っ黒に変わっている。これは
「なんだ?我輩は今少し忙しいぞ」
「なにかしてたのか?」
「あぁ、我輩とお前の倒し方をキーラと考えていてな。結果はわからないと言う事が分かっただけだがな!ガハハ」
「俺たちの倒し方ならあるぞ?俺は前に負けてるからな」
その言葉に今まで見た事無いほど驚いた混沌は俺ににじり寄ってくる。
正直鬼気迫るといった感じに俺にしがみつく。その様子にルノアールは多少の戦闘態勢を取ったが俺はそれを静止させる。
「教えろ!!一体誰が私達に勝ったと言うのだ...そんなのあるはずがない....」
こういった状態になったら口で説明しても無駄だろう。俺とこいつはまさに理不尽の象徴。
負ける予想なんてしたこともないし負けるとも思っていない。
だが、俺は負けた。それは混沌が戦ったとしても負けるかもしれないと言う事。
混沌が気になるのも頷ける話だ。
ならば手取り早く見に行くことにしよう。
「これに宿ると良い」
俺は指を鳴らし混沌の依り代にするべく人体を創造した。
迷うことなく混沌はその肉体に宿りなんの変哲もない人体はやがて混沌の魔力を経て変化が出始める。
地面に付きそうな程の長さを誇る真っ赤な長髪をツインテールで結ぶ準褐色ともいえる肌の色をしている。
だが...相変わらずだ...。
「なぜいつも服を着ないんだ...お前ってやつは...」
「お前こそ何故だ。我輩とお前の身体は既に完成している。わざわざ防具を付ける必要はないだろう?」
「そう言ってもな...」
俺は多少目を泳がせたが見るべきものはしっかりと見ている。まぁ見えないのだが。
混沌には局部が存在しない。種を残す必要も無いので存在すらしないのだ。
でも不思議な事に乳房は存在する。それさえなければ混沌に色気は無い。
本当にそうだろうか...ある意味彼女の言っていることは正しい、陰部が無い以上隠す必要は無い。
それを完成と彼女は言っているが....俺はそうは思わない、確かに永劫を生きるのであれば子孫は必要ない。
だが...
「お前って...子供居なかったっけ?」
俺は混沌に素直に聞く事にした。
世界がまだ何も無かった頃に混沌が生まれそこから神が生まれたと。もしこの伝承が真実だとするならば混沌は神達を生んだ母だと言える。だが、真相は呆気ない物だった。
「私は神を生んだ覚えはない!私は世界を産んだのだ」
これが比喩表現なのか真実なのか...俺にはわからない。俺がさらに追及するよりも早く俺と混沌はキーラを残し次元の狭間に向かった。
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