第25話 戦後処理

 一体なんだというのだ....。

 わが軍は優勢のはずだった、アンデットの大群の出現にわが軍はかなりの動揺を見せたが突如アンデットが消えたのだ。

 指揮官に命を下し突撃を敢行した。

 不自然なアンデットの消失。明らかに罠だ、だが...幸い軍の士気は高い。

 何が来るのかと思えばその後突撃してきたのは烏合の衆だ、統率力は無く一人一人が只暴れているだけだ。


 先程の不可解な爆発もそうだが、明らかに王国軍の様子がおかしい、主戦力と思われたアンデットも消失し攻めてきたのは死への恐怖を忘れ無謀な突撃を繰り返す連中。なにかが起きたとしか考えられない。

 それに...死への恐怖を失った獣は恐ろしく精強だ。

 統率力は無いが、一人ひとりの戦闘力に関しては相手方の方が上だ。

 そもそも...なぜ陛下は異世界人を配備してくださらなかったのか...。

 異世界人はほとんどの者が特殊なスキルを持ち一騎当千の力を備えている。

 その力があればこの戦争はもっと優位に立てただろう。

 あの方から力を持った我々であれば対処できるだろう...


 俺とて炎の力を手に入れたのだ、異世界人の連中には劣らないと自負している。

 ならば俺も戦場に出るとしよう。

 俺が出れば済むのだ、ならばこれ以上無駄に犠牲を出す必要もあるまい。


「俺は出るぞ、指揮は任せる」

「はっ!!」


 神話級の装備を纏い黄金の戦馬で戦場を駆ける。

 俺の姿を見て驚く者も多い。


「あれが炎帝様!!」「炎帝様が出陣なされたぞ!!」


 手始めに広範囲魔法だ。

 あの方から授かった炎の力。その力は絶大だ。

 一つの魔法で一つの陣営が崩壊していく。敵の焼ける匂いが心地よい。

 所詮は亜人の民衆。俺の敵ではない。


 久しぶりの単騎駆けは楽しかった。

 この世は弱肉強食、弱きは淘汰される定めなのだ!!


 王国軍の真ん中で暴れまわる。すると俺のすぐ近くに雷撃が落ちてくる。

 落雷と共に地上に降りたのは黄金の鬣を獅子の様になびかせる大漢だ。


「雷帝...貴様何をしに来た!俺の戦いを邪魔する気か?」

「ふん、雑魚に用はない、ただ、相手の思惑が気になっただけの事、貴様がしたい戦いはその辺でしていろ、俺は本陣を叩く」

「待て抜け駆けは許さん!!」


 幸い俺が切り開いた活路をしっかりと後軍が突き進んでいるので雑兵の相手は気にしなくていいだろう。問題は奴の言動、王国軍の大将の首を陛下に捧げるつもりなのだ、断じて許されぬ!戦果を挙げるのはこの俺だ。


 走り行く雷帝の後を追う。

 奴は雷から生み出された馬に乗っている。雷馬ライトニングホースに触れられた者はもれなく感電死。

 馬は常に帯電しており周囲に電撃を放つその破竹の勢いは止まらず王国軍を突き崩す。


「ふん!雑魚共が!!」


 雷帝の進撃は続く...だが、そんな進撃も終わりを迎える。

 王国兵が引いていくのだ。

 大地が王国兵を護るように動き雷帝の追撃を阻止する。

 さらに大地は動き俺と雷帝を大地の牢獄へと閉じ込める。


 だが、その程度障害にはならない、大地を爆破し脱出をする。

 その間に軍も行軍してきたようで俺たちの元で陣形を整えている。

 戦場は静寂に包まれる。

 一体何が始まろうと言うのだ...


 突如世界に夜が訪れる

 真っ赤な月明かりに照らされ天使と思しき生命体が舞い降りる。

 白銀の翼に桃色の髪、それぞれが手にする得物はどれ程の価値が付くかわからないほどの業物。神話級の武器ですら劣る伝説の武器の様に思えた。

 あれが噂に聞く覇王の配下のフリューゲルだろうか...大げさだと馬鹿にしてきたが実際に目にして思う、あれはまごう事無き【死】。むしろ噂で聞いた事よりも多いとさえ思ってしまった。

 だが、真に恐ろしいのはそんな彼女たちが仕える存在が居るという事。

 覇王...一体どれ程の存在だというのか...。


 深紅の月明かりに照らされ一人の男が舞い降りる。

 白銀の長髪は紅く煌めき瞳は輝きを増す。

 すると、大地で大爆発が起きる、爆発元には全裸の女が仁王立ちしている。

 あれは一体誰だ...。情報にない未知の戦力、もしかして覇王の秘密兵器だったのだろうか...。


「愚かなる帝国の雑兵たちよ、貴様らの中に異世界人は居るか?」


 腹の底から震えを呼び起こすような覇王の声に逃げ出しそうになる配下の者達も多い、異世界人を探しているのだろうか...もし一人でも異世界人を連れてきていれば覇王の対応は変わったのだろうか....。


「そうか、それは残念だ...」


 覇王の溜息に合わせ天使達が一斉に動き出す。

 殺戮が始まった...。

 天使は縦横無尽に動き回り戦場を蹂躙していく。

 帝国兵は徐々に数を減らし、骸と悲鳴が増え俺達二人の前には体を切り離された首が山の様に積み上がっていく。

 配下は一瞬にして物言わぬ肉塊になり下がった。200万の軍勢から声が上がらなくなったのは...10分後の事、地獄の様に血の川が流れ鮮血は雨となり降り続く...これが地獄と表現せずになんと表せばいいか俺はわからない...あれだけ居た同胞たちはすでに...。


 そんなことはあってはならない...

 受け入れがたい現実を前に動悸が乱れ視界がぐにゃりと歪む。あぁ俺も終われるのか...許してくれ同胞よ...最初から覇王と争うべきではなかっ...た...。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 派手にやったなぁ...。

 本陣テントの中でフリューゲル達による蹂躙を眺め俺はそう思った。

 確かに楽しんで来いとは言ったがまさか首狩りをするとは思わなかった...それも首を一か所それも炎帝と雷帝の目の前に積み上げていくなんて...見ろあの二人気絶しちゃったじゃないか...。

 まぁ無理もない、あんな光景を目の前にすれば誰だって脳がバグってしまうだろう。

 血の雨は王国の陣営にも降り注ぐ、そのせいでこちら側でも倒れる者が続出している。

 一部の吸血鬼が喜んでいるが...。


「お前も浴びに行くか?」


 隣で眺めるマナにも問いかけてみる、元来吸血鬼は血を好むとされている、ならば俺の隣の吸血鬼も例外ではない、血の雨は文字通り天の恵みとなり降っているのだから。


「気持ち悪いから遠慮しとくわ」

「辛辣だな...」

「だって私には必要のないものだも...の...そうよ!!」

「ん?」


 突然何かひらめきを得たのかキラキラとした目で俺を見つめてくるマナ...すまん俺にはさっぱりだ...。


「吸血鬼が血を得るたびに強くなれるのなら、私もグレースの血を啜ったら強くなれるのかしら」

「無理だな」

「淡白ね...」


 無理なものは無理なのだ。

 そもそも俺の身体に牙を突き立てることが不可能なのだから...そのシチュエーションを想像したら俺だっていいなぁと思う、だが残念ながらそれはできない...。

 まぁ出来るには出来るが...マナの身体が耐えれるかどうか...元から血で作られているシルビア達なら可能かもしれんがマナには無理だろう...俺の血を飲んだ瞬間に爆ぜるかもしれない。


 俺が説明すると納得したのか、深く考え込んでしまった。


「時空の狭間でなら可能じゃない?」


 ふむ...確かに可能だ....だが...その場合俺がマナが弾けるのを見届けなければならない...。それは嫌だ...


「もしかして私が死ぬのが嫌なの??」


 にやにやしながら問いかけるマナに俺は真剣な表情で返す。


「そうだな...マナには死んでほしくない」

「ふーん...もし私が死んだらどうする?」


 そんなの最初から決まってるだろ?


「俺が死んで考え方が変わったか?この際だからはっきり言っておく。君に死ぬ権利なんて無い、俺の心に深い傷を負わせることは許さない」

「なによそれ...独占欲?」

「そうかもしれないな...失いたくないんだ...去るというなら止めない、だが死ぬというのなら許さない」

「なら私からも約束。貴方が死ぬのは許さない、次は本気で怒るからね」

「あぁ」


 マナは照れてるみたいだが俺自身今の言葉は恥ずかしい。ん?いや待てよ...俺何を口走っているんだ?

 ちらりとカオスの方を見るとにんまり顔で俺の方を見ていた。

 あいつ...俺に【真実の呪言】をまた使いやがったな...。

 まぁ今回はマナも喜んでいるようなので不問にしてやっても良い。カオスなりにマナが喜ぶことを考えたのだろう、今回ひどく落ち込んでいたマナの事がカオスはどこかで気にしていた様だ、あいつも案外かわいい事をするもんだ。


「さて、終わったみたいだし炎帝と雷帝やらに話を聞こうじゃないか」


 戦争は終わった。

 残るは戦後処理というやつだ。

 まぁ今回の場合帝国側が進行してきた訳なのでしっかりと賠償は払ってもらわねばならない、細かな賠償は王女プランチェスが出すと思うので俺からは情報だ。

 炎帝と雷帝以外の王、さらにその王達をまとめる存在が一体どうゆう人物なのか

 目が覚めた後色々と聞く必要がある、今回出兵してきた帝国軍はこの炎帝と雷帝を残し全滅だ、生き残りは一人もおらず文字通りの全滅。

 悲しきかな覇王を敵に回した愚かな国の末路だ。


 直ぐに起きるかと思いきやまさかの1週間も目を覚まさなかったので非常に飽き飽きしていた。

 そもそも戦争なんて一日で終わる行事ではないし戦後処理なんてさらに時間の掛る代物だ。まぁ今回は王女にお任せで俺は帝国を処理する。

 ようやく目を覚ました炎帝と雷帝は今の状況に戸惑いを見せる。


「俺は生きてるのか?」


 どうやら死んだと思っていたらしい。あの惨状を見ていれば無理もないかもしれない。それにほぼ死んでいるようなものだ。

 能力は抜き取っているので脱出は不可能だしもう用はない。


「目が覚めたか、死ぬ前に色々と白状してもらうぞ」


 フリューゲルに囲まれ死んだような表情をしているがこの際関係ない。

 無視して話を進めたいが...正気ではなくなっており会話どころではない。

 ならばしょうがない...。

 無理やり聞くしかないようだ。

 最近カオスの中で流行っている【真実の呪言】は対象の意識とは関係なく言葉を引き出す、今の様な時に重宝するのだ。


「お前の上司について話せ」

「はい。私の上司は童帝様です。私共よりも強者でそのうえ博識であらせられます。此度の戦争も童帝様の命にて侵攻しました」

「童貞?字面からするとそこまで強そうに思えないんだが...」

「かつて童帝様は悪魔との闘いの末若くして死ぬと言う呪いを受けることになりました、その為童帝様は18歳になると臨終を迎えるのです」

「なるほどな...それは呪死なのか?」

「いえ...老衰です...」


 随分と辛い呪いだな...成人を迎える前に死ぬのか...スキルとかなら死ぬ代わりに強力な見返りがあると思うがこれは呪いだもんな...。


「その代わりに誰であっても18歳までは童帝様を殺すことは叶わないのです」

「ふむ...」


 やはりそれは...呪いではなくスキルなのではないのか?かつて戦った魔王がどうゆ意図でそのスキルを授けたのかはわからんが....一度確かめてみる必要がありそうだな。

 それに...転生したときにステータスを引き継いでいるとしたらそれなりにステータスが高いはずだ。それこそ、この世界の者では倒せないほどに。可能性が無い訳では無い。

 なら直接会ってみるのが早い。

 聞きたいことも聞けたしこの狂人二人はすでに用済みだ。

 この皇帝二人をどう処理しようか...


「どうするべきだと思う?」


 その場に居たマナとゼルセラに聞く。俺としては殺処分でもいいと思うがどうせなら帝国へのプレゼントにしたいと考えていた。


「首だけにして配送してみたら?恐怖心くらい植えつけられるんじゃないかしら」

「恐怖心なら200万全滅で十分だと思うが」

「そういう事なら私にお任せください」


 ゼルセラが任せろと言うので俺とマナは任せる事にした、徐に二人を担ぐと盛大に二人をぶん投げた。

 一瞬で見えなくなる二人を哀れに思いながらもゼルセラに二人をどうにしたのかを訪ねた、正直訪ねなければ良かったとさえ思う。


「帝国本土にある二つの時計台の天辺にある避雷針に差しておきました、しっかり見れば明日にでも気づくと思います」

「あぁ...市民に発見されるやつね...これ...」


 これなら確かに恐怖心は煽れるだろう、民に恐怖心を与える必要はない気もするが...覇王に逆らったのだ、それくらいは覚悟してもらおう。

 むしろ童帝とやらに粛清されたと思うのかもしれない。

 時計台に刺されたオブジェに気付いたら向かうとしよう。

 敵としてではなく、旅人として帝国の首都を回るのはありなのかもしれない。

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