第24話 仕組まれた戦争
王国の本陣にあるテント戦争中でありながらかなりの盛り上がりを見せていた。
俺とカオスに対する質問が飛び交う、飛び交うと言ってもゼルセラとマナからだけだが、問題なのはその量だ。
わかっていたことだが、案の定質問攻めにあっていた。
もちろんしっかり説明した。
偽りのシナリオを...。
俺とカオスは死に精神世界を彷徨った。キーラがカオスの残滓を辿り俺達の精神体である魂の召喚を行う、カオスの依り代であるキーラのみが行える事と力説した。
その後は、カオスを蘇らせシーラと俺の召喚を行う、そして今に至る。
何度も説明したがどうやら腑に落ちないようだ。
どこが腑に落ちないか聞いてみれば...
「だって昔言ってたじゃない...俺は死なない、厳密にいうと死んだ瞬間に蘇る。そういう魔法をすでに組んである。って」
俺の馬鹿...
何度自分を罵ろうと昔の言葉は覆らない。
そこで俺が考えたのはすべてカオスのせいにしてしまえばいい。
カオスは俺と同じく不可能を可能にする存在。不死を殺せたとしても何も不思議はない。
「実はカオスのせいなんだ...俺は大抵のスキルなら完全に
「はい、たしかご主人様のスキルは同等存在もしくは上位存在への
「あぁ、今ゼルセラが言ったように俺のスキルは同等存在以上の相手に対して効果はない、カオスは俺と同等の存在。故に組んでいた魔法も効果を失い死んでしまったのだ。シーラも頑張ってくれたがお互い消耗の方が早かった。ただそれだけだ」
あたかもそう説明する。
むしろこれで納得してくれと祈るばかりだ。
だが、二人の顔色は晴れない。
「そこが引っかかるのよ...どうしてキーラちゃんは同等存在のカオスを蘇らせることができたのかしら...」
「妹様には言いずらいのですが...妹様ではご主人様とカオスを召喚できるとは思えません」
「たしかに。キーラだけでは無理だな」
マナとゼルセラの問に冷静に返したのはカオスだった。
そもそもの計画の発案者なのだし上手く纏めてくれるだろう。
「そう、キーラだけでは、な。我輩達だってただ屍になった訳では無い。我輩クラスになれば精神生命体だけでもある程度の活動はできる。我輩とグレースはキーラに魔力を送り続け痕跡を残し続けたのだ。我輩とキーラは一心同体。魂の回廊さえ繋がってしまえば後は容易い。理解できたか?」
カオスの説明は完璧だった。
これにはさすがに文句はつけられないだろう。
「一心同体のキーラちゃんが消えなかったのは何故かしら?」
「それはわかるだろ...」
「だってグレースが死んだ時シーラちゃんまで消えたじゃない。力の源であるカオスが死んだ場合キーラちゃんの力は失われてしまうのではないの?」
「それはオリジナルがどちらかにも寄るな。
カオスが話を纏めに入る。
面倒になったのだと理解ができた。俺だってそうだ、しかも辻褄を合わせなければならないのだから、頭の回転が速いゼルセラとマナを相手にするのは俺やカオスでも骨が折れる。俺だけならきっとボロが出ていただろう。
なにより今は戦争中。
ほとんどアンデットが戦っているがそれも今はもう飽きた。
いつまでも膠着状態が続くこの戦争に嫌気が差していたのだ
数が数な事もあり、地形的にも200万VS200万とはならず、戦っているのは最前線の1万人弱だ。帝国兵は隊列を組んでいる事もあり、開いた穴はすぐに修繕される。
もう、飽きた。
動かぬ戦況にレベルの低い戦い。
最下級のスケルトンを相手して何が楽しいのだろうか。
そもそもこれでは志願兵の強さを見ることができない。
強大な力を持つとされる巨人族。
忠誠を誓った蜘蛛人族。
誇り高き侍の大鬼
人間の三倍ほどのステータスを誇る獣人族。
それから吸血鬼だ。
彼らの強さを見るのが今回の戦争の目的でもある。
このままアンデットに戦わせても意味はない、ならばアンデット達を退却させ彼らの真の力を見るべきだ。
圧倒的な兵力差を覆すだけの強さを見せてもらいたい、もし見せてもらえるのならば多少背中を押してやる。
「俺が喝を入れてやろう。行くぞゼル」
「はっ」
俺はゼルセラを連れ戦場へと飛翔する。
おっとその前にメトラに連絡しておかないとな...。
(メトラよ聞こえるか?)
(その声は...は、覇王様ですか?!)
(あぁ俺だ)
(良くぞご無事で...)
(詳しい事は後で話そう頼みがある)
(なんでしょうか?私にできる事なら...)
(マナに渡したアンデット200万体を戻してほしい)
(戦争中のはずですが...よろしいのですか?)
(あぁ問題ない)
(畏まりました。解)
メトラのスキルが解け200万のアンデットが一瞬にして戦場から姿を消した。
帝国軍は一瞬の躊躇いを見せたが、指揮官の指示で行進を開始する。
俺は一度王国軍が見える位置まで移動しその周囲を結界に包む。
「全軍!傾聴!!」
ゼルセラの号令と共に発せられた
静かになり俺の声をしっかりと聴くために全軍が耳を傾ける。
「皆しかと聞くのだ。お前たちには全力の戦闘を見せてもらいたい。敵は200万。相手として不足はないだろう。案ずるな、お前たちに死はない!死を経験しその先に強さを求めるのだ!!命の危機に瀕したとき生命はより一層輝きを増す。俺にそれをみせてくれ!お前たちの輝きを!!死を超越し勝利をつかみ取るのだ!!!!」
俺は鷹揚に振り返り王国軍を包んでいた結界を破壊する。
「全軍!!蹂躙せよ!!!」
『おおおおおおおおおおおおお!!!!』
俺のお陰で士気は高い。
それが楽しくて仕方がなかった。
一度テントに戻り指揮をチェイニーに任せる。
6万対200万。本当の戦争はここからなのだ。
「死にに行けなんて...ひどい王も居たものね」
「そうか?我ながらいい演説だと思ったのだが...」
俺とマナは何気ない会話を交わす。先程も話したが二人きりの会話は久しぶりだ。
「グレー...ス...」
「ん?なんだ?」
唐突に名前を呼ぶので返事をしてみたがマナからの返事がない、どうしたのだろうか。いや...どうもしないわけがないか...
「グレース...」
「聞こえてるぞ?」
「バカ...心配したじゃない...」
少しの沈黙の後、俺の裾を掴み強く握りしめるマナ。涙は頬を伝いやがて地面へと流れていく。
普段なら怒号の様な罵声を浴びせてきそうなものだが流石に今回は話が違うようだ。本当に俺が死んだと思っていたのならきっとマナの感情はぐちゃぐちゃになってしまっただろう...
そんな彼女に償いとして今の俺にできるのはなんだろうか...当然だが、俺はそんな体験したことが無い。
もし俺が女だったらこんな時どんなことをされたらうれしいだろうか...
掛ける言葉が俺にはわからない。
ならば俺にできることはこれしかない...。
そっとマナの頭を撫でる。
「ありがとな」
「うん...」
俺のたった一言を全て汲み取ってくれたのかマナは大きく頷く。女はイケメンの頭ナデナデに弱い俺....と言うかグレースがイケメンで助かった...。
「さて、戦況でも見に行くか」
「えぇ行きましょう!」
気を取り直したマナは元気よく返事をする。
いい笑顔だ。
こいつはこんなにも可愛かったのか...
改めて思う、俺はこいつの事を好きなんだろう元気な姿を見れて嬉しいしどこか安心する、随分と悲しい思いさせてしまったみたいだな...。
酷いことをした自覚はあった。償いはしっかしとするつもりだ。
考えながら戦場の上空へと向かう。
あらら...
王国軍は死への恐怖が亡くなったからなのか無謀な突撃を繰り返している。そもそも6万対200万。普通に戦えば負けは確実だ。それを覆すには個々による獅子奮迅の活躍が必要だ。だが...さすがに人数差がきついようだ。というより...
なんだあの二人は!!
この世界からするとかなり良い装備を着用している戦士が二人、戦場で大暴れしているのだ。片方はかなり広範囲の炎属性を操り方や広範囲の雷属性を操る。二つの属性の大魔法は戦場にて猛威を振るう。志願兵はこの世界の住人だ平均ステータス四桁以下の奴らには脅威になる。
あれは異世界人か?俺は帝国の事情を知らないので最近調べているマナに聞くのが得策だろう。
「あいつらは何者だ?」
「あれは炎帝と雷帝だわ」
「炎帝?雷帝?」
「他にも水帝、地帝、空帝が居るようで今回は五大皇帝の2人が同時に戦場にきているらしいわ」
「なるほどな」
そんな話をし上空で二人を眺めていると遅れてカオス達がこちらにやってきた。
「あの人間なにか懐かしい香りがするぞ」
カオスはそれを伝えに来たようだ。カオスが言う懐かしい香りというなら間違いなく神の仕業だろう。流石に定命の者達に神の相手は荷が重い。
「ゼル、一度兵を下げさせろ、どうやら神が絡んでいる様だ、フリューゲルを出す」
「畏まりました」
俺の命を受けすぐさま行動に移りチェイニーに指示を出す、平行して全フリューゲルにも通達を送っている、戦場を見ているとその指揮系統の良さが伺える。
退けと言われれば即座に退き戦場がその姿を変える。味方は逃げやすく敵方は追い駆け辛い様に地形情報が書き換わる。これはチェイニーの能力で戦場支配系の最上級スキルであり味方への指示を通り易くし戦況を見通す。地殻変動を起こしこちらが優位に立てるように戦略を立てる。
その中で最も戦場において猛威を振るうのが環境の書き替えだろう、今の広大な荒野も一瞬にして溶岩地帯や氷雪地帯に変えることができる。
すでにこの戦場はチェイニーの手中であり、帝国兵はなす術もなく戦場に取り残される。
さて、久しぶりに俺の降臨イベントを開くとしよう。
登場演出は俺がかなり拘っていることの一つだ。
今回はフリューゲルと共に登場する、ならば彼女たちを最大限引き揚げつつそのうえで俺が派手に登場する。ふむふむ...
怪しく微笑みながらフリューゲル達に指示を出す。
まずは暗転。
この世界の太陽の光を一時的に奪い夜にする。
夜と言ってもこの星を暗黒で包んでいるだけなので月や星は存在しない。ただの暗闇そこに真っ赤な月を打ち上げる。
赤い月灯りが世界を紅く染め上げる。
そこに上空からフリューゲルの投下だ、ゼルセラを中央とし横一列に並べゆっくりと地上に近付かせる。もちろん地面には足をつけない、地上から20メートルほどの位置で留めその場で待機だ。
各々が武器を所持している。当然だが完全武装ではない、本気の時に使う物ではなく遊ぶ時に使う用の、いわば稽古用装備だ。この世界ではどれ程レアなものにな℞課はわからんが...。
ゼルセラは普段使いの大鎌ではなく直剣の二刀流だ。
さて、次は真打登場だ。
やはり俺はフリューゲル達よりも少し高い所に現れるのが良いだろう。
月を模した赤い球体の輝きを一段階上げ俺は下降する。
帝国兵の視線は俺に注がれる。
誰もが理解しただろう。あれが―――
その時、地上で爆発の様なものが起きた。
土煙が上がり帝国兵の視線は移動する。
土煙が晴れるとそこには真っ赤なツインテールの全裸の女が立っている。
かなりの高度から腕を組みそのまま身を任せ落下してきたようだ。
あのバカ....俺の登場のインパクトよりも大きいことをしやがって...これじゃあ...
完全に俺が引き立て役じゃないか...現に少し帝国兵の心を覗いて見ると俺ではなく赤髪の変態の方を覇王だと思っている様だ。
俺だってあんな登場のされ方をすれば裸だったとしても覇王だと思ってしまうに違いない。
だが、幸いな事に覇王が男でありロン毛だと言う噂は流れている。
その甲斐あってカオスすべてを持っていかれる事にはならなかった。
暗転した世界のまま俺は帝国兵達に問いかける、今回の目的はあくまでも異世界人を探すこと。
だが、この戦場から逃がすつもりはない。俺たちに歯向かった愚かさをその身に受けてもらおう。
「愚かなる帝国の雑兵たちよ、貴様らの中に異世界人は居るか?」
当然、帝国兵から返事はない、ただざわつくばかりだ。
名乗り出ないのなら居ないも同じ全員死んでもらおう。
「そうか、それは残念だ」
そしてフリューゲル達による蹂躙が始まった。
それは戦いではなく一方的な処刑に他ならない。
ただ、帝国兵は幸運だったのかもしれない、フリューゲルは戦闘のプロ、痛みも苦しみも何も感じずに逝けたのだから、不幸だったのは炎帝と雷帝の二人だろう。
降り止む事の無い血の雨。積み上がっていく帝国兵の首。
フリューゲルが戦場に立った時点で帝国軍の将兵の命運は尽きたのだ
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