第23話 戦争開始

 戦争は唐突に始まった。

 帝国からの宣戦布告に王国が用意していた使者が赴いた。

 鎧を身に纏う使者が我が陣営を通り抜け帝国側の主張を一方的に宣言してきたのだ。


「我らが皇帝陛下は――――」


直後激しい爆発音何かと思えば使者が突然爆発したのだ。

 覇王城のモニター越しに見ていた私は思わず笑いそうになった。

 炎帝と雷帝とやらは中々面白いことをするものだ。


 使者が爆発した事を合図として戦争は始まってしまった。

 突然のことに驚くプランチェスを横目に冷静に説明してのける。


「まったく無駄なことをするものね、せめて降伏でもすれば少しは生きられただろうに...」

「今の爆発...騎士団の人たちは大丈夫でしょうか...」

「問題ないわ、あのゼルセラが居るのだから、例え爆発した後でも無傷で守りきると思うわ」

「なるほど...最初はアンデット達が相手をするんですよね?」

「えぇそうよ、今回最下級のスケルトンを貰ってるから私の予想が正しければアンデットは壊滅するはずよ」

「それってまずいんじゃないですか?」

「まぁのんびり見てるといいわ。馬鹿が調子ついて墓穴を掘る様を...ね」


 楽し気に解説して見たがゼルセラが戦場に立ち台無しにしないとは限らない

 そして戦況は私の予想通りにアンデットが押され始め戦線が崩壊する。

 だが、戦争がはじまり数時間が経過したところでイレギュラーが発生した。


 戦線が崩壊してからもスケルトンの軍勢はある程度の耐久を見せた。

 だが...突如戦場中央が大爆発し場が乱れたのだ。


 一体の魔物の登場に思わず身を乗り出しモニターに釘付けになってしまった。

 王女の動揺や戦況など今はどうでも良かった。

 漆黒の全身鎧に身を包む何かとしか言い表すことができない。


(これは貴女の差し金??)


 ゼルセラも困惑したのかすぐに私に確認の連絡を取る、だが、私にも心当たりがない。そもそもあんな化け物、見たことも聞いたこともない。


(違うわ!!ゼルこそ時空の狭間とかで戦ったことないの?!)

(ありませんね...あんな強さの...この世界に潜むなんて...まさか帝国の秘密兵器?)

(何百年か帝国に囚われてたけど...あんなのの話聞いたことないわ)

(ならば何者かの乱入?)

(わからない...一体何が起こってるの?)


 時空の狭間でも戦ったことがないとなると...グレースも戦った事が無い種族。

 ゼルセラが警戒しているので戦場への影響は少ないと思いたいが...


 そしてさらに爆発。

 今度は帝国陣営で爆発が起こる。

 深紅の鎧を纏う巨大な聖騎士を思わせる一人の人間だ。

 完全な全身鎧を着用しているので本当に人間かどうかはわからない...そもそも人間の強さだとは思えない。

 大きな円盾に特大剣を携えた屈強な騎士。あれが異世界人の強さだと?

 正直言って舐めていた...これではゼルセラすら...

 嫌な予想が頭をよぎる。


 だが、私たちの予想とは裏腹にその二体は激しい戦闘を始める。

 漆黒の鎧を纏う魔物は味方という訳では無い、乱入しようとしたゼルセラは吹き飛ばされかなりのダメージを負ったようだ。

 それと同じく、深紅の鎧を持つ騎士が帝国の仲間かと言えばそれもない、協力を持ち掛けた帝国の指揮官を一瞬にして消し去ったのだ。


 どちらの味方でもない二体に戦場は完全に呑み込まれ圧倒される。

 だが異変は覇王城でも起きていた。

 グレースを封印していたクリスタルが突如として光を放ちやがて砕けてしまった。

 解き放たれた魔力はまさしく本物のグレース。

 傷も塞がりはじめているグレースは自分の肉体を確かめるような仕草をした後目を閉じる。

 その後戦場が映し出されているモニターに視線を動かすとぽつりと呟く


「知らない魔力反応...ゼルが危ないか...」


 安堵と共に言葉が溢れ出す。

 だが、グレースは私の声など聞かずにどこかへ飛び立っていった。

 言葉の内容からゼルセラの元だと理解はしている。

 私も後を追わないと...。

 グレースの後を追い飛ぶとすれ違うようにキーラと遭遇する。


「キーラちゃん!?」

「スカーレットさん!兄様はどう?!上手く出来てたら良いんだけど...」

「まさかグレースが復活したのはキーラちゃんが?」

「はい...もしかして兄様復活してるんですか?」

「えぇたった今、すぐに飛んでいてしまったけど...」


 キーラと情報交換をしていると遅れてジルニルが到着した。


「ジル?!貴女もなの?」

「はい!キーラ様と共に...それにしてもキーラ様早いですよ...ハァ...ハァ」


 肩で呼吸をするジルニルを休ませるよりもグレースを追うのが先だろう。


「行くわよ。言いたいことがたくさんあるんだから!」

『はい!!』


 目的地はわかっている。ならば最速は転移魔法だ。

 ジルニルとキーラを連れ私はグレースの向かった戦場に転移した。


 ――――――――――――――――――――――――――


「なんだつまらんの...まだ始まらんのか...」


 俺たちは戦場を見に来ていた。

 今の俺に千里眼系統のスキルがないのも理由の一つだが、どちらかと言えば見てみたい欲が勝ったのだ。

 カオスはつまらなそうにしているが、俺も同じ気持ちだ。

 宣戦布告が必要なのを俺は理解している。今にも乱入しそうな

 カオスを宥めつつ戦場を見渡す。

 アンデットで埋め尽くされている戦場はある意味圧巻だった。


「どうやら帝国は使者を送るようだな」

「開戦の合図なんて爆発でよいではないか!!なにをもたついておる!!」


 戦争が始まらない事に怒り心頭な様子のカオス。

 カオスは鷹揚に手を出し王国の本陣付近に手をかざす。


「開戦合図はこういう爆発で良いと言う――――」


 そして味方の本陣が派手に爆発したのだ。

 思わずこいつはどれだけ馬鹿なのかと憐憫の視線を込めてしまった。


「わ、我輩ではない!!断じてないぞ!!ホ、ホラ!ゼルセラや周りの者も生きておるであろう?本当に我輩がやったのであればあのもの達は無事では済まないだろ?な?」


 必死の弁明も虚しくキーラによって正座をさせられたカオスはしおらしくなり説教を真面目に聞いている。

 それすらも哀れに思ってしまう。なんせ今のは本当にカオスではないのだから。

 キーラの説教が小一時間程経過したあたりで助け舟を出すことにした。


「キーラその変にしてやれ、今のは本当にカオスじゃないぞ」

「え?本当だったの?いつもそうだからてっきり...」

「なんでもかんでも我輩が悪い訳では無いという事がこれで立証されたな。今後の戒めにすると良いぞ」


 再びキーラ目が輝き再び怒りは再燃する。どうしてこいつはここまで馬鹿なのだろう...。態々墓穴を掘らなければすんなりと終わったものを...。


「さて...どのように生存を伝えるか...どうせなら派手に登場してみたいものだな...」

「そういう事なら我輩に任せろ!な?だからキーラとりあえず落ち着いてほしい」

「わかった...その代わり...ちゃんとしたアイデア出してよ?いい?」

「任せるのだ!ここは我輩達の魔物のデモンストレーションのいい機会だしな、少し暴れさせてから我輩達が颯爽と登場する。ここで肝心なのが魔物は見逃すという事だ!ここで我輩達が倒してしまっては魔物を作った意味すら失われてしまうからな。そして我輩達を蘇らせたのがキーラさんという訳だ!」

「え?私?そんなことできないけど...」

「後のことは我輩に任せろ、しっかりと指示は出す。少し時間が掛ったのもその方法を探すため...これで我輩達は遊んでいた訳ではないことの証明と魔物達と戦うことで関連性が無いことの証明に繋がるという寸法だ。どうだシーラ完璧であろう?」


 自信に満ちた表情を浮かべシーラに確認を取る。

 中々狡猾な考えではないだろうか、キーラを蘇生役という重要なポジションにした事でキーラはご満悦だ。

 さらに俺たちの魔物と戦う事で同一人物説を否定し、いずれ来る厄災のお目見えもできる。俺たちが互角の勝負を演出することで魔物二体の強さを証明し配下の者達に強さを求めることを示唆する。

 これならば俺たちが遊んでいた事も悟られることも無いだろうし...ふむカオスにしては完璧だな。


「そろそろ頃合いだぞ。ホレ、グレース、奴をさっさと解き放つのだ」

「俺が先か?」

「当然だ、我輩は騎士、お前はスケルトン。あとは言わなくてもわかるだろ?」

「ほう?俺のタナティスがお前のガラクタの寄せ集めに負けると?」

「クックック我輩のアブソデュートがお前の骨に負ける訳がないだろう?やるか?」

「決着つけるか?あぁ?」


「来いアブソ!!!アンデットを蹴散らしてしまえ!!」


 カオスの叫びに触発され次元が開き一体の鎧騎士が姿を現す。


「俺はこの姿では呼び出せないからな...シーラ、俺の魔物を出してくれ戦場に出しといてくれ、俺は先に元の身体を取り戻してくる」

「わかりました。出でよ皇の身死を超越しこの世に顕現せよ―――タナティス!」


 シーラの呪文?を引き金に次元が開き俺のスケルトンが召喚された。

 それよりも...


「なんだその呪文は...」

「即席で作ってみましたがお気に召しませんでしたか?」

「いや...かなりかっこいいと思う...俺も真似ていいか?」

「えぇ構いません。使い処はあまりありませんが...」

「まぁ行ってくる。ジル、マナへの説明は任せた、筋書きは先程カオスが言っていた通りだ元の身体に戻ると良い」

「はい!!」


 元に戻ったジルニルを確認した後今の肉体を寮に届ける。


「さて、ジル。俺は今から魂だけになり本来の肉体に戻る。遅れずについて来るのだぞ?」

「はい!ご主人様!お任せを!!」


 リリィの肉体から飛び出し自立意志を持たせておく。

 覇王城の上空まで移動後、急降下し元の肉体に宿る。

 宿った瞬間に体に空いた風穴は塞がる。

 元の肉体に宿ったことを示唆する為に多少魔力を開放しマナの振り向きを誘発する。


「う、嘘っ?!グレース...ほんとにグレースなのね...よっかたほんとに―――」


 俺は世界の情勢を確認する風を装い目を閉じる。

 目を開いた俺はモニターに目を向ける。


「知らない魔力反応...ゼルが危ないか」


 俺はそれだけ言い残しその場を去る、念のため転移ではなく飛んで向かう。

 いいタイミングでキーラやジルニルとすれ違ったのでいい感じのカモフラージュができただろう。

 長期間マナを見ていなかったという事もありマナの表情はとても懐かしく思う。そんなマナを置いていくのは心苦しいがこれも作戦の内...許してくれ。


 俺のタナティスにゼルセラを攻撃するように指示を出し間に合うタイミングで戦場に突撃する。


 巨大な衝撃音と共に大地に降り立ちゼルセラに迫り来るタナティスの攻撃を防ぐ。


「信じておりました...このゼルセラ。貴方様がお戻りになられると心の底から信じておりました」

「どうやら間に合ったようだな、それにしてもゼルが後れを取るなんて珍しいな」


 颯爽と登場しゼルセラに笑顔を見せる。恍惚とした表情を浮かべるゼルセラをかわいくも思い罪悪感を抱く...。


「珍しく強敵と戦っているようだな」

「申し訳ありません...私では...」

「これからも精進あるのみ...だな」

「はい!!」


 俺は改めてタナティスに向き直る。


「それで、お前はどこから来た」

「・・・・」

「ほう、だんまりか...いい度胸だ」


 タナティスは鷹揚に剣を鞘に納めると転移門ゲートを開く。


「お目に掛れて光栄だ。覇王よ。だが、審判の日は今日では無い」

「おい待てッ!!」


 タナティスは転移門に入り転移門はやがて閉じられてしまう。


「くそ...逃がしたか...」

「ご主人様...あれは一体...」


 ゼルセラの視線の先には真っ赤な騎士が居た。


「カオス!!」

「わかっておる!」


 カオスは遥か上空から滑空し鎧の頭をつかみ地面に叩きつける。


「お前は一体何者だ!目的を話せ!!」

標的ターゲットを逃した。任務失敗だ...貴様我を何者かと聞いたな、我は虚無より深き混沌から生まれた存在、我とて自分が何者なのかなんてわかっていない。お前たちは標的ではない、故に今争う理由はない。さらばだ」


 カオスが大地に叩きつけているにも関わらず赤い騎士は大地に溶けるように消えた。


「俺達ですら知らない奴らが動きだしたようだな...」

「良いではないか、歯ごたえのありそうな奴だったではないか?」

「そうだな。あの力...俺達程ではないにしろ途轍もない力を保有していた」


 やがて遅れてきたマナが戦場に到着する。


「ここは移動するぞ」


 すぐさま集団転移魔法を発動させマナを含めた者達を王国の本陣まで転移させる。

 これから色々質問攻めをされる事になるが...きっと上手く纏まるだろう。

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