第22話 戦争準備
戦争の準備は滞りなく進められた。
兵力に関しても、同盟国である、大鬼族、巨人族、獣人族、吸血鬼族からの志願兵がそれなりに居たのだ、相手の戦力は200万それに比べると私たちの軍は
王国兵3万人
大鬼族1万人
巨人族100人
獣人族2万人
吸血鬼5000人
普通の国との戦争ならばこれでも十分すぎるくらいだろう、ただ今回の相手の戦力は200万。
その途方もない相手との戦力差に青褪める大臣たちも多い。
エミールは自分たちの戦力を見て考える。
正直自分と副団長であるセシリアが戦場に赴いた時点で勝利が確定する。勝敗に関しての不安はない、ただそれは自分が最前線で戦った場合だ、もし陛下の近衛として傍に仕えると戦況は一変する、200万という戦力は圧倒的であり今の戦力差で戦えば物量で押し潰される事になるのが目に見えている。
多少の誤差はあるだろうがこちらの兵の総数は65100人....さすがに戦争をするべき人数差ではない。
普通ならば...今回の戦争、マナは一体どう考えているのだろうか。
私がそう考えている以上他の大臣達もきっと同じ事を考えているはずだ。
「女王陛下、此度の戦争覇王様の配下の方々に参加していただくのはどうでしょう。王国に属している以上参加する義務がございますゆえ。是非ともその点に関してスカーレット殿のお話を詳しく聞かせて頂きたいと思います」
一人の大臣がマナに視線を送りマナは嫌そうに溜息をつく。王国に属している以上本来であれば陛下に忠誠を誓うべき、そう考える大臣たちも多く、この場で溜息をつくこと自体、最悪の場合不敬罪で死刑の可能性さえありえる、これをしないのは単に彼女の後ろ盾である覇王グレーステ・シュテルケ及び覇王と個人で同盟を組んでいる最古の魔王メトラ・ソネフティマ、彼女を恐れての事である。
前からマナが独立したいと言っていた理由も王国の大臣が原因であると理解はしている、明らかな優遇を受けるマナを悪く思う者も多い中、当の陛下本人がそれをよしとしているのだ。
マナが提案する政策はどれも理に適っており今年一年でかなりの経済的成長が見込めた。物流も良くなり同盟のお陰で様々な品が王国にも流れ込むようになった。果実酒も輸入し今では庶民の食卓にさえ並んでいる。
この結果もあり大臣たちはマナに強く言う事は出来ない。
仮に独立した場合現在同盟関係にある獣王国との取引もなくなり王国の経済にこの上ない大打撃を受けることになる。
だが、大臣の言う事も一理ある、そもそもこの戦争の参加を希望したのはマナ自身からだ。
「もちろん参加させていただくわ。それと指揮権はこちらに全て譲渡してもらう、もし反論がある場合私達今回の戦争は辞退するわ」
「それは...私の兵の指揮権も譲渡せよという事でしょうか...」
ざわつく大臣達に目もくれずマナはプランチェス・ノエル女王陛下に詰め寄る。
既に陛下に話は通して居るので、もちろんすんなりとそれを了承する。
それに対しさらにざわつく大臣たち。大臣たちを一喝した陛下は真剣な表情で大臣達に告げる。
「此度の戦、王国だけでは同盟もとれず援軍の見込みはなかった、それに大きく貢献したスカーレットの影響はかなり大きい、同盟国の者達は王国では無く覇王に協力をしている、それを鑑みれば王国の貴族が指揮を執るよりも覇王の身内が指揮を執る方が賢明だ、お前たちに指揮を執らせると言う事は同盟の協力すら得られないということになるがそれでも構わないという事、ひいては王国に敗北をもたらす反逆行為という事になるかしら」
「それは...極論です...」
覇王の実力を知らない者が声を上げその実力を知っている者は賛同を示す。
宰相であるマナの実力を知る者は少ない、内政における手腕は目を見張る物があるが戦闘に関して姫が戦えると思っていないのだ。
正直私としてはマナが一人で戦場に赴き憂さ晴らしでもしてくればそれで解決だと思っていたぐらいだ。
「安心していいわ、メトラにも
「あの最古の魔王の伝説に謡われる不死の軍勢...」
「200万程貰うから人数では優位に立てるわよ?まだ文句があるのかしら」
少し高圧的な態度で返すマナに怖気ずく大臣たち、無理もない...。
「それで構いません、此度の戦争貴女にお願いするわ」
「えぇ陛下お任せを夫の名に懸けて敗北はありえませんわ」
それから詳しい作戦などを話会議はひとまず終わりを迎える。
陛下は最後にマナに残るように告げ他の大臣たちを帰した。
私は元々陛下の近衛なので共に付き添う。
四人だけになった会議室でマナは優雅に寛ぐ。
「あのバカ貴族達をどうにかしたらこの国は幾分かよくなる気がするわ...」
「それもそうですね...」
「ほんと...無能って骨が折れるわ...」
一国の女王に対しこの接し方なのだから胆が据えている、まぁあの覇王の妃だからというのも大きい、敵対するとなれば王国は文明ごと滅びることになるだろうから。
「それと先程はすいません...立場上あのような口調で話してしまい...」
「貴女も大変よね、対面気にして...私はうんざりだわ...それに比べて貴女は幼いにも関わらず良く周りが見えているわ、きっといい王になる。私たちが独立してもいい関係でいられるといいわね」
言いたいことを言いマナはその場を去る。
陛下としては先程の上からの口調の謝罪が出来たので構わないのだろう、陛下の心労は絶えない。
先程のセリフを言われたら女でも堕ちてしまう、マナの美貌は女ですら惹きつけられるものがる、それは異世界人である王女が堕ちない道理はない。
少し照れた顔をしマナの去った余韻に浸る陛下。
「陛下!」
「・・・・」
「陛下ッ!!」
「・・・えっ何かしら?」
「ようやくお気づきになられましたね...それでこの後はどうなさいますか?」
「一度ヴェルにも今回の戦争に参加してくれるか聞いてみる、たぶん参加してくれると思うから、エミールも前線で戦っていいわよ」
戦えるという喜びよりか戦わなければならないと言う面倒臭さが勝って居た、まぁ騎士団の成長を見るいい機会だろう、ほどほどの戦闘をしのんびりと戦っていよう...。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うまく事は進んだようですね」
「あぁすべて計画通りだ、後は相手の軍事力次第だな」
カオスの魔法を利用し会議の様子を眺めていた俺たちは予想通りの内容に驚きはなかった。俺たちが気になっているのはどちらかと言えば相手の軍勢の異世界人だ。
噂では大体の兵士が異世界人で構成されておりかなり精強な軍隊らしいのだ、ただ、不思議にも思うのだ、俺がこの世界に来たばかりの時に一掃した帝国兵は精強とは程遠い程脆弱な軍勢だった。
たしかに人数こそ膨大な量だが、とてもではないが異世界人の様な特殊スキルは見受けられなかった。
もし仮に今回の軍勢がすべて異世界人で構成されている場合、それなりの脅威となりえる。
異世界人は稀にかなりレアなスキルや武具を持っていたりする、それを興味本位で見てみたい、それに、異世界人で転移ではなく転生の場合、俺の様なキャラクターの美男美女になっている可能性が非常に高い。
カオスはスキル見たさ、俺はキャラデザ見たさ。
マナ達にばれたら怒られそうな内容だが、ぶっちゃけ俺たちからした戦争なんてそんなものでしかない。
「確か開戦は1週間後だったな」
「うむ、我輩はこれから町でも探索してくるぞ!!」
「待て!!今のお前は只の少女だという事をしっかりと認識しているんだろな。お前の突飛な行動一つですべてがご破算になるのは絶対に避けたい」
「心配ならばお前もくればいい、お前こそ今は少女なのだ、我輩と共に連れ歩いていたとしてもなんら問題はあるまい」
「たしかに傍にいた方がいざという時安全か...よし...」
やはりカオスに一人行動をさせるのは避けるべきだ、ならば俺たちも共に町を歩き見て回った方が安心というもの、ただ問題点がない訳ではない、俺とカオスは一般的な少女に扮しているがキーラやシーラ、それこそジルニルなんかは厳しい。
シーラとキーラは俺たちと同じように変装するとして...ジルニルをどうするか...。
「よし、鳥になるか」
「と、鳥...ですか?空飛ぶ小さい生き物ですよね?」
「あぁ、もしこの組み合わせの中にジルが居ると高確率で俺たちの変装がばれるだろう、ジルが鳥になり、俺の肩に乗っていれば?」
「ばれない...ですか?留守番でも構いませんが...」
「せっかく散歩に行くんだぞ?みんなで行こうじゃないか」
「ご主人様...ありがとうございます!!」
「こほん!今はリリィという事忘れるんじゃないぞ?」
「も、申し訳ありません!!」
その後少し話し合いジルニルを鳥に変え肩に乗せる。
サイズはそこまで大きくないが白銀の翼をもつ小鳥。小ぶりでかなりかわいい。
「さぁ行くぞ!我輩もこの街を歩いてみたかったのだ!」
カオスが楽しそうに飛び出していき俺たちもその後を追う。
シーラとキーラは髪色と身長こそ変化しているものの顔は以前とたいして変わりはない、身長は170程にまで成長し、だいぶ大人びている、髪色も茶色になり横に並ぶとリリィの家族のようだ。まぁ髪色が違うならばれないだろ。
だいぶ楽観視しているがシーラが大丈夫というので大丈夫なのだろう。
一応、疑われた時の対応としてシーラ達は姉に扮してもらうことになる。
つまり、何か食べたいときは姉にねだることになる、
カオスに関しては私の友達だ、一番不安なのはこいつであり、設定的に無理がありそうというのが感想だ。
カオスは何の気なしに焼き鳥をおねだりし出来立てを買って貰っている。
怪しまれない為に俺も焼き鳥をおねだりする。これは断じて食べたいわけではない、あくまでも偽装工作の一環だ。
「お姉ちゃん私も焼き鳥ちょーだい!」
「はい、熱いからやけどしないようにね」
カオスがシーラにおねだりするので俺はキーラにおねだりをした、実の妹をお姉ちゃんと呼ぶのはかなり抵抗がある、ただこれも演技、俺ではない以上恥ずかしがる必要はない。
キーラもそれをしっかりと理解してくれているのかちゃんと設定通りに対応してくれている。
白い小鳥になっているジルニルを肩に乗せた状態で食べる焼き鳥はかなり罪悪感が沸き正直気が進まない、ただ当の本人も焼き鳥を食べているので今は気にしないようにしている。
焼き鳥を食べ終えた後はカフェに行き軽い女子会を行った。優雅に紅茶を嗜みデザートを貪る。
おいおい...カオス食いすぎだろ....
少女となり始めて感じる空腹感を紛らわせる為に食べているのだ。それにしても食べ過ぎだが...。
そうして俺達...いや私たちは戦争の準備に追われるマナ達を他所にのんびりとした日常を送った。一家団欒のような時間を楽しみ、ほのぼのとした日常を過ごし只戦争が始まるのを待った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
戦争の準備は滞りなく進み全軍の配備が完了した。
王国軍の総数は約206万。
大半がアンデットで構成されているが列記とした人間の王国の軍団である。
後の世に残された伝記には死の軍勢に挑む人類の戦争と記された。
何故か帝国が善として記されているが全くの誤解だ。侵攻してきたのが帝国でこちらは防衛側である、周辺国からの協力を受け大帝国の猛攻を耐える善良な民である。
魔王の配下含む大連合に対するはインデュランス帝国。
広大な土地を所有し国民総数は定かにはなってないが数億人と残されている。
間違いなくこの世界で最大規模の国だろう。
帝国兵200万。
大半がアンデットで構成されている連合軍とは違い一人一人が専業戦士で構成されており、その実力は折り紙付き。
最初こそ帝国軍は200万という圧倒的な戦力だったが、戦場に赴いてみればアンデットの大軍勢。
戦場を埋め尽くすほどのアンデットの数だったが、帝国兵の士気は高い。
200万のアンデット。それも最下級の魔物であるスケルトン。
専業戦士の敵ではない。
指揮を執るは炎帝と雷帝。
五大皇帝の内二人の皇帝が同時に戦場に出たのはこれが最後の戦争だった。
皇帝は一人で一国を容易に堕とすほどの過剰戦力を所有していると言われているせいである。今までは共闘する必要もなかった。
今回の戦争で二人も出てきたのは帝国が覇王をそれほどまでに危険視していたという事だ。それは幸か不幸か帝国の運命を大きく左右することになった。
人間史に残る最大規模の戦争が今、始まろうとしていた。
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