第28話 国堕とし

「この戯けめが...」


 その一言で大体の察しはついた。

 断頭台をメキメキと言わせオーラを抑えることもせず垂れ流し大地は恐怖からか震える、そんな存在俺が知る限り一人...いや二人しか知らない。

 もう一人はそんなことするはずもないので、必然的にもう一人になる。


「カオス!!お前何をするつもりだ!!」

「黙るんだ!」


 目の前に立つカオスは拳を握り締める。その拳にどれだけの魔力が込められているかも知らずに。


「おい!待て!その量は流石に不味い!!シーラ!全住民を非難させ...」

「戯けがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 そして放たれるカオス渾身の一撃、それは無防備な俺の顔面に直撃し尋常ではない衝撃波を生んだ。

 カオスの放った渾身の一撃は帝国の都市を巨大なクレーターに変えた。

 この星の核に迫るほど大きく空いた穴は数年後に水上都市に変貌したという。

 覇王の配下よって巨大な地下ダンジョンを攻略する冒険者で賑わったと言う、その水上都市の名は...。黄金卿、冒険者なら誰もが憧れる最高の都市であり最高峰の冒険者が集まる大都市になった。

 だが、後の人々は知らない。

 この巨大な湖が一人の少女の一撃によってできたという事を。 


 カオスの攻撃を受け一瞬意識が飛んだが、シーラによって目が覚める。


(大丈夫ですか?)

(大丈夫だが...大丈夫とは言えないな...この国は...)

(いえ、かえって好都合です)

(どういうことだ?)

(まずは、カオスの相手をお願いします、私がマナを誘導しこの国を堕として見せましょう)


 シーラの頼もしい言葉。俺は長年の相棒の言葉を信じる事にした。シーラが出来ると言うのなら出来るのだろう、どういったプランで世界最大の国を堕とすのかお手並み拝見といったところだ。


 さて...俺の相手はカオス。

 ここ最近カオスと戦う事が多い気がする...正直骨が折れるのでやめてもらいたい所だ。

 現在の場所はカオスが明けた大穴の底、よくもまぁこれだけ大きい穴を上手く調整して開けるものだと感心させする。そんな俺が関心している時にわずかな生命反応を感じ取る。


(シーラ、わずかに生き残りがいる様だが)

(はい。お兄様の指示通り地上に住んでいる、住民は全員退避させました、そして地下都市の異世界人達は丁度よかったので、お兄様たちの戦闘を観戦しやすいような位置に転移させました。さすがに人数が多かったので、100人程。残りは地上に退避させてあります)

(なるほどな、なら俺は気付いてないふりをしつつカオスと戦闘か...)

(はい、そうなります)

(余波に関してはさすがに庇えんぞ?)

(問題ありません計算してあります)

(そうかわかった)


 なるほどな、これもすべてはシーラの計画の一つという訳か。

 シーラとの通信を切断する直前


(そういえば、エミリア・マトラティスはどうなさいますか?)

(んー誰だそれ?)

(遥か昔、マナの従者をしてた者です。以前は帝国にて捕縛、現在はお兄様にあった事をきっかけに捕虜のふりをし帝国に潜んでいたようです。どうなさいますか?)

(マナの従者ならマナに任せておけばいいだろう)

(畏まりましたではそのように...)


 今度こそ通信を切断し、遥か上空に目を凝らしてみる。

 そこには物凄い速度で滑空してくるカオスの姿がある。あいつ...そのまま俺を殴ってくるんじゃないか?


 そして俺の予想は的中する。

 怒りの込められた拳を華麗に躱し空を切った右ストレートを軸に反対方向へぶん投げる。速度はさらに加速しカオスはそのまま壁へと衝突する。

 地下、それも星の核の近くは地表がとても固い、岩盤に打ち付けられたカオスもこれは流石に痛かった様だ。


「まったく、帝国をこんなにしおって、少しは反省しろ」

「グレース...お前はわかっていない、何度も何度も試しおって」


 ん?こいつは一体何に怒っているんだ?

 身体に載った瓦礫をどかしながら立ち上がり壁に手をつく。


「何度も何度も残された者の気持ちを弄びおって...」

「ん?お前は何を言ってるんだ?そもそも、俺が死ぬ計画を立てたのはお前だろうに...」

「うるさい!!!」


 カオスが壁を叩くと壁は抉れ、抉れた部分の岩盤は球体となり大地を大きく揺らす、5m程の岩盤の塊を光以上の速さでこちらに投げてくる。

 流石にその程度の攻撃に当たってあげる程俺は優しい訳では無い。


「この世界は窮屈だ。我輩にとっても、お前にとっても。それを楽しいと思ってる。我輩もお前も...我輩はこの世界が好きだ。この窮屈で脆く儚いこの世界が。ゼルセラから聞いた、お前の居ないこの世界は生きる価値がないと思える程退屈だと。あいつの言葉で我輩も気付かされた。我輩だって同じだった!我輩も...お前が居ない世界はつまらない...退屈な世界は楽しくない...」


 いつになく真剣なカオス。こんな一面もあるのかと思うほど。

 ただ...こいつは一体何を言ってるんだ??


「ようするになんだ?」

「我輩はお前の居ない世界を想像したくない!!それを何度も何度も思い出させおって....」


 言葉と共に巨大な岩が飛んでくる。

 完全に八つ当たりだろ...これ...。

 要するに、あいつが俺の居ない世界の事を想像して悲しくなってるだけだろ?

 完全なとばっちりだ。ってか...カオスって俺の事好きなのか?いや...あいつは好きなんて感情知らないか...。

 まぁいい軽く遊んでやるか。


「さぁ来い、遊んでやる」

「違う!!!反省しろ!!!」

「は?」


 突如大穴の上空に巨大な水の球体が生み出される。

 おいおい、あれをどうするつもりだ?!?!

 そして巨大な水球は降下を開始しやがて大穴を水で満たした。

 別に水が苦手という訳では無い、呼吸も出来るしなんともないので、怖がる必要もない。

 完全に水が辺りに満ち水流が落ち着いたころ、俺は水中にて大地を蹴り上がり、上空へと一気に駆け抜ける。


 上空へと到着した俺は辺りを見渡すと、別の方でも戦闘が起きている事に気が付く、あれがエミリア・マトラティスか...あぁそういえば居たな...この世界に来た時に会った吸血鬼だ、洗脳は解いておいたので、勝手に脱出したものだと思っていたが。まだ、帝国に居たのか。

 もう少ししたら俺もあっちに顔を出すとしよう。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 グレースは広場に来る様言って居たのでキーラとゼルセラにも伝えのんびりと広場へ向かう。

 なにやら、デモンストレーションがあるらしいが、どうやら遅れている様だ。


「まだ始まらないのかしら」

「さぁ、何か問題でも起きたんでしょうか」

「兄様に何かあったんじゃ...」


 キーラの言葉にゼルセラは多少の動揺を見せるがフェイクだろう。ゼルセラがこの程度で動揺する訳が無い。

 私達を呼んでおいて遅れるなんてどういうつもりよ...まったく。


 ふてくされる私を気遣いキーラは別の方向を指さす。


「あっちの方に露店があるので見に行きませんか?」

「ナイスアイデアね」

「まったく食い意地の張ったメスと言うのは...」

「何か言ったかしら?」


 怒りの感情を込めてゼルセラに視線を向けるとゼルセラは何でもないかのように視線を逸らす。

 まぁそんな事は置いておいて、露店にある食品を見て回る事数時間。

 兎の丸焼きや、串焼きなどを大量に買い漁り再び広場に戻ってきた。

 両手一杯に食料を抱え歩く姿をゼルセラにみられ、その嘲け笑う姿に怒りがこみ上げる。


「乞食の様に物をあさるなんて、浅ましい」

「なんですって?!?!?!?!普通に購入したわよ!!漁るなんて失礼な!!」


 私とゼルセラの喧嘩をキーラが宥めているとようやく広場で動きがあったらしく、開会のアナウンスが響き渡る。


「これより、噂に名高い覇王を処刑する。我が国は戦争に負けた、だがこうして覇王を捉えることに成功した。見よ!これが覇王の真の姿だ」


「え...え?!処刑?!?!」


 私とゼルセラは盛大に飲んでいた紅茶を吹き出した。

 ゼルセラが噴き出した紅茶の飛沫が完全に掛る。


「ちょっとゼルセラ!汚い!」

「貴女こそ!!」


 どうやら互いに掛け合ったみたいだ....そんな事より...グレースが処刑??

 まさか昨日の夜遊びがこんな事になるなんて...でも、グレースなら問題ないわよね?


「グレースの首についてるあれって一体何かしら」

「あれは...ステータスの制限とスキル制限の類ですね」

「それってまずいんじゃ???」

「はぁ...まったく、貴女は愛人でありながら未だにそんな事を疑ってるんですか?」


 やれやれと言う表情を謙虚に表すゼルセラに再び沸く殺意。

 まぁ私だってグレースならなんともないのは理解している。

 言い争っているとドラムロールが鳴り響きグレースの首目掛け剣が振り下ろされる。

 弾かれて終わり、私はそう思っていた。


「覇王よ。どうせ死ぬなら俺が引導をくれてやろう」


「あれはッ!?!?!」

「あの時の....」


 以前相対した宿敵、ゼルセラさえも軽々と吹き飛ばし、明確な敵意を向けてきた謎の敵。

 突然の事態に戦闘態勢をとる私とゼルセラをシーラが宥める。


「まぁ二人とも一旦落ち着いてください」

「もう...兄様ったら...」

「キーラちゃん?どういう事?」

「あ...えっとそれは...」

「ッ!?!」


 その時だった。

 常に冷静だったシーラの顔が曇る。

 壇上に座らされているグレースの背後に見覚えのある姿が...


「あれはカオス?!」

「あの方は一体何を...」


 現れたカオスは拳を握り締めグレースを殴りつける。


「緊急ですが、集団転移魔法を発動します。備えてください」

「え?」


 一瞬にして切り替わる視界に映し出されるのは、巨大な穴。

 反対岸は見えるが、かなり遠い...それに...深い...。


「あらあら...やっちゃいましたね...」

「はぁ...ですが良い機会です」


 地形の位置情報から分かるが、帝国の都市は丸ごと消えた。

 シーラちゃんが転移させたのは私達以外にも居たらしく恐らく帝国の民だと思われる人々はざわざわと騒いでいる。

 するとどこかで戦闘が発生しているらしく魔法が放たれている。それにこの魔力...どこかで...。


 なんとなく皆で転移して見ると懐かしい顔が見える。


「今まで私をさんざんコケにしてくれたお返しじゃーーーー!!!!」

「ひーーー」

「今まで...本当に...電力の代わりに魔力を使うとか言ってひたすら魔力を吸いやがって...それに!!!!!スカーレット様まで....絶対に許さん!!!!皆殺しにして...」

「エミリア~久しぶりね~」

「うるさいババァ!!こっちは取り込み中じゃーー!!!!下っ端の吸血鬼はすっこんどけヶ!!」


 かなり昔にはなるが共に過ごしていた金髪の少女その幼い顔からは聞いた事も無い様な暴言の数々。

 それに...何?私がババァ?いい度胸ね...ほんと...笑わせてくれる。


 吸血鬼の階級的に私は最上位。グレースと出会う前は【吸血鬼の姫】だったが今はさらに進化し【血之女王ブラッティークイーン】にまで至る。血を吸う姫は血を操る女王にまで進化を果たしたのだ。それを何?

 下っ端?この私を?

 躾....いえ...粛清...粛清が必要だわ。


 特殊能力を使い血の剣を創り出す。覇王級にまで昇華した私の扱う血の剣は大抵の者には止められない、はず...。


「まぁ、っぷ....クックッ....あの、下っ端の方は出しゃばらないでもらっていいですか?ぷぷッ」

「何よゼルセラ私の剣を放しなさい!あの子には分からせてやる必要があるわ!!」

「あの程度の吸血鬼邪魔にはならないので、下っ端の方は...ちょっと..ぷぷ」


 っく...こいつ...私の剣を掴んでびくともしない、刀身を掴んでいるというのに、この馬鹿力....。しかも笑いを堪えながら...いや、堪えられてないが....それがまた腹が立つ。

 こいつをまず何とかしないと...。そうだ...。


「見なさい!あの子帝国の住民を殺そうとしているわ。もし後でグレースとの関与がしられたら後々建国の際に響いてくるわ。わかるわよね?あの子を野放しにしとくとグレースに迷惑が掛かるのよ?め・い・わ・くが!!!」

「なるほど、では、早急に沈めるとしましょうか」


 この馬鹿力天使ゴリラエンジェルまじでちょろい。

 さてと、協力してくれるのなら話が早い。そこの生意気な小娘を強引に力で分からせる。

 その時の上等手段が覇気だ。グレースの覇王覇気程では無いがしっかりと所持している。

 覇気のスキルに効果が乗るステータスはHP、素の体力が多ければ多い程覇気の効果は上昇する。

 私達の体力はこの世界で異常とされる程膨大な量を誇る。

 さて、そんな覇気を使用したらどうなるか。答えは単純。敵味方関係なく平伏である。

 小娘と一緒に帝国の民たちも一緒に平伏する。

 

「ようやく名実共に王になる時が来たみたいね」

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