第27話 現行犯で死刑?
朝、目が覚めると何やら外が騒がしい。
まさか、マナの訪問が騒ぎになったのかもしれない。
恐る恐る窓の外を眺めると案の定昨日のガールズバーの前に人だかりが出来ている。
あぁ....きっとマナのだろうなぁ...まさか自分の身の上まで言ったんじゃないだろうなぁ...。
寝起きのマナをちらりと見てみれば勢いよく首を横に振った。
いや...お前以外に誰が居るんだ...まったく...。
「早く鎮めてくるんだ」
「うぅ...私じゃないわよ...」
トボトボと歩く背中を見送ったが念のためついていく事にした。
ここで暴れられたらせっかくの潜入旅行が台無しになってしまう。
賑わう人込みをかき分けていくと店の人と警備隊らしき騎士が言い争っているのが目に入ってきた。
「ですから!あの方の行方は私も知りません!」
「しらばっくれるな!昨夜ここを訪れたことは既に知っているんだ!」
「ですから!!帰った後の事までわからないって言ってるんです!!」
「うぬぬ...」
そんな争いを野次馬に交じって聞いていると店員の子と目が合った。
『あっ』
言い争ってたの昨日の牛娘の子か...むむ...まさか...。
嫌な想像が頭を過る。
まさか...トラブル起こしたの...俺か?
非常にまずい...これでもし俺がここに遊びに来てた事がばれたら俺が怒られるかもしれない。
それだけは避けねばならない...ならば...。
「マナ...お前は宿に戻るんだ」
「どうしてよ、釈明の必要があるなら私が...」
「違う。覇王の妻が女遊びとか流石にイメージダウンだろ?それなら、正体がばれていない俺が罪をかぶる方が幾分も安い」
「確かに...そうかもしれないわね...」
牛娘の子と目が合ったのだし仕方がない。
さわやかな笑みを浮かべながら騎士の前に立つ。
「なんだ少年」
「昨日お世話になったお店でトラブルが起きてるようだったからね、解決しようと思って」
「少年。まさか君...この店で大金貨を使ったのは君か?」
「そうだよ?まずかった?」
辺りが静まり返り妙な空気が漂う。
「そうか少年。一度城に来てもらおうか」
「城?さすがにお金使いすぎたかな?」
確かに貴族ですらあまり持っていない金を持っていれば怪しくもなるか...まぁ疑いがそれくらいでよかったけど。
特に抵抗する事も無く何故か手枷を付けられる。ん?
「これはどうゆう事?」
「君は死刑だ」
「ふーん。って...は?!死刑?金使っただけで?」
「童帝様が決めたことだ。詳しいことはあの御方に聞いてみると良い。聞ければだがな」
まぁいいか。
楽しそうだから行ってみようと思う。あわよくば童帝に直接会えるというもの。
「ちょいとお持ちよ」
「むむ」
現れたのは昨日のガールズバーのオーナーだ。
見た所人間種であり、多少スタイルが良い位だ。褐色の肌は男勝りな一面を浮き彫りにしている。
「その子はうちの精鋭。勝手に連れて行ってもらっては困るのだけど」
「精鋭?俺男だけど?」
オーナーの言ってることが理解できず首を傾げていると腰に違和感があった、振り返り見てみると、俺の腰には牛娘の子が目に涙を貯めながら首を横に振っている。
精鋭ってこの子か...。
「大丈夫だよ。明日を楽しみにしといて。だって俺は(覇王だから)」
最後の言葉は頭の中に直接伝え頭を優しく撫でる、涙を浮かべながらも頷いてくれたので俺は騎士についていく事にした。
騎士に歯向かった以上あのオーナーはこの国に居辛いのではないだろうか...ならば俺の所に来させるのありだよな?ゲーム好きなこの牛娘の子が居れば俺の計画も完璧に近ずくかもしれんしな。
騎士に連れられて歩くこと数分、奇妙な魔方陣の上に立たされるとそのまま魔方陣が発動した。
発動したのは転移魔法、と封印術。
危ない危ない、急いでスキル切って正解だった、何もしなければこの封印術を壊してしまう所だった。
自分の首元には鎖が付いていた。
どうやら能力封印系の魔道具らしい、まぁ...壊そうと思えばいつでも壊せるんだけど...そもそも壊す必要もないけど、童帝は俺に何をするのだろうか...。
俺の身柄は騎士から男と女の二人組に引き渡されることになった。
そして興味深いことに気付く。
こいつらレベル高いな...
全身鎧で身を包み完全武装の男のレベルは680、女も520とこの世界からしたらかなり高レベルなようだ。
ふむふむ...異世界人か?
「来い」
男は一言それだけ言うと歩みを進める。
なんか面白いことを言おうかな?
「680と520か」
「なにを言っている」
感のいい者ならば気づいているはずだ。
能力を封印されているはずなのに解析スキルを使用していることに。
だが、俺の期待ははずれ...こいつらは気づく素振りもない...。
やがて俺が連行されたのは大きな部屋だった。
徐に武器を取り出し俺の横に張り付く。
「無様だな」
部屋に入り早々罵られなにかと思いきや金髪がよく似合う青年の姿があった。
ただ...
「俺にホログラムと会話をする趣味はないよ」
「ほう...」
そう、この童帝はホログラムで投影されているだけの存在、ここに居るのは本物ではない。
「まぁいい、一目見ておきたかっただけだ。連れていけ」
「はぁ...それだけのためにここまで歩かされたのかよ」
その後、俺は牢まで連れていかれた。
石造りの床と壁。それから申し訳程度に布団の様な布切れ、さらにプライベートの丸見えのトイレ。
なんだこの劣悪な環境は!!
今まで贅沢な暮らしをしていただけに耐えられない。
しかもさっきの二人が俺の牢の前でずっと待機しているので永遠に監視下にある状態だ。
あぁだめだ、喉か沸いた。
パチン
俺は指を鳴らし牢の内装を根本から変えた。
壁と床は木材を上から被せ、壁は白く塗装する、小さい換気用の小窓も作り変え大きめの窓を用意した、しっかり開け閉め可能である。
さらに机と椅子を用意しその上に料理を出した。ゆっくり腰を掛けて紅茶を飲む。
「貴様!何をしている!というよりどうしてそうなった!」
「ここの環境最悪、最低限の必需品だ、まったく、俺を誰だと思って...」
「は?貴様が誰かなんぞ知らん」
もう一度指を鳴らしティーボーンステーキとショートケーキを生み出す。
「食べるかい?」
「そんなもの食べはしない!」
「これは没収しておくわ」
男の方は必死に肉にあらがっているが、女の方は駄目だ。
俺に背を向け食べているが、上機嫌なのが伝わってくる、当たり前だろ?最高位のシェフが作ったショートケーキなのだから。
女のお陰で多少の贅沢は許されたので、のんびりと明日まで過ごす。
どうやら明日は俺の死刑が執行されるらしい、なんとも行動がお早い事で。
念の為マナ達にも連絡を取っておく。
(マナ、俺だ)
(そっちの様子はどう?なんか連行されてったみたいだけど)
(童帝に会えるかと思ったんだがな、幻影だった)
(そう...それで、明日には帰ってこれるのかしら?)
(いや、明日は少し用事が入ってるな)
(用事?なによそれ)
(明日広場に来ればわかるさ、じゃ、おやすみ)
(ちょっ・・・)
一方的に通信を遮断し目を閉じる。
他の囚人とは違いふかふかのベットなので寝付けないわけでは無い。
どちらかというと、明日が楽しみ過ぎて寝付けないのだ。
とは言っても、さすがにする事もないので寝ることにする。
目が覚めると既に太陽はかなり上がっていた。
普通囚人って朝早く起こされるのではないのだろうか、ベットから降り洗面台で顔を洗う。
ふと牢の外を見てみれば看守を含めた多くの騎士が必死に牢をこじ開けようとしている。
なにやら叫んでいる様に見えるが...あっそういえばあまりにも煩かったから音を遮断したんだった。
そっと解除するとあまりにも煩かった。
静かになる気配がないので【
ゆっくりと椅子に座り紅茶を嗜み、一息ついた所で俺の牢の監視役に就いていた二人にだけ発言の許可を出す。
「既に広場に人集まっちゃってるので早く支度してください!もう、執行時間すぎちゃってるんですよ!」
「え?もうそんな時間?それは急がないとな...案内してくれ」
ゆったりと立ち上がり牢を開く。
「あれ?囚人の鎖どこやりました?」
「ん?あぁそういえば...寝るときに邪魔だったから外したんだったな、ホレ」
そういい自分に鎖を付ける。
「後、これもつけてください」
そういい女騎士がつけたのは鉄球だ、足首につけられているが正直重さを感じない。
まぁそれは良いとして。
「さぁ準備も終わったし行こうか」
「は、はい」
そういえば【覇王之威光】解除してなかったな。
パチンと指を鳴らしスキルを解除する、するとざわざわと話し声が聞こえはじめる。
「あれほんとに死刑囚か?」
「そう聞いてるけど...」
「死刑囚ってなんだっけ?」
あぁそういえば死刑囚だったな俺。
という事で死刑囚らしく騎士二人の後をついて歩いていく。
大人しく歩いていると途中で目隠しをされてしまった、理由がわからないが大人しくなされるがままに目隠しを受け入れる。そもそも魔力を使って周囲を感知しているので別に目を隠されたからと言って見えないわけでは無い、なので普通に歩行できるのだ、周りは何故なんとも思わないのか...。
手枷に鉄球、さらに目隠しまでされているのにふらつくことも無く歩いていることに普通であれば疑問を抱くはずだ...。
正直何故聞いてこないのかこっちが不安になってしまうほどだ。
数分間歩き続けた感じかなり高い所に来ている様な気がする。なんとなくだが、人も集まっている様な気がする。まぁ公開処刑なので仕方ないが、まさか俺の正体ばれているのか?普通に考えて一般人を処刑するだけで民衆は集まってこないだろう、そもそも俺は処刑されるような罪犯してない気がするが....
目隠しが外され見えてきた光景は圧巻だった。
城の上層から一望できる王城前広場には多くの民衆が集っており、集合体恐怖症の人では逃げたくなるほどだろう。
よく見ると、マナ達の姿もある、ちゃっかり約束は守ったようだ。
まぁこれから始まるのは公開処刑なんだけどな...さて...どんな反応をするものか...というより、俺が何をすれば面白い展開になるだろうか...タナティスでも召喚しておくか?
俺がそんなことをのんびり考えていると空中にどでかい童帝がホログラムとして現れた。
この国の技術力はすごいな...。
「これより、噂に名高い覇王を処刑する。我が国は戦争に負けた、だがこうして覇王を捉えることに成功した。見よ!これが覇王の真の姿だ」
その言葉に民衆たちがざわめきを見せる。
流石にこんな少年があの覇王なんて誰も信じないだろ...
と俺も思っていた。
どうやら目隠しをされている間に俺の擬態の魔法は解除されていた様だ。
まぁ、あの黒髪の姿を真の姿と言われると辛いからな...これに関してはむしろ助けられた様な気がする。
クソガキの様な見た目をした童帝が俺の罪状をぺらぺらと述べる。
罪状は不法入国及びゲームの不正行為、それから...人身売買。
おい!俺がいつ人身売買なんてしたんだよ!!クソガキ覚えとけよ!
どうやら罪状の読み上げが終わったらしくついに俺の処刑が執行される。
俺の処刑を行うのは昨日から俺の牢を見張っていた二人。
何故だか愛着まで沸いてしまっている二人に殺されるなら本望だろうか、まぁ死ぬつもりは無いんだけどな。
この世界では中々レアな武器で処刑を執行するらしく、この二人もこの国ではかなり高位な騎士なようだ。
許せ...
徐々に早まる打楽器に合わせ俺は下を向き首を差し出す。
そして打楽器の音がピークに達した時俺の首目掛け剣が振り下ろされた。
その瞬間に血飛沫が飛び舞台を赤く染め上げる。
俺の血では無く。俺を殺そうとした二人の血だ。
俺がやったのではない、タナティスを召喚したのだ。
全身を漆黒の鎧で包み手には禍々しい剣を握っている。
「覇王よ。どうせ死ぬなら俺が引導をくれてやろう」
いいぞ~これで自作自演はばっちり、後は俺がこいつの攻撃を受けるふりをしてこの場を脱出する。
手筈だった...。
タナティスが剣を振り下ろそうとしそれが俺の首元でぴたりと止まる。
俺はそんな命令を出していない。では、何故攻撃をやめたのか、それはより強い敵意にさらされたから。
俺の居る断頭台の階段をメキメキと言わせながらゆっくりと階段を上ってくる。
一歩進むたびに大地は揺れ、断頭台は悲鳴を上げる。タナティスも怖気づいたのか剣を構える。
「この戯けが...」
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