第29話 建国の下準備
帝国の重鎮たちがひれ伏す中私は今、一人の少女に矛先を向けている。
それはこの少女の発言に問題があったからだ。重大な、そうとても重大な...ゼルセラであれば多少の暴力が許されるが、いたいけな少女であれば謝罪で...
生み出した最高レア度を誇る剣を少女の首元に突き付け微笑みかける。
「それで、誰がおばさんですって?」
刀身はより一層煌めきを増させ少女の白磁の肌に迫る。
「すいません!!本当にすいません!!私よりも上位の存在がまだ、この世界に居るとは思わなくて!!ほんとにすいません!!」
「おばさんの件に対しての謝罪はどうでもいいので、さっさと始末してしまいましょうか」
ゼルセラの手には同じく最高レア度の大鎌が握られている。
少女の背後に回り大鎌で首を根本から抑える。
「ゼルセラ、せめて謝罪を聞いてから殺しなさい」
「仕方ないので、謝罪は手短に、おばさんはせっかちなので」
手に力が入り、剣を持つ手がカタカタと震え少女の柔肌に触れ少女はより一層怯える。
「ほんとに私が馬鹿でした!!すいません!!ようやく解放されてつい心が緩んでしまって!もう2度としません」
「随分と態度が変わったわ...見ないうちに...」
私の問いかけに対し、初めて困惑した顔を浮かべる。
「外見は一切成長がない様だけど、態度が随分大きくなったわね」
「ま、まさかあなたは...いや...でも、あの方は...」
なるほど、この子は私が死んだと思っている、だが、しかし許しはしない。
「もし仮に私がそのあの方だとして、謝罪は?」
「はい...良かったです...もう...会えないと思っておりました...」
「はぁ感動の再会な所悪いですが、ご主人様の障害となるなら今ここで、死んでもらいます」
うぐっ!
こいつ融通が利かない...。
利用するには便利だが、障害となると立ちはだかる。
「もうだめですよ...二人とも、こんなかわいい子にそんな脅し...」
私とゼルセラの武器を抑える。
ゼルセラはキーラに言われればすぐに武器を下げる、絶対の主人であるグレースの妹の指示はきっちりと瞬時に聞く。
私の指示は全然聞かないくせに...。
「あわ、あわわわわ、わわわわわあ....アァァァァァ」
突如少女が狂ったような叫び声をあげる。
気が触れた?昔はそんなこと...なにかしらのトラウマ?帝国に捕まっていた時になにか...
「大丈夫ですか?怖かったですよね...」
「あ、あああ、ああああなたは...まさか...」
キーラちゃんを見て動揺している?
何故?という気持ちは残る...が...ん?まさか...。
「エミリア、もしかして...銀髪にストレートで腰より長い男の人と会ったことある?」
「あぁ..あぁぁぁ....いや..嫌ぁぁぁあぁぁ」
あぁ....もしかして昔グレースに何かされた...のか...。
理解できた。
魔力量を可視化して見れるエミリアなら、トラウマになっても仕方がないはず、いやそれしか考えられない。
エミリアは可愛い、こんな美少女をグレースがミスミス逃すわけが無い、実際なにかされたのだろう。
つまり...。
「ゼルセラ、殺すのは止めだわ。きっとこの子はグレースが何かしらの計画の為に生かしているはずよ」
「のようですね、残念。せっかく容姿がある方の幼い頃に似ていらしたので、生きたまま拷問でもしようかと」
「ひっ...」
「ねぇゼル...それって...私の事じゃないわよね?」
「一言もおばさんの事だなんて言っておりませんことよ、おほほ」
こいつ...よし殺す!!!!
手に持つ剣を自分が扱えるギリギリの速度で振りゼルセラに斬りかかる。
「あらあら~野蛮ですこと」
「今日という今日は絶対に許さないわ!!ぶっころす!!!!」
いとも簡単に攻撃を受け止めその笑みを深くする。
やっぱり強い...ゼルセラ...なんて邪魔な女なの...。
剣戟を10数回交わした後、周りが騒めいている事に気が散る。
この世界からしたら、高度な戦闘を見せられ、帝国の民達はこの戦いに魅了されている。
っち...邪魔だな...。
力を出し過ぎれば周りに被害が出る...シーラちゃんが避難させたってことは生かしたいから...つまり...シーラちゃんの計画に帝国民が必要...。
「いいから、早く私に倒されてくれない?」
「あらあら?私がほんの少しやる気を出したらどうなると?」
そして....。
「さて、お前たちが何故、争ってるか、聞かせてもらおうか」
何故だろう、体の震えが止まらない。
遥か上空から私とゼルセラを見下ろす男に、恐怖を覚える。いや...恐怖なんていつ振りだろうか...
「グレース...」「ご、ご主人様....」
これは覇王覇気...。
抗う事の出来ない魂への脅し。心臓に刃を突き立てられ...いや、刺されたかの様な感覚が続く。
私達でこれなのだ、覇気に当てられた一般人はというと....大抵は泡を吹いて倒れている。
エミリアと帝国民の中でも、実力上位者だけがぎりぎり意志を保っている。
「さて、聞かせてくれ」
「これはその...」「あっちが勝手に...」
「ちょっとゼル!?」
濡れ衣だ!!!!
と必死に目で訴えかけてもそれは伝わらない。
「シーラから色々聞いたぞ」
グレースに睨み付けられ私とゼルセラは恐怖に震える。
「私は...」
「申し訳ありませんでした...ご主人様。取り乱しました...」
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ)
嘘?!
ゼルセラは綺麗な土下座をしていた。それはもう芸術的な土下座だ。
そうか...そういうことか....
ゼルセラは学んでいたのだ。
言い訳ではなく、精神誠意謝る事で、許してもらう。ゼルセラも学んでいるのだ...。
学んでいなかったのは...私...か...。
「まぁいい、頭を上げろ」
「はい」
私も気が付いたら頭を下げていた...。きっとそれが正しいんだと。なんとなく思ってしまった。
「エミリア・マトラティスだったな、元気だったか?」
「ヒッ!!!」
「何を怯える?俺は元気だったかと聞いている」
覇気を切り忘れているグレースに聞かれては怯えるエミリアが答えられる訳がない。
「元気でした...」
「そうかそうか、だが、せっかく洗脳に対する反魔法を掛けてやったんだが、何故いつまでも帝国に居たんだ?出る事だって出来ただろうに」
「え?あれって...反魔法だったんですか...?」
「あぁ、洗脳を受けてるのは見て取れたからな、解放してやろうと思ったんだが」
あぁそういう事か...。
ようはエミリアの勘違い。上位者から掛けられた魔法は解析できず、いつ殺されるか分からない恐怖に震えていたのだろう...。
「まぁいい、シーラが言っていた通り、帝国の民達は良い感じに臆しているようだな」
「まさか、私とゼルの喧嘩も...」
「計算通り...だったようですね」
「まぁそういう事だ、よくやってくれたな、二人とも」
結局...手のひらの上で転がされていた、ただそれだけで全てはシーラの計画通り...。
今の状況を見ていた帝国の実力者達はもう、グレースに逆らう様な真似はしないだろう、事実帝国のトップ...童帝は既に服従を誓っている...。
あぁやはり、私達ではこの兄妹に勝てない...。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんで...あいつらは喧嘩してるんだ...。
シーラの話ではマナを誘導し、この国を堕とす算段を立てるという話だったが...カオスとの戦闘を終え来てみれば...なにガチで戦ってんのこいつら...。
昔助けた少女エミリア・マトラティス、俺の予想では、帝国から逃げ出して、俺の元に助けて貰った恩を返しに来る。はず...
だが、なぜか来なかった。
正直、不思議でしかなかった。
よくわからな過ぎて、忘れていたくらいだ。
記憶にすらなかった訳だが、シーラに言われ、思い出したのだ。
それなのに...その子の前で、死闘が繰り広げられている。何故?
酷く怯え切った少女に憐みすら覚える。
これだと...俺の助けてあげた功績ならぬ好績が...。
そう思ったら、喧嘩している二人に怒りの感情がこみ上げてくる。
「あいつら...喧嘩ばかりしおって....」
俺は上空で覇王覇気を使用し声を掛けた。
「さて、お前達が何故、争ってるか、聞かせてもらおうか」
問い詰めようと思ったが、呆気なく二人が土下座するので、仕方なく許すことにした。
拍子抜けも良い所だ。
まぁ二人が会心したのなら、よしとするか。
問題はこちらだ。
都を失った王が俺に頭を下げる。
「降伏します...」
「童帝、俺と張り合うのでは無かったのか?」
「私の忠実なる臣たちは既に降伏状態です...それに...勝てるとは思えません...王とて元は人の身...命は惜しいのです...それならば...国を献上しその発展をいち民として...見守っていきたいと思うのです」
「そうか」
早いなぁ...展開...。
何故、そんな早く降伏を申しでたのか...シーラが一体何をしたと言うのか...
「いいだろう、なら一つ計画に協力してもらうぞ」
「計画でしょうか...」
「あぁ、まぁ計画は後日だな」
さて...どうしたものか...帝国の首都は吹き飛び跡形もなく消し飛んでいる。
クレーターには水が貼られているので、水上都市なんてよさそうだが...。
「ゼル!お前に挽回のチャンスをくれてやろう」
「はっ!なんなりとご命令を」
「そこのさっきできた湖に黄金卿を作るんだ」
「そ、そのような事で、先程の非礼をお許し下さると?!」
俺はゼルセラの意見を肯定する。
ゼルセラの作り出した黄金卿は一部の趣味を除き完成度は高い。
シーラが先程建国がどうのこうの言っていたので、首都にするのなら、手っ取り早いだろう。
周りは動揺しているが、当の本人はやる気満々だ。
なので任せる。
任せた結果。とんでもないものが出来た。
まぁゼルセラに頼んだのだ、想像よりいいのが出来るに決まっている。
出来上がったのはまさしく神の都。
俺が黄金卿を見たのは2年前、時空の狭間では1時間が1万年に拡張されている、その世界で2年。つまり...1億7千万年が経過している。
つまり...その分黄金卿も進化している。
見た事もない装飾に店、そして....見た事の無いピカピカな黄金像
前に行ったときはあんなの無かったぞ!!!!
もし俺が、ただの冒険者だったとするのなら、間違いなく行ってみたい...間違いなく...行きたい...。
質の良いお店に、質の良い街並み、質の良い城。
全てが以前見た時よりも格段に良くなっている。
普段であれば大喜びな所だが、今回のは...流石にやりすぎだ...。
覇王城と城下街が完全に見劣りする。
これだと...黄金卿が首都になり、覇王城が馬鹿らしく思えてしまう、けして覇王城の出来が悪いわけではない、覇王城は元々廃墟の王城...さまざまな戦利品や調度品であそこまでの規模になったのだ。いっそこの機会に改修工事をした方が良いのかもしれない...流石に部下一人に超えられる訳にはいかないのだ!
俺がそんな思いを抱いてるとは知らず、ゼルセラは自身の作り出した黄金卿を褒めて欲しそうに俺に視線を向ける。
「よくやった。さっきのは許してやろう」
「ありがとうございます!ご主人様!!」
満面の笑みを浮かべるゼルセラから視線を外し、俺は帝国民を見渡す。
「帝国の民たちよ、今日はここで一晩明かすと良い、このまま住むのなら、我が国は歓迎しよう。お前たちは安住の地を得るチャンスを手に入れたのだ」
全員にしっかりと聞こえるように、大きめに発声しつつも直接脳内へと語りかける。
歓声は沸かない、それもそのはず...俺は覇王覇気を切り忘れていたのだから...。
ゼルセラ達もぎりぎり動けていたに過ぎない。童帝が発言出来ていたのはシーラの計らいだ。
どうりで、ゼルセラが笑みを浮かべる訳だよ...本気で俺が怒っていると思ったらしい。
そりゃあ本気で怒られていたら、喜ぶのは当然だ。ただ、持っている物を出せば帳消しにしてくれるというのだから、藁にもすがる思いで黄金卿を出した結果、怒れる主人に許して貰えたのだ。満面の笑みを浮かべる訳だよ...。
シーラの計画は順調に進んだ。
なんの狂いもなく、建国をすることが出来た。
数日したら忙しくなる...そんな気がして嫌気が差す。
まずは周辺国への伝達、王国や大鬼の国、龍大国にも声を掛けに行かねばならない...。龍大国には行きたいと思っているし、大鬼の里にも足を運んでみたい、獣王国には既に行っているので行くとしたら....デフォルトとメトラの国だな...
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