第30話 大鬼の国の使者
帝国を蹂躙し、覇王国建国を宣言した日から1カ月。
覇王国で受け入れる事になった元帝国民達も徐々にここでの生活に徐々に慣れ始めてきている。
一応、ゼルセラが気を利かせて街にある店のNPCは排除してもらっている。
とは言っても、武器屋や鍛冶屋などの装備関係と回復アイテムの様な、冒険者に必須の施設に関しては知識面の問題が発生するので元のNPCのままだ。
その為、元々鍛冶を生業としていた職人達の仕事を奪う形になってしまった。
NPCが新人教育なんて行える訳が無いので、知識を職人に教える事は出来ない、その結果...職人たちは皆暇を持て余していた。
なので、生活保護ではないが、覇王国で最低限の生活が送れるくらいの金銭は支給している。資格や役職手当の様なものだと割り切って支給している。
それでも国は順調に回る。
無職が居た所で別に景気が悪くなるわけでもないし、物流が悪くなるわけでもない。なので特に気にはならない。
俺はこの後、大鬼の国に視察に行く予定となっている。
表向きは、覇王国建国に関しての話し合いだが、ぶっちゃけ俺の息抜きというか遊びに近い。
未だに、大鬼の国に行ったことはないので、とてもワクワクしている。
最初は転移で移動しようと思ったが、デフォルトから使者を送ると言われ、態々馬車で移動することになった。
覇王国から大鬼の国の首都までは意外に遠い。隣国とは言え馬車だと数日は掛る。何故そんなことを...と思わなくもない。
数秒で着く道のりをわざわざ馬車で数日かけて移動するなんて正直、正気じゃないが、デフォルトがどうしてもと言うので仕方がない。
少しの間待っていると、一台の馬車が黄金卿へと訪れた。
見た目はかなり一般的だ。一応個室みたいになっているらしく外から中の様子は確認できない、王族が乗るような豪華な馬車ではなく、そこそこな貴族が乗るようなどちらかと言えば貧相な馬車だ。
まぁ、これは中世的に見ればだが...デフォルトが用意した馬車は西洋というよりは和のテイストが成されている。馬車という西洋のものに無理やり和を取り入れたせいで違和感が出てしまっているのが貧相さを醸しだしている原因だ。
到着した馬車を遠目で眺めていると、今日の当番であるフリューゲルのマリルが使者の到着を知らせに俺の元を訪れる。
「デフォルト様が送られた使者様が到着いたしました。いかがいたしますか?」
「今行く、それにしても護衛が見えないようだが」
「そのようですね、あの方が実力をそれなりに認めた方なのでしょう」
「まぁデフォルトの事だからな、使者がある程度力を持っていると考えるか、それともただの使い捨てか...まぁどちらにしろ些細な差でしかないがな」
護衛の居ない馬車なんて盗賊からしたらカモでしかない。
5日間の間、馬車で一人旅なんてかわいそうな事をする...。
俺は別に平気だが、当番のマリルは顔を曇らせる、それもそうだろう、自身の敬愛する主がどこぞの馬の骨かもわからない奴と少しの間を共にするのだから...。
「ですが、本当によろしいのでしょうか...」
「なにがだ?」
「使者から感じる魂の波動は間違いなく女...元来
フリューゲルの心配は分かる。
既に俺は一度寝取られているのだから...。マナの時は完全に俺の油断と睡眠が招いた事だが...フリューゲル達からしたらたまったものではない。
そしてもしかすると、それが繰り返される可能性があるのだから。
「俺が襲われると?」
「そのような事は...ただ、相手方が劣情に負けご主人様との行為を所望した時に、優しきご主人様が行為に及んでしまわないか不安なのです...」
「その心配はないわ」
俺達の会話に突然入り込んできたのはマナだった。
なんの自信があるのかわからないが、フリューゲル達から俺を寝取った存在が言うのだから、俺は大丈夫なのだろう。
そもそも、デフォルトは俺が作り変えた存在だからこそ、俺好みの容姿をしている、だが、使者は違う、元からいたこの世界の住民なのだから、俺が惚れるとは考えられない。
ただし、今のマナが俺の性癖に刺さるかと言えば...微妙な所だ。
大人の女より若い子が好きな俺からすれば...昔のマナの方が好み...
「お迎えに上がりました覇王様!」
「お....」
彼女はかわいかった。
桃色の髪に可愛らしく白い角が2本生えており、顔はとても幼い。
白と赤を基調とした着物を着こなしとても清楚な雰囲気を漂わせている。
マリルとマナが同時にものすごい勢いで俺の方を向き首を激しく横に振った。
おいおい、俺がこんな小娘程度に...。
「いけませんご主人様!」「この子は駄目よグレース!」
「お前らなぁ...」
「私が不相応なのは理解しています...ですが...どうか...お願いします...」
切実に告げるその姿に俺は折れた。
マナとマリルの肩を掻き分け俺は少女の前に出る。
「不相応ではない、デフォルトがお前を信頼しているのだから問題は無い」
「覇王様...!!」
「さぁ、さっそく大鬼の国に向かうとしよう」
俺は少女にばれないようにマナ達の方を振り向き親指を立て笑顔で念話にて宣言した。
(任せろ!この子は俺が守る!!)
さて行くとしよう。後ろから絶望の香りがするが、俺には関係ない。ようは一線さえ越えなければいいのだろ?
2人きりの馬車は程々な速度で街道を進む。
静寂に支配されるこの空間を一刻も早く打破したい。
使者が思ったよりも可愛かった事、も!!あるかもしれないが初対面の小娘と何を話せばいいか分からないのは仕方のない事だろう。
監視の目は約一人。それも大体素性が割れているので心配する必要はない、恐らく覇王国に来る時も一応監視はされていたのだろう。
馬車に揺れながら遠い空を眺めた。決して小娘との会話が弾まなくて現実逃避している訳では無い。
「あの...は、覇王様...」
突然少女が俺をウルウルとした目で見上げ縋る様に距離を詰める。
だが、これ位で動揺する俺ではない、あっいい匂い。なんて考えながら少女の目を見る。
「どうかしたのか?」
「いえ...わたし...モルナ・モルディヴ・ゼートと言います」
「そうか、なら...」
「桃姫!...とお呼びいただけませんか?」
桃姫?たしかに桃色の髪をしているが、だからと言って安直に桃姫って...それに使者を姫って呼ぶのもな...流石に一国の王として抵抗があると言うか...。
「それは何故だ?理由でもあるのか?」
「実は...姉上が私のことを桃姫!と呼ぶので...私自身それに慣れてしまって...」
恥ずかしそうに口元を袖で隠し笑う少女、いや、桃姫。
これだよこれ!この清楚さ!
まさか大鬼で体験することになるとは...俺の周りに清楚はいないからな...ようやく出会えた...真の清楚...ようこそ俺の楽園へ...。
なんて考えていると、なんとなくだが、馬車のスピードが落ちたような感覚を味わう。
「どうやら馬も疲れてしまわれた見たいですね...今日はここで休息してもよろしいでしょうか?」
「時が経つのは早いものだな。俺は構わん」
「少々お待ちください。薪を集めてきますね」
え?アグレッシブ姫様ですか?
まさか、女の子から薪を集めてくるなんて言葉を聞く事になるとは思わなかった。
清楚な子からの爆弾発言に驚きながらも桃姫を止める。
「待つんだ。その必要はない少女を夜空の下に寝かせる訳にはいかないからな」
「それはいったい...」
さて、コテージでいいか。
格好つけるように指を鳴らし木造のコテージを一瞬で建てた。
驚いた様子の桃姫に中に入る様伝え、俺も中へと入る。
「すごい綺麗で落ち着いた空間ですねぇ~」
「喜んでくれて何よりだ。気に入ってくれたか?」
「はい!やはり覇王様は素晴らしいです!お姉様の仰っていた通り優しくて物凄いお方でした」
照れながらも満面の笑みを浮かべながら俺の目を見ていう少女に俺が照れない訳が無い。
恥ずかしいので、机に料理を生成し並べる。
するとたちまち部屋は料理の匂いで満たされ、桃姫から可愛らしい音がしてくる。
「遠慮せず食べると良い」
「はい、頂きます」
手を合わせて丁寧にあいさつをすると桃姫は綺麗に食事をした。とてもではないが大鬼とは思えない。
一国の王として、俺も作法を
お互い黙々と食べ進めていると不意にさっきの言葉が頭を過る。
「桃姫のお姉様とは一体どうゆう人なんだ?」
「そういえば申しておりませんでした....私の姉上はデフォルト姉様です」
「あぁデフォルトが姉か....ん!?」
これがあいつの妹???
あぁそうか...似ても似つかないのは俺が改変したからか...とはいえ、デフォルトを改変する前の魔王ワトゥセボ・ゼートは明かに脳筋、こんな清楚な妹さんが居るとは思えない。
たしかにあの魔王は赤髪だった。だから妹が桃色の髪をしていても可笑しくは無い、だが...どうしてこんなに清楚なんだ...予想できんて...。
「はい、姉上からはいつも覇王様の事を教えていただいています」
「ほう?あいつは俺の事をどう言ってるんだ?」
「一番良く話されているのは国の統治の事に関してですね、他には覇王国の軍事訓練の事に関してとか...」
「意外と真面目だな...」
デフォルトってそんな子だっけ?
いや、俺が知らないだけで実は真面目で秀才なのかもしれない。改変したばかりの頃は幼稚園児みたいな脳だったが...だいぶ成長したみたいだな...嬉しいような...悲しいような...。
その後は楽しそうに姉の事を話す桃姫の話をひたすら聞いた。
一応浴槽も用意している事を伝えたら、「お背中をお流ししましょうか?」なんて言って来るので丁重にお断りした。
流石に、初日から一緒にお風呂なんて入ったら、その後の予定がほぼ決まってしまう。
俺が風呂から出る頃には既に桃姫は机に伏して眠ってしまっていた。
鬼とは言えど流石に風邪をひく可能性があるのでベットに運ぶ。
あまりにも都合が良い状況だが、監視の目が居るので流石に手は出さない。
ゆっくりと布団に下ろそうとすると寝ていたはずの桃姫の腕が動きだし抱き着くように手を回してきた。
「起きてたのか?!」
「覇王様~本当にいいんですか?今なら...誰も見てませんよ?」
妙に頬は紅潮し既に蕩けたような表情を浮かべる桃姫。
マリルの危惧していた通り桃姫が劣情に負ける事になった。
まぁ確かに、グレースはイケメンだしな。と俺が開き直っていると桃姫の背後に俺の良く見知った人物が現れ桃姫の首を摘み上げ俺から引きはがす。
「っげ!ストリア!!どうしてここに?!」
「妹様...覇王様にそういう事はおやめ下さい。不敬ですよ」
現れたのは俺が昔生み出した眷属のストリアだった。
俺と同じ銀髪に切れ長の表情、長い髪を後ろで一つ結びにした侍である。
「今日はもうお休みください」
「待ってスト...リ..ア....」
催眠魔法を屈指しストリアは桃姫を眠らせそっとベットに寝かせる。
最初から監視していたストリアが満を持して登場した訳だ。
「さ、説明してくれ。この子は清楚じゃないのか?」
「申し訳ありません...かつては清楚だったらしいのですが...デフォルト様と一緒の時を過ごすに連れ...次第にというか昔清楚だったというのも疑わしいですが...割と欲望に忠実でかつ猫をよく被る...変な性格になってしまいました...」
「そんなにデフォルトは情操教育に悪いのか...」
せっかくの清楚枠が...と落胆しながらも、デフォルトを馬鹿にし過ぎた自分のせいでもあるので責めるに責められない...。
「デフォルト様はこれを見越して私を監視役に就けたのです」
「これとは?」
「大鬼とは元来強き者の種を欲する種族。覇王様はその頂点に君臨されるお方。欲望に忠実な今の妹様なら確実に行動に出るだろう。そうデフォルト様は予想されていました。結果は案の定でしたが...」
案外デフォルトは計算高いようだ。
そこまで予想して、ストリアを付けるとは...抜け目ないな。
デフォルトはどうやら馬鹿じゃないらしい。
その後は、ストリアから桃姫の事を色々と聞かせて貰った。最近は結構アグレッシブな事、今回の使者として迎えに行くのも結構デフォルトに無理を言ってお願いしたとのこと。
初日から、俺の清楚が砕けたのもあり、その後の旅は何もなかった。
最初は清楚でいいなと思っていたが、思った以上にこの子はアホの子だという事がこの五日間で判明した。その結果、ハーレムに入れるというよりは、ほぼ子供の様なポジションになってしまった...簡単に言うと恋愛対象から外れた。
そんなこんなで大鬼の国に到着し桃姫に案内される事になった
最強は最高にわがままな証 皇 早乙女 @marunokatsuo
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