第14話 獣人の少女と人間の少女

 入学式も終わりそれぞれの宿へと戻る。

 私はCクラスの子達と共に学院長の祝辞を聞いた。

 これは流石と言うべきクオリティだった、もし仮に俺自身が祝辞を考えたとしてもこうも盛り上がる事は無かっただろう。

 少しだけしか接点の無かった獣人の生徒達ですら涙を流しだす始末だ。

 流石に私は引いてしまったが、ジルニルも感動で涙を流していたので、配下としては思う所があったのだろう。

 感動しているジルニルを隣で見ていた訳だが、かなり恥ずかしい。

 自分で演説をしている訳ではないが、自分の配下がしっかりと耳を傾けて話を聞いていると言うのが物凄く羞恥心を煽るのだ。


 寮に戻って来た私とジルニルは先程の祝辞の話をする。


「やっぱりご主人様はかっこいいいですね!」

「うん...そうだね。でも、泣くほどだった?」


 念の為聞いてみる事にした。

 もしこれで喋ってる事自体に感動してたとかだと正直話が変わってくるがそれはどやら杞憂だったようだ。


「とても感動しました!!あんなにも私達の事を親身になって考えてくれているなんて...それに私も頑張らないとなってそう思えました!」

「そうかなぁ...」

「はい!そうです!!」


 これであの祝辞がほんとに意味のある物だと理解できた。ジルニルの忠誠心が厚いだけだと思う...と言うより思いたい...。

 私とジルニルがそんな話をしていると部屋のノックが叩かれる。


「メキアです」


 その言葉を聞き私はジルニルよりも早く扉を開いた。

 きっと以前伝えた通りリリィとジルニルの二人と仲良くしてくれるのだろう。

 ならば遠慮はいらない、さっさと扉を開けて招き入れるだけなのだから。


「さぁ入って!」

「失礼します」

「もうだめだよリリィちゃん!もしリリィちゃんの身に何かあったら...」

「大丈夫だって!!」


 さてと、親睦を深めるにはどうしたらいいだろうか...。

 いっそ私の正体を教えてあげた方が案外仲良く出来るのではないだろうか。

 そもそも、協力者が1人しか居ない事自体が不安な要素だったのだ...。


「よく来たねメキアちゃん!」

「えっと...確かリリィさんですよね」

「さて、それはどうかな?ジルちゃん説明してあげて」


 私の問いかけに対してかなり困惑しているジルニルとメキア。

 まぁそれもそうか...。


「今は俺だ」

「え...えっと...」

「メキアには協力してもらおうと思ってな。今の私はグレーステ・シュテルケ改めシュミラ・リリィだ」

「今はご主人様だったんですか!?」

「気付いてなかったのか...まぁ仕方ない」


 混乱しているメキアに対し今の現状を詳しく説明した。勿論普段のリリィはグレースの事を知らないと言う事も伝えてある。

 宿っていない時のリリィは普通の女の子として存在する、そして俺が宿っていた時のリリィは俺が取った行動をなんとなく覚えており、それが自分の意志として転換されるのだ。

 この仕組みの作成にかなりの時間を要してしまったのだ、最初は記憶が無くても構わないと思っていたのだが、それだと俺が宿っていた時の記憶に穴が出来てしまう。

 と言う事でこの形を取った。まさに神業と自分を褒めている所だ。

 そこらへんの詳しい仕組みは説明する必要がないが、とりあえず時折リリィの中に俺が宿っている事。それさえ知ってもらえば問題はないだろう。


「この事は他言無用で頼むわね」

「はい、お任せください...ですが...奥様に怒られたりしないでしょうか...」

「だから他言無用なのよ!!」


 もしこの計画がマナに知られたらかなり怒られる気がする。

 自分には仕事をさせておいて、俺は一人で楽しく遊んでいるのだから。

 怒られて当然。バレなければ怒られる事は無いのだから。

 改めて秘匿の重要性を説明をする...。

 かなり重大な件の片棒を担ぐことになった事でメキアはかなり浮かない表情をしている。まぁ、俺には関係のない事。


「覇王様は...女の子の言葉を扱うのがお上手なんですね...」

「私クラスになるとこれ位当然よ!」

「私よりも上手です...」


 メキアに続きジルニルも首を何度も縦に振る。それほどまでに俺の変装は完璧なのだろうか?逆に心配になってくる。

 いや、まぁ覇王が一般女子の口調を知っている事の方が驚くか...

 

 ふと、時計を見ればもうじき昼休みが終わろうとしている所だった。

急ぎ足で説明をし最後に緊急連絡用の仕草を教えた。


「私が小指を立てたら本体に報告をして欲しい、その後は私の方でなんとかするから」

「わかりました!!」

「あの、一つ良いですか?」

「うむ、何かねメキアくん」

「覇王様はどこのクラスですか?」

「私とジルニルはCクラスだねメキアちゃんは?」

「私はSです...そうなるとあまり緊急サインを活用する機会が少ないかもしれないですね...」


 そうか...確かにメキアの実力を鑑みればSクラスは当然だ。

 Sクラスとなると...


「Sクラスは2年にシーラが居る。合同授業とかで感づかれない様にね」

「はい...気を付けます」


 さて、昼休みも終わりを迎えるのでメキアと別れさっさと教室に戻る。

 Cクラスの担任は職員会議で見たかすらどうかも怪しい女教師だ。

 見た感じ誠実で良い人そうではある。

 観察眼があるわけではないので心までは読めないし相手の能力を分析することも出来ない、だが苦労はしていない、なんせ周りも同じなのだから。

 Cクラス程度の人材が相手の能力を見る【解析鑑定】系のスキルを所持している事自体が稀なのだ。


 教員の説明を話半分で聞いていると突如教室の扉が開く。


「ス、スカーレット様!?」

「ちょっと邪魔するわね」


 突如現れた学院長の秘書の登場に場が静まり返る。

 それもそうだろう、学院の№2がCクラスなどに来る事自体異常だ。

 マナが来た以上何かしらのトラブルがあったのだろう。


「ここにシュミラ・リリィと言う子は居るかしら」


 騒めく声とクラスメイトの視線は後ろの席にいる私に注がれる。

 多少動揺したが先ほど決めたサインをこっそりとジルニルに見せた。視線までは送ってないが小指を立てたのだからわかってくれるだろう。

 本当に報告出来ているかが心配になりちらりと見て見ればジルニルは突然の出来事にパニックになりこちらを見てすらいなかった...。

 まずい...。それにこれ以上沈黙していると逆にマナに怪しまれてしまうだろう。


「居ないのかしら」

「あの...私です」

「そう、ちょっと話があるから付いて来なさい」


 再び騒めく生徒達。

 これでは最初から問題児ではないか...始まって早々呼び出し喰らう少女とか間違いなく目立つ...。


 席を立ち上がり前に出ると担任の女が私の元に駆け寄ってくる。


「なにかやっちゃったんですか?」


 なんだそのふわっとし表現は...。


「なにもしてないはず...です...」

「そうですか...」


 騒めく教室を残しマナの後を付いていく。

 無言で歩くマナの圧はとてつもない。

 普段は感じないが今の肉体では強者の強すぎるオーラはプレッシャーになるのだ。

 こうなったら...


 ―――――――――――――――――――――――――


 グレースが何やら企んでいる様なのでその計画を潰すべくとある教室を訪れた。

 それは先日グレースが必死に捜していたリリィという名の少女の教室だ。

 ジルニルが通っている教室であり、多少匂うのだ。

 教室の扉を開き生徒達を見渡す。特出した強さを持つ者はジルニルのみだ。

 その中からリリィと言う少女を探す。

 だが、中々見つからない。

 高度な擬態なのか解析系スキルを多用してみるが一切グレースの尻尾は掴めない。だが、リリィと言う名の少女は発見出来た。

 最期の警告として多少声色を変えて言葉を投げかける。

 するとようやく一人の少女が前に出て来る。

 茶色の髪に黒い瞳の平凡な人間の少女だ。

 ステータスも平凡な人間程度で特出すべきスキルも所持していない。


「ちょっと話があるからついて来なさい」


 そう言うと少女は少し怯えた表情をし私の後に続く。

 少しだけ魔力を解放しなにか動きがあるかを見る。もし仮に秘匿スキルがあれば魔力を解放した事になにかしらのアクションがあるはずだ。


 と思っていたのだが...。

 特に何もアクションは起こさなかった。


「あの...私なにかまずい事をしてしまったのでしょうか...」


 後少しで学院長室にたどり着くと言う所で少女が声を掛けてくる。

 その怯え切った声にどこか肩透かしを食らったような気になる。

 高確率でこの少女がグレースだと思っていたが...この様子では空振り?

 声のトーンからも不安が伝わって来る、では、何故...グレースはなんの変哲も無い少女にそこまで執着したのだろうか...それこそ本当に人間は脆く容易く死ぬと思っているからなのだろうか...もしくは...この子の両親と何かしらの関係が?隠し子?本当は女の子が欲しかった。とかかしら...

 謎は深まるばかりで糸口が全く掴めない。


「貴方グレースの事は知ってるわよね」

「はい。昨日迷子の私を助けてくださいました...」

「他にはないかしら」

「他ですか...もしかしてお礼を言いそびれたことをおっしゃられているのでしょうか...いい訳になってしまいますけど...私を学院寮までてんい?魔法と言うのを使い送ってくださったのですが...ついた時にはすでにどこかへ行ってしまってて...お礼を言うタイミングが無かったんです...申し訳ありません...」


 これは...完全に外れね...。

 どうやら私の勘違いの様だ。この少女は只の人間の少女であり、グレースと深い関わりがあるわけでも無い様だ。

 となると...グレースの祝辞はグレースが本当に自分で考えたのかしら...だとすると...。

 学院長室の前で話をしていると偶然なのかシーラが現れる。


「どうかしましたか?」

「いえどうやら私の勘違いだったようだわ」

「あっ貴女は!!」


 シーラの顔を見た少女は何かを思いだした様に声を上げる、同じ様にシーラも偶然とばかりの表情を浮かべる。これは間違いなく演技だろう。

 シーラはグレースも言っていた通りすべてを見通すのだ。膨大な数の未来を予測しそのすべてを把握する、そんなすべてを知り尽くしている彼女がここで私とこの少女が話をしている事を知らないわけが無いのだ。


「偶然ですねリリィさん」

「二人は知り合いだったの?」

「えぇ昨日道に迷っていた様なので少し案内をしましたよ」

「はい!その時覇王様が私を探し出してくれたみたいで...だから私貴女にもお礼を言いたくて...昨日は本当にありがとうございました!」

「礼には及びません。もし感謝してるなら私の友達になってくれると助かります」

「私の友達になってれるんですか?」

「はい私はリリィさんの友達になりたいのです」

「リリィさんはやめてください...先輩にさん付けされるとなんだか恥ずかしいと言うか...」

「私はシーラ。よろしくね」

「はい!宜しく―――」


 あら大胆ね。

 改めて名乗るシーラに続き少女も名乗ろうとする、だが、その瞬間シーラは少女の唇を奪った。

 これには大胆と言う他ないだろう。

 何か裏があるのかただ少女をからかっているのか...その思惑は分からないが

 女同士と言うのは私も大賛成だ。

 既婚者の私が言うのもなんだけど...。


 シーラの表情から焦りは伝わってこないが反対に少女の顔は真っ赤になり必死にシーラから距離を取ろうとしている。

 だが、シーラの力に敵うわけもなく強引に唇を奪われ続ける。

 何故...初めてのキスでそんなにディープなものをチョイスしたのだろうか...。

 最初はソフトでよかった気もするけど...。


 一頻り楽しんだ後シーラは直ぐにその場を去ってしまった。

 彼女は満足しただろうが...こっちはだめね...逆に好きになってしまったんじゃないだろうか...恍惚とした表情をしかなり溶けた顔をしてしまっている。

 これはもう、戻れないだろう。


 私の勘違いも解決した所で集会場所へと移動する。

 学院の入学式が終わったので、今度は同盟会議だ。

 各国の魔王が集まり、近況報告と今後の政策の相談などを行う。

 重要な会議なので遅刻は許されない、それに資料も集めなければいけないので秘書と言う役職はかなり多忙だ。

 どうしてこんな事を気にしてしまったのだろう。

 グレースが女の子になっているなんてあるわけが無いと言うのに...。

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