第13話 謁見する魔王
「こ、この度はお、お忙しい中わ、
「小難しい話は抜きにしよう」
面倒な口述を止めさせ本題に移行させる。正直お世辞で長々と喋られても面倒だしなにより心がこもって居なければ不快だ。まぁ今回の場合緊張しすぎているので場を和ませる為に止めた。言葉を並べているだけで体は震えているし恐らく本心ではないのだろう。見た所俺に対する恐怖で忠誠を誓っている様なので裏切るとは思っていない。どちらかと言うと心が痛んだのは何度も練習したであろうセリフを全てカットしてしまった事だ。そのせいだろうがかなり動揺が見て取れる。
「は、はい!で...では本題に入らせて頂きます」
「あぁ」
それから誠意ある言葉のマシンガンを受け取った。
緊張からなのか相手に聞かせる事の意味を忘れ、ただ自分が言い切りたいだけのように感じた。
要約すると―――
私たち蜘蛛種族は全面的に永劫の忠誠を俺に捧げる―――との事だ。
この怯えぶりからしてそうだろうとは思っていたが正直心当たりのない事で忠誠を誓われても...困るのだ。
「ですから私たち
「お前に一つ問いたい」
蜘蛛の魔王の話を遮る様にして俺は問いかける。
「お前は何故忠誠を誓う?俺はお前に何もしていなだろ?」
「え...えっとそれは...もうお忘れかと思いますが...今から約一年程前。
私は眷属に指示を出し森で周辺の警備をしていました。
眷属との視界は
眷属の内、数匹の視界に覇王様が映ったんです」
・・・あぁそういえば...。
こっちの世界に来た時に蜘蛛を利用したな...もしかしたらその時に使用した【覇王の威光】の効果で俺を恐れていたのか...。
「その時、覇王様を視界に入れていた眷属達との接続が途絶えまして...。
なので私は他の眷属達を応援に向かわせました。
きっとあの時からだと思います...ずっと覇王様に押さえつけられている気がして怖くて仕方がないんです....」
ん?これだと俺が一方的に悪くないか?
しっかりと見たわけではないがマナの表情も自然と俺に呆れている様な気がする。
さらには魔王の女が泣き始めたせいで...完全に俺が悪者だ。魔王なら泣くな!せめて陰で泣いてくれ!!
「恐怖に押さえつけられながらも私は応援に向かわせた眷属達の視界を確認していました。ですが...そこに見えたのは焼け野原と化した私達の住処でした...両親と眷属と住む場所を失い...私は...残された眷属と共に洞窟へと移り住み今はひっそりと生活しています。
ですから私は...眷属を護るためにこうしてお願いをしに来ました。どうか...ご慈悲を...」
まったくこんな幼気な少女を脅し剰えその家族と住処を焼き払ったものがいるだと?断じて許せんな!!
はい、ごめんなさい...
恐らく力の制御に失敗し森を駆け抜けた時の事だろう...まさか、だれか居るとは思わなかったが...まさか魔王の一角をその時に...
横でマナが怒っている気がする。涙ぐみながら説明をする蜘蛛の少女に俺でさえ同情する。
「本当はもっと早く忠誠を誓う事を伝えたかったのですが...中々取り合ってもらえず...」
う...もうやめてくれ...俺の同情パラメータが振り切れそうだ...。
泣いてる少女に掛ける言葉を考えているとマナが自然と少女と言うか魔王に歩みよりそっと抱きしめる。
「ごめんなさいね...うちの人が...」
「私達に反抗の意志はありません...ですから...」
「えぇわかってるわ...わかってるわよね―――グレースッ!!」
(はい....)
素直に謝れればどれだけ楽に生きれた事か...。
俺はこんな時かっこつける事しかできないのだ...。
つまり―――
「ついて来い」
どうして俺の性格はこんなにも歪んでしまったのだろう...
泣いている少女に謝ることすら出来ないとは...
俺は蜘蛛の少女を連れ天界へ向かった。何故かおまけ―――マナ―――が付いてきているが...。
天界特有の雲の様な地面を進みながら話題を探す。
マナが付いてきている以上、無様は晒せないしこっそり謝る事も出来ない。
ならば....
「そういえばお前、名前は何と言う」
「私はヒュショナ・エーナと申します」
「そうか...エーナと呼ぶが構わんか」
「はい...大丈夫です」
「エーナは両親の事が好きか?」
「はい。眷属の子達は従順なだけで私を叱る様な事はしません...両親の様に私を叱ってくれる存在は貴重ですから...立派に魔王として...今の姿を...うっ...」
再び涙を流すエーナをマナが慰める様に背中をさする。
「そうか...ならば伝えたいことはこれから伝えると良い。見せたい物があるならこれから見せれば良い。」
「それは一体...」
俺は不敵に笑いロキの元へ向かった。
真っ暗な部屋に現れる猫耳のフードを被った少女。
「どうしたの?こう見えてもボクは忙しいんだよ?」
「実はなこの子の両親を蘇らせて欲しいんだ」
「ふーん。あ!君は魔王様じゃないか~確かジータとティアスの子供だったよね~随分と大きくなったね~」
「知ってたのか...なら頼む」
「それで、見返りは?」
「仕方ないな...本来は秘匿事項だが、ロキだけは例外としよう」
俺はロキの元まで歩みそっと耳打ちする。
俺の言葉を受けたロキは大きく飛びのき楽しそうに笑う。
「本当かい!?その作戦にボクも混ぜてくれるの??」
「あぁそうだ、絶対内緒にするんだぞ?」
「わかってるよグレース。それに
楽しそうに笑いロキはエーナの両親の魂を探す。
そんなロキの姿を眺めているとマナがこっそりと俺に問いかける。
「秘匿事項って何なのよ」
「極秘だ」
「私にも言えないの?!」
「あぁ」
「そう...」
「まぁいずれわかる」
少しいじけた様な表情のマナに多少の罪悪感はあるがここは我慢。
ロキの様子を見るとどうやら魂を見つけ出せたみたいだ。
「久しぶりだねジータそれにティアスも」
「・・・」
「そんなこと言わないでよ~僕も仕事だからさ~」
「・・・」
「エーナは君たちに会いたがっているよ~」
「・・・」
「今更何いってんのさ~ほら肉体も戻したからもうすぐ会えるよ」
「・・・」
魂の声は生者である俺たちにはわからないがロキはかなり親し気に話している。
無神経なまでに和気藹々と話すロキとエーナの両親に俺たちは置いてけぼりだ。
やがて、光の粒子は人型と蜘蛛の形を取る。
出てきたのは美しい女性と一匹の巨大な蜘蛛だ。
その姿を見るなり涙を流しながら駆け寄るエーナ。
「パパ...ママァ...私...私...」
「心配させて済まないな...エーナ」
「もう大丈夫よエーナ」
その微笑ましい感動の出会いを眺めていると俺の横で眺めていたマナが肘で小突いてきた。
自分で蒔いた種とは言え一人の少女を不幸にしてしまった心の棘は未だに抜けない。
ならばこれからは償いとしてこの子を護って上げねばならない。せめて覇王の庇護下に入れてあげるべきだろう、見返りなんて必要ない。これは俺の贖罪なのだから。
「ありがとうございます!!覇王様!!」
「まぁそのなんだ...これからは俺を頼ると良い」
目に涙を溢れさせながらも俺に礼を言うエーナ。
こんな正面から礼を言われると思っていなかった俺は一言だけ残し転移した。
「私からも謝罪させて貰うわ。うちの旦那が済まなかったわね...あの人は謝るのが苦手だからあれで許してあげて欲しいの」
「いえ...私はもう大丈夫です」
「そう、礼を言うわ。
これから学院で式典があるから両親でも誘ってあげたらいいわ。特等席を用意しておくから」
集団転移魔法を使用しエーナとその両親を覇王城へと送り届ける。
「それではまた後程....」
「えぇ、グレースには私からまた言っといてあげるわ」
「はい。ありがとうございます」
『ありがとうございました』
三人は転移魔法にて覇王城の城門外まで送った。
マナは一人玉座の間にある自分の席へと座る。
「それで。いつまで隠れているつもり?」
「なんだ気付いていたのか...」
「私を誰だと思ってるのよ...グレースの考えなんてお見通しよ」
「はぁ...なら俺が隠れている理由だって分かるだろ...」
「えぇ。大体わね」
俺はどうやらマナに隠し事は出来ないらしい。と言うより女の勘と言う奴なのだろうか...。
そんなこんなで謁見も終わり今度は入学式の式典がある。
俺とマナは学院長室に転移しこの後の予定を確認し合った。
「それで、祝辞は考えたの?」
「あぁまぁ一応な」
「そう。なら安心ね」
嘘です。
実は何も考えていない。何しろ祝辞を用意しなければならないと言う事を今知ったのだから。
いざとなったら自立意志に任せればいいのでそれ程困っているわけではない。
そもそも自立意志はシーラの知識を取り込んだ状態でありかなり賢いのだ。
俺自身がシーラを分離した状態なので脳みそがカッスカスだが、自立意志はまさに俺の完成形とも言える状態なのだ。
つまり...自立意志に任せておけば理想的で望み通りの覇王が出来る訳だ。
ただ...完璧主義故に何をしでかすかわからないのである程度の行動と思考制限を掛けなければそのうち世界征服をし始めてしまうかも知れないのだ。
完全無欠の覇王。それが自立意志で行動中の俺なのだ。
なので奥の手として直前もしくはその前にリリィと切り替わるのが手っ取り早く俺の格を下げずに済む行為なのだ。
さてと、俺の今日の問題点も無くなったので特に何も考える事無くリリィの身体に戻る事にする。あとは俺の自立意志に任せて格好良く学院長と言う役職をこなしてくれるだろう。
――――――――――――――――――――――――
不思議だった。
私の旦那は用意周到とは程遠い人だと思っていた。
だが、結果は違う。
不安が残る中、学院長からの祝辞として
そこには覇王としての気品が感じられたのだ。言葉の一つ一つが重く深い意味が込められている。そんな祝辞を受け生徒達の中には泣き出す者まで居たのだ。
それ程までにグレースの言葉は偉大で勇ましく、そして優しい。心の底から奮い立たされるものだった。
全てを聞き終え感心していると、不意に先程までのグレースの様子が思い浮かぶ。
泣き出す少女に声も掛けれず逃げ出したあの男の姿がどうしても嚙み合わないのだ。
私のグレースはどちらかと言えば後者だ。
不器用で...だけど優しくて、自分の非を中々認めず相手に対して自重しない。
それが...それこそが私の旦那であるグレースと言う男だった。
だが、今私の横に座るこの男はほんとに先程までのグレースなのだろうか。
自分の思考が冷静ではないのは理解しているつもりだ。ただ...どうしてもこの男が先程までのグレースと同じとは思えないのだ。
元々、公の場では今の様に堂々たる振る舞いをするだろう。しかし今では時折私の前では素を見せる様にまでなった。
既に一万年以上を共に過ごしてるのである程度性格は理解しているつもりだ。つまり―――
「また何か企んでるのね...」
―――私抜きで楽しそうな事するなんて...ずるいわ...
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