第21話 心無き天使

 ゼルセラとの死闘は激しさを増す。

 大鎌による薙ぎ払い等はジュバンが対処し魔法による攻撃は私が同系統の魔法を乱発する事で何とか対処している、ほとんど剣を握ったことが無い私でもジュバンの所持スキルの一つである【剣神之剣技】の効果で剣技は極めることができる、ほぼそれのお陰でゼルセラの攻撃をいなし続けることが出来ている、そもそもゼルセラがおかしいんだ!!何故、剣を極めているのに打ち合えるのか...何故防戦一方なのか...。正直理解は出来ている、私とゼルセラには途轍もない程ステータスに差が出来ているのだ、日々強さを追い求める彼女は高みへと昇っている、私はジュバンの魔力を全て吸いその圧倒的な力に胡坐を掻き満足してしまった...そのつけが今、回って来た。ただそれだけの話だ。


 滅多に起きることの無い激しい戦い。

 自分を強者と疑わず怠惰に時を過ごしてきた、新たな力を得ようとせず、今ある力を使いこなすのに専念した。後悔はしていない、ただ....もっと欲張ればよかったなと握り締めている剣を見て思った...。


「其方...いや...貴様は少しは精進したほうがいいぞ...そろそろ我は休む」


 そう言い残すと剣の魔力が徐々に減少していきやがてスリープ状態に移行してしまった。


「ちょっとジュバン!!こんな状況で寝るんじゃないわよ!!!」

「・・・・・・」


 返事が無い、只の一振りの剣の様だ。

 暫くの間見つめある事を思いつく、力を貸してくれないなら奪えばいい。

 

「少し借りるだけよ、期限は無制限でいいわよね?まぁ寝てるから気付かないだろうけど。」


 寝ているジュバンから魔力を吸い取り自分の物とした、体中に力が沸き今ではゼルセラの動きが目で追えるほどに....笑いを抑える事もせず高らかに笑う。

 こっからが本当の戦いだ!!


「私の本気を見せてやるわ!ゼルセラ!!」

「・・・・」


 ゼルセラが少し笑った気がしたがそれは気のせいだろう。

 力を失ったジュバンを捨てる様に大地に突き刺し新たに剣を生み出す。

 自らの血を用いて剣を作る。

 今迄は頑張っても神格級だったが再びジュバンの力を吸った今―――私の生み出す剣は覇王級へと至った。

血涙之刃皇ヘリド・ブラッド

 ほぼジュバンの力を受け継いでいるこの剣はまさしく覇王級の名に恥じない性能を誇る。

 もはやジュバンに頼らずとも良い、むしろ頼る必要もない。


 ゼルセラと鍔迫り合い状になる。

 ジュバンを吸収したことにより力くらいは互角になれたかと思ったが徐々に押され始める。

 この馬鹿力がッ!!!

 吸収しても尚、力で押し負ける。その事実に驚きを隠せない。

 ジュバンはグレースの魔力を貰いかなりの力を得て剣になった、そのジュバンの力を奪い、ものとした。そしてジュバンは再びグレースから魔力を貰い今度は鍛錬し以前とは別格の強さを手に入れた。

 そんなジュバンを改めて吸収したのだ。

 普通であれば同じくらいのステータスになっているはずなのだ。

 

 さっきから一段とゼルセラの動きが変わったのだ。

 表情から変化は見られないがステータスが一回り上昇した気がするのだ。

 鍔迫り合いを終えたあたりからゼルセラが目で追えなくなり視界から消えたのだ。


「お嬢様!!皆さまをお連れしました」

「シルビア!いいタイミングだわ!!」


 勝利の女神は私に微笑んだ。

 時間を稼ぐのが目的だった私にとってシルビア達の到着は勝利に他ならない。

 以前、覇王城の攻略にてゼルセラに挑んだ時は一度敗北を期したが流石に二度も同じ轍を踏む我々ではない。

 なんせ...グレースの眷属も居るしなにより、エミールが居るのだから。

 エミールを模して作ったゼルセラがオリジナルであるエミールに勝てる道理は無いのだから。


「某が様子を見るでござる!」

「なら私も」


 侍であるストリアと聖騎士であるセシリアがゼルセラの攻撃を防ぐように立ち回りその隙を暗殺者のシルビアと傀儡使のサラリアが遠距離から攻撃を仕掛ける。

 デフォルトは全員のステータスを底上げし自身にもバフを掛け前衛に立ちゼルセラに攻撃を仕掛ける。

 メトラも【精鋭骸骨近衛騎士】を召喚し肉壁として使っている。

 メトラのステータスもかなり高い方だが、残念ながらゼルセラの前では強敵とはなり得ない。

 8対1。

 ゼルセラは圧倒的な戦力差をものともせず圧倒的な強さで蹂躙をする。


 シルビア達のステータスはゼルセラを凌駕する。それなのに技量でそれらを封殺し捌き切る。戦闘狂のゼルセラがおかしいのだ。

 だが、不思議な事にグレースの眷属達とエミールには攻撃をしない、私、デフォルト、メトラには全力で攻撃をしてくるのだ。

 特に私に対して執拗に攻撃をしてくるのだ。

 いつの間にかゼルセラの瞳孔は開き口角は目元まで吊り上がり瞳は紅く煌めいている、こいつ...意識あるんじゃ?と私に思わせる程に感情が表に出ていた。


 攻撃は当たらず一方的に攻撃を受ける形に陥り改めてこれ程までに差があるのかと思い知らされた。

 グレースが最初に作った最強のフリューゲルは伊達ではない。それが分かった。いや分かっていたことを再認識出来た。


 分かっていたからこそ全員で挑む必要があったのだ。結果は惨敗。

 ゼルセラの圧倒的な強さを前に私とデフォルトとメトラはボコボコにされシルビア達は無傷で無力化されている。

 ステータスをものともしない強さを誇るゼルセラ。

 まさに――


「化け物....」


 誰からか、いや或いは全員からそんな言葉が零れた。それこそが本音だったからだ。

 全員を見下す様に上空に飛翔し楽し気に笑う。


「まったく...あなた達が束になろうとも私には到底及びませんよ...ただ...少しは楽しい時間でした」

「やっぱりね...途中から薄々気付いていたわ...」


 驚きは少なかった。

 皆気付いていたのだ、一種の狂乱状態になると言う事は感情がそこにあると言う事、明確な意思を持ち私達をボコボコにしたのだ。

 グレースの眷属には攻撃しなかったのがあまりにも分かりやすかった。

 グレースと血の繋がりのある眷属を攻撃したくないという意志。

 私に日頃の恨みをぶつけるいい機会であり正妻は私だ!と言う強い意志を感じた。

 一種の正妻決定戦はゼルセラの勝利で幕を閉じた。

 ゼルセラはオリジナルが先に結ばれるのを望んでいるのでその次はゼルセラが立候補するのだろう、私達は口を挟むことが出来ない。

 自責の念に押しつぶされそうになる、もし私がゼルセラと並ぶように強さを求めていたらこの結果はきっと変わっていただろう。


「はぁ...自我を取り戻したのならさっさと協力してくれるかしら」

「えぇ今は気分がいいですから構いませんよ」


 これからの方針を相談する。

 グレースの居ない今、団結力こそが大事であり纏まりが無ければ見つける事すら出来ないかもしれない、それだけは避けねばならず、協力しなければならない。


「じゃあ私はそろそろ陛下の元に戻るよ?今帝国で少し怪しい動きがあるのよ...」

「えぇ...それ私達も協力してもいいかしら?」

「ほんとに?それは助かるわ、相手は異世界人...どんなスキルを持つか分からない以上油断ならないから...」

「問題ないわ、ねゼルセラ」

「構いません。そういえば...以前ご主人様がこの世界の戦力での戦争の話をされていましたね...」

「志願兵を募るってことかしら?」


 確かにグレースはそんな事を言っていた。

 ぶっちゃけフリューゲルを一体でも動員すれば戦争は楽に勝つことが出来る。

 そもそも私の遠距離攻撃で一網打尽にできる自信ある。


「元々王国の戦争なのだし志願兵はある程度居ると思うけど...」

「なら指揮権を譲渡してもらえるかしら、軍司としてチェイニーに任せようと思うわ。ある程度の犠牲は許容するけど死者を出すつもりはない、魂の保護を含めた全体統制をゼルセラに任せる事になるけど構わなかしら?」

「たぶん良いと思うけど、一度陛下に確認を取ってみるわ」

「えぇお願い」


 不穏な動きを見せ続けるインデュランス帝国を滅ぼす為に動く、私自身も借りがあるのだ、何百年も封印され魔力を搾取し続けられたのだ。

 今となってはどうでも良い事だが、多少の恨みはしっかりと存在する。

 昔の付き人であったエミリアを失い私は酷く悲しんだ、その恨みをぶつけるいい機会だ。

 それに、ゼルセラを戦場に置き死んだ異世界人からスキルを回収する、その中にグレースを見つけ出す切欠があればいいと言う僅かな希望も存在する。

 エミールの元に入っている情報によると帝国兵は凡そ200万。

 兵力差では圧倒的だが、今は良いカモだとしか思わない、その中の一人でいいから特殊なスキルをもっていればいい。

 これは王国と帝国の問題であり、デフォルト達は巻き込まない。王国の強さを周辺国に知らしめるいい機会だ。

 ゆくゆくはそれが覇王国建国に繋がる。その為には国王である覇王を復活させねばならない。

 ゼルセラの心を取り戻した今、出来る事は多い。少し見えた希望にすがる様に私達は戦争の準備を始めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「見ろ!あの戦いを!!我輩達も混りに行かんか?!」


 テンションの高いカオスは非常に面倒臭い。

 せっかく死んだふりをしているのに混ざったら一発でバレてしまう。

 ただ、混ざってみたい欲が無い訳ではない。

 全力戦闘のゼルセラやデフォルト、それから眷属達と戦ってみたい気もする。

 まぁ戦ってみようと思えば【時空の狭間】で戦う事が可能なので別で俺も今度行ってみようと思う。


「忘れたのかカオス...今は死んだふりの最中なのだぞ...やりたければこの作戦が終わった後個人的に交渉してくれ」

「わかっておる、なんとなく言って見ただけだ、だが...やはり未熟だなあれではゼルセラの思う壺だぞ?」


 そんな事を言われても今の少女の肉体には【千里眼】や【透視】のスキルが備わっていないのでゼルセラやマナ達がどんな戦闘をしてるか見当もつかない、そもそもカオスの実況が下手くそすぎるんだ...具体的に話してくれればより状況が詳しく掴めるというのに...こいつは「ほう」「なるほど」「やるではないか」とかの感想しか述べないのだ、そもそもこれを実況と呼んで良いかもわからない。

 まぁ、最期のセリフを鑑みるにゼルセラの圧勝だろう、そもそもゼルセラは【時空の狭間】で何度も戦っているとはずだ、なので普通に戦った場合ゼルセラが勝つ。

 そして俺の予想は正しいだろう。


「ただ...あれではジュバンの奴が可哀想だな」

「ジュバンに何かあったのか?」

「魔力をスカーレットに吸われたんだ」

「吸われた?また?」

「あぁまただな....」


 マナの奴またジュバンの魔力を吸ったのか...

 呆れてしまう反面、大変マナらしいとも思う。

 ただ....ジュバンが可哀想なのは同感だ。何度も何度も魔力を吸われてしまっては俺に合わせる顔が無いだろう。


「ジュバンをここに持ってこれるか?今のアイツではここまで戻ってくるのは不可能だろう」

「任せろ」


 それだけ言い残しカオスは転移しそしてすぐに戻って来た、片手に俺の剣を携えて。


「ホレ、持って来てやったぞ」

「今回はほとんど持ってかれたな...自重と言うものを教えないとな...」


 可哀想な俺の相棒に再び魔力を流し込む。

 やがて意識を取り戻したジュバンは申し訳なさそうに謝罪を繰り返す。


「主よ....我にはもう合わせる顔がない....」

「そんな表面上の顔を気にすることはない、俺はお前のお陰で今があるんだお前が何度力を失おうと俺が何度でもお前に力を与えよう、俺はこう見えてお前がお気に入りなんだ」

「主よ...我は改めて決意しましたぞ!我は今後何があろうとも主について行くと誓う!!!それで....今の姿は...一体?」

「う、うむ」


 俺は自分の幼い少女の身体で腕を組み考える。

 そもそも何故ジュバンに思っている事を言ってしまったんだ?恥ずかしいセリフを直接伝えるなんて俺は一体...。まさか...


「おいカオス!!お前俺に【真実の呪言】使っただろ!!!」


 口笛を綺麗に吹き視線を泳がせる。確実にこいつが犯人だろう。


【真実の呪言】対象に真実を言わせるスキルでありこのスキルを使用されると対象は相手に対し心の底から思っていることを伝えてしまう。

 格上や同等存在には効かないが今の少女の肉体でカオスのスキルに抵抗レジストできる訳がない。


「つまり先の言葉は主の真意ということなのですね!我...感激で涙が...。」

「確かに本当のことだけど...カオス...今後はやめろ!」

「我輩とて節度は心得ておる」


 心配しかないカオスの言葉を聞き不安も残る中、改めてジュバンに魔力を流す、おまけとして吸収された時より多少多めに流してあげたので以前よりも強くなっただろう。

 波動を抑えるように指示を出したのでマナやゼルセラ達に気取られることはないだろう。

 話にあった帝国との戦争にマナがどう動くか、場合によっては俺の生存はその時に伝えた方がよさそうだし良いタイミングで戦場に顕現し場を混乱させるのも面白そうだ。

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