第16話 ガチバトル

 さてと...久しぶりに暴れるか...。


 そんな事を思いながら指の骨を鳴らし軽く準備運動をする。

 隣で準備運動をするカオスを眺めると何故か服を着ていない。

 薄っすらと混沌エネルギーを纏っているが俺からしたら丸見えだ。

 本当にそんな格好で戦うのかと疑問を抱くが、彼女にとって本気状態は全裸なのだろう、今まで全裸だったのだし不思議ではない。むしろ俺と戦う時だけ完全武装だったらそれの方が驚く自信がある。


「ここら辺で良いな」

「うむ、どうする?最初から全力でやるか?それとも小手調べからか?」

「ふん。構わん好きにやるさ、精々負けないようにな」

「そのセリフ何度我輩に言うつもりだ?我輩が負けたことがあったか?」

「ぬかせ」


 最後の言葉を合図として戦闘が始まった。

 100mと言う距離は普通の人間からしたらそれなりの距離になる。

 だが、俺達からすれば100mなんて一瞬だ。

 音速や光速では表せない程の俊足。

 同じステータスだからこそ目で追えているが、もし仮に自分のスピードが人並みだったとするなら何万倍の思考加速が必要なのか見当もつかない。

 それこそ、訳の分からない単位程の加速倍率が必要になるだろう。

 世界をもってしても最速と言われる速度の蹴りを放つカオス、当然だが見えている。

 蹴りを華麗に回避し次の攻撃に対応するために右手にてカオスの右ストレートを手のひらで受け止める。そしてその勢いのままカオスの拳を掴み反転させ地面に叩きつける。

 だが、驚いたことにカオスはそれに対応してみせたのだ。

 地面に叩きつけられる瞬間に足で地面を蹴り上げその勢いを殺す。逆に蹴り上げた大地は抉れ俺の身体が宙に浮く、そしてそこに追撃の回し蹴り。

 辛うじてガードが間に合ったのでまともに喰らうことは防げたがそれでも反動は大きい。

 かなり上空まで飛ばされ、空中に足場を作る事でその勢いを止めた。


「まったく...骨が折れる相手だ」


【柔よく剛を制す】とはよく言ったものだ。

 技をもってしてもカオスは止まらない。

 それは俺とてそうだ。俺達の考えはどちらかと言えば【剛よく柔を断つ】と言う側面が強い。

 どんな技も圧倒的な力量差で押し潰す。相手の力を利用するにも限度と言う物があるそれこそが規格外のステータスを持つ我々と言う存在なのだ。

 だが、相手も同じステータスを持つならば話は変わってくる。

 力量差が同じならば技術で上回っている方が勝のだ。


 空中からカオス目掛けて魔法を放つ。

 無詠唱化した【混沌之獄炎カオスヘルファイア】だ。

 混沌エネルギーを混ぜ込んだ、絶大威力を誇る最上級の炎属性の魔法。

 その獄炎はありとあらゆるものを焼き尽くし消し去る。

 そのはずだが、獄炎を真っすぐに貫き俺の元へと辿り着く氷があるのだ。


 俺の放った【混沌之獄炎】に対しカオスは【混沌之氷結鋭針カオスアイスニードル】を放った。俺の広範囲魔法攻撃に対し貫通属性に特化させた氷針は獄炎を容易に貫き勢いをそのままに俺の身体に突き刺さる。

 だが、獄炎だって負けてはいない、炎属性無効を有していても燃えるのだから相手にもダメージはしっかりと入っている。


 互いにHPの減少を実感し笑みを浮かべる、【時空の狭間】ではないので当然だが痛みは存在する、それは偽りではなく本物の痛み。狭間は痛みに対し軽減効果が発動させられる、だから腕を切り落とされようとそれほどの痛みは感じない、痛いには痛いんだけど...。

 カオスが大地を蹴り上げ距離をいっきに詰める。それを反応できなかった様に振る舞い相手の攻撃をわざと受け止める。

 それを罠だともしらずに追い打ちを掛けようとするカオスにあらかじめ忍ばせておいた魔法を発動させる。

混沌之稲妻招来カオスコールライトニング


 落雷の轟音と共にカオスを叩き落し、さらに追い打ちとして【混沌之雷撃カオスサンダー】を叩き込む


「っく...我輩としたことが...今のは罠だったか...」

「小手調べはこの辺でいいだろう」


 こっから先はお互いに本気だ。

 覇王覇気を攻撃に組み込む事で攻撃を最大威力に引き上げる。

 先程よりも何段階か早くなった近接攻撃を手で捌いていく、それでも僅かではあるが捌ききれなかった攻撃が体に直撃し徐々にHPの減少が始まる。

 だが、それは相手も同じだ、互いに攻撃に専念したいがために防御が疎かになってしまうのだ。逆を言えば片方が防御に専念すれば防げると言う事。

 互いに攻撃の意志が強すぎるのだ。

 防御こそ最大の攻撃。

 そんな言葉を俺達は信じていない、攻撃は攻撃で防御は防御だ。

 やられる前に殺る、放たれる前に放つ、HPが0になる前に相手のHPを0にする

 たったそれだけの事だ。いや、それだけの事だった。

 なのに今は違う。互いに全力をぶつけても倒れない力と力のぶつかり合い。

 これが楽しくない訳が無い。

 次第に口元は緩み笑みが零れる。

 互いに攻撃の手は緩めない。緩めた方が一瞬の隙を突かれ連撃を喰らう恐れがあるからだ。

 高速移動や吹き飛ばし攻撃のせいで移り変わる戦場にいつの間にか居るシーラに一瞬気を取られた俺に追い打ちが掛かる。

 地面へと叩きつけられた俺に対して上空から巨大な隕石が降り注ぐ。

 それは一つや二つではない圧倒的質量を誇る隕石が100近い数で俺に降り注ぐ。

 その中で他よりも圧倒的に巨大な隕石の一つに悠然と立つカオスは鷹揚に笑う。


「油断したか?グレース!!」


 油断?シーラがいつの間にか居たことで多少の驚きはあった。ただそれだけで油断するかと言えばそれはNOだ。俺はカオスの事をそれほど甘く見ている訳ではない。


「油断?してないさ」

「なに!?」


 そしてカオスはようやく気付いたのだ自分の背後にある巨大な隕石に...。

混沌之堕下隕石カオスフォールメテオ】混沌エネルギーを用いて作られた途轍もない質量を誇る隕石、恐らくゼルセラでは作れたとしても1つだろう。その点に関してカオスは物量でごり押しだ。

 かといって詰めが甘い訳ではない、それが事実である様に俺は真面に隕石を喰らう事になる。

 確実に俺が避けられないタイミングでの追い打ち。

 

さぁ今度は我慢比べだ。

 カオスは上空から迫りくる隕石と俺が押し返す隕石でサンドイッチになり俺も俺で上空から降る隕石と固い大地でサンドイッチになる。

 大地が抉れてくれれば衝撃を逃すことができたのだが...カオスめ...これを見越して混沌エネルギーで大地を補強していたようだ。


 脳筋なようで抜け目がない。


 上から圧し掛かる重みを身体全身で受け止めてそれを送り返す、それには途轍もない力が必要になる。だが、助かったこともある。カオスが地面を補強してくれたおかげで幾分か踏ん張れるようになったのだ。

 これは盲点だったみたいだな。


「クッソォォォ!!」


 カオスの叫びに口元が崩れる。勝ち確とまではいかないが多少優位に立てたのではないだろうか。


「こうなったら!!!どうにでもなれぇぇぇ!!」


 流石に焦りを感じたのかやけくそになったようだ。

 いや....なにやってくれてんだあいつ...


 透視を使い様子を見てみたがさっきと同じ隕石が何個も重なっている。

 挟まれたカオスも避けられないだろうが押し返している俺も避けられない。

 ほんとに何をやってくれたんだ。

 これでは共倒れだ。


 いや、これでは重みに耐えきれず....爆発す――――



 そのことが頭に浮かんだ瞬間に隕石は互いにぶつかり合い大爆発が起こる。

 それは世界が始まってから三度目となるビックバンとなった。

 一度はカオスが世界を創り始めた時で、二度目は世界造りに挫折し一度世界を白紙に戻した時、そして今回だ。

 そう、この爆発でこの世界は壊れる。


 だがこの程度で壊れる程俺たちは脆くない。

 まぁ...かなりHPは持ってかれたが...


 瓦礫をどかしながら立ちあがるとカオスも平気そうに立ち上がる。


「さて、そろそろ我輩の奥の手を見せてやるか」

「奥の手だと?」

「恐れおののくと良い」


 そう言ってカオスが召喚したのは一体の魔物だ。

 装備が聖属性側なので勘違いされやすいがれっきとした魔物の【動くリビングアーマー】だ。

 実体はないが鎧を肉体とし動き回る、それはカオスが作り出した魔物であり、俺もよく見知った存在だ。

 カオスは不敵に笑いその魔物と融合する。

 融合と言うよりは装備を身に纏ったのだ、今まで未装備だったカオスが、だ。

 特大剣に特大円盾。

 純白の鎧はカオスの魔力に当てられ深紅の鎧に変貌する。

 内包する魔力は途轍もない、いや、そんな事よりも...


「おい!それは俺のスケルトンとの奥義のはずだろ!!」

「我輩が装備してはいけない決まりでもあったか?」

「それはないが...」

「我輩専用装備だからな、意志位持ってても不思議じゃないだろ?」


 確かにそれはそう。と理解できる。

 カオスが生み出した魔物の特徴として獲得したスキルや能力は全て装備に付与される、故にその装備は計り知れない程のスキルを持ちその上あり得ないほどの能力補正が掛かる。

 まさか、これが目的だったのか?最初から?

 だとすればカオスとはなんと狡猾で計算高い事か...


 まぁいい。

 早々に考える事を止め手始めに魔法をいくつか放ってみる。

 だが、それはびくともしない巨大な円盾により簡単に弾かれてしまった。

 なにより腹が立つのは魔法を防ぐ度に盾越しにちらっと顔を見せ勝ち誇った様な顔を見せるカオスにだ。


「その程度か?」


「惜しいな」


「おっと、今のは危ないな」


「我輩の盾は最強だったようだな?」


 沸き立つ苛立ちを魔力に変え魔法を叩き込む。

 意味がない事は理解している。ただ、放たずにはいられないのだ。

 あの顔を見るとなぁぁぁ!!!!


「【混沌之崩星カオスヴァン】!!」


 マナの魔法を見様見真似で放った崩星。

 世界を白く染め上げるが光が収まった後にそいつは悠然と存在し続けた。


「ふむ、今のは悪くない」


 うざっ!!

 よし...良いだろう。こうなったら俺もある程度本気を見せてやろう。

 手のひらを鷹揚と構えカオスに向ける。


「【覇王之衝撃覇オーバーインパクト】!」


 赤黒い衝撃波は全てを包み込み世界を赤く染め上げる。

 光が収まった後そこには何もなかった。手応えすらも、何も...。


「流石に今のは我輩でも受け切る自信がないな」

「だろうな、俺はこの魔法に負けてるからな」

「魔法とは呼べん、それはただの衝撃波だ」

「なら技か?まぁあまり関係はないがな」


 よく見れば大盾の一部が溶けている。

 一度盾で受けようと試みたものの諦めて回避したと言う所だろう。

 咄嗟にその判断ができるのは流石と言うしかない。あれを受け居ていれば俺の勝ちが確定していただろう。

 だが、もうそろそろ良いだろう。

 向こうの奥の手も暴いたのだから、こちらも奥の手を出すとしよう。

 そっちが剣を使うのならこちらも剣を使うまでだ。


「【破邪聖皇神斬 刃皇ヘリド・ジュバン】!!」

「むむ!?」


 右手に刃皇を握り締める。

 俺の持つ最高位の剣であり最強の名をほしいままにする伝説の剣。

 俺の魔力で変質し全てを切り裂く力を手にした一品。

 この剣を前にしたとき、例えあの忌々しい大盾ですら軽く両断できるだろう。

 俺の剣を一目みたカオスは初めてその額に汗を垂らす。


「その剣...流石にやばいな...」

「勝ちを拾わせてもらう」


 俺は大げさに剣を横に振った。

 飛んでいった斬撃は全てを貫きカオスを袈裟懸けに斬った。

 横方向から斬撃が来ると思っていたカオスは驚き身体から溢れる鮮血に我が目を疑う。


「驚いた...我輩から血が流れたの何ていつぶりだ...」

「さっさと直せ、そのままじゃ死ぬぞ?」

「う、うむ。少し待つといい」


 未だに動揺を隠せていないカオスはおぼつかない手で自身の身体の治療を行う。

 ただ、治癒系統の魔法に関してはあまり知識はないらしく、いつまでも傷口は開いたままだった。


「じっとしてろ」


 損傷した内部を修復した後傷口を閉じる、その後減ったHPを回復させ掛かった状態異常を全て消す。

 心ここにあらずと言った表情をするカオスを見るのは初めての事で俺の中で戸惑いが発生する。

 治療が終わったことを伝えてもカオスの表情は変わらない。

 暫しの沈黙の後何かを悟ったようにカオスは儚げに笑う。


「我輩にも...紅い血が流れていたのだな...正直驚いたぞ...」

「なんだそれは...血は普通紅いだろ?神とてそれは例外ではない」

「そうなんだがな...我輩は昔...黒血こっけつと言われていたんだ...」

「黒血?血が黒い?証明すればよかったじゃないか」

「我輩はこの体に傷を付ける事は出来なかった...だから証明できなかったんだ」


 こんなにも弱々しいカオスを俺は知らない、いやむしろ誰だお前は!!

 これではまるで一人の少女と変わらないじゃないか!


「よかったな、お前の血は紅いみたいだぞ」

「あぁ...そのようだな」


 俺の言葉のどこに安心する要素を見出したのかは、わからないがカオスは優しく笑う。

 俺が惚れそうになったのは関係の無い事だ。


「見たか愚かな神達よ!!我輩の血は紅かったぞ!!」


 煩いくらいの大声を上げるカオスを眺めてふと思う。

 あいつにもアイツなりの重い過去があったのだな...と。

 吹っ切れたのかいつもよりも純真な笑顔を浮かべるカオスが振り返り俺を正面に捉える。

 そしてどこからともなく剣を取りだす。

 その剣を見て俺の心に動揺が走る。


「お前...その剣は...」

「うむ、お前の剣を参考に作らせてもらった。これで対等だな」

「カオスよ...お前はいつも...俺の想像を超えてるな」

「それはお前もだ、まさかお前がこれ程の剣を所有しているとは想像してすらなかったぞ」

「それもそうか...俺たちは互いに規格外だからな」


 互いに笑い合い剣を構える。

 力、技、得物。すべてが対等となった今、勝敗は俺でもわからない。

 さぁ仕切り直しだ。今度こそ本気で...


 再びぶつかり合う刹那の時。俺はカオスが呟いた言葉を聞き逃してはいなかった。


 グレース...我輩と共に―――死んでくれ

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