第7話 全力で暇を潰す者達その1

 混沌と共に時空の狭間へと向う。

 目的は只の息抜きに近い。こう見えても俺はかなり忙しいのだ。

 日々色々な業務に追われている。まぁ大概がマナが承認した書類の確認や学院行事などの企画、果ては王女からの相談事まで多岐にわたる。

 女王も色々と改革を行いたいらしく色々と尋ねてくる、なので俺は意見を出すだけだが...


 そんな状況下で一番面倒なのは政略結婚を持ち掛けてくる貴族などだ。

 神々しいまである俺の美貌――グレースの美貌――は直ぐに世界中に知れ渡った。

 俺はその類を片っ端から断っている。

 そもそも、俺の配下のほとんどが俺の好みで構成されている。正直、貴族や王族などでは比べ物にならない程興味が沸かない。

 マナが特別なだけで、俺は成人をゆうに超えているような女性に興味がない。

 一般人から少し抜けたくらいの美人など、俺の妹達と比べるとあまりにも差が大きい。

 そんな俺の日々のストレスの発散方法はこの時空の狭間へと来ること。

 本来は一時間くらいしかない休憩時間もこの空間であれば1万年という途方もない年月をだらだらと過ごせる、飽きたら戻ればいいのだからなんら支障はない。

 今回は混沌を連れて来た。

 理由は簡単でただの退屈凌ぎと一つの証明の為だ。


 先程、混沌と話した『俺と混沌の倒し方』それは実に単純だ。

 同じステータスかそれ以上のステータスで無理やりねじ伏せるしかないのだ。

 俺と混沌に関しては、能力スキル技量レベルでは話にならない。

 どんなに特殊な能力を使おうが自分よりもステータスの劣る相手の能力を無効化してしまう。

 どんなに技量を鍛えようとも俺たちのスピードの前には児戯でしかない。


 そもそも攻撃を受けても防御を貫いても俺たちの膨大なHPの前にはあまりにも足りていないのだ。

 そして出た結論は同等のステータスで殴るしかないのだ。

 俺と混沌でやりあえばいずれは決着が付く。正直本気でやらないと負けるのは俺だろう。

 シーラがやったなら勝つのはシーラだろう。

 もっとも覇王覇気を使われたら今のシーラでは耐え切れないだろうが俺の身体を操り戦えば勝つのは間違いなくシーラだ。

 俺がそのことを混沌に説明すると混沌は理解をしたかのように頷く。


「お前の言い分はわかるだが...可能なのか?我輩達よりも能力値を高くするなど」


 混沌の言う事はもっともだ。

 おれ達よりもステータスを高くすることなんて正直現実的じゃない。

 だが、混沌よ....俺は先に言ったはずだ....


「俺は負けたんだぞ?つまり....わかるよな?」

「なるほど...我輩達を超えるか...」


 俺たちのステータスは上昇し続ける。それこそ宇宙が広がるのと同様だ。

 混沌の力は宇宙そのものであり宇宙が広がると言う事は混沌の魔力が増大し続けている事の証明だろう。


「正直、俺も驚いている。まさか俺たちのステータスの数倍化だとはな...」

「何!?数倍化だと?!だとすれば...我輩達では勝てないと言うことか...?」

「諦めるにはまだ早いと思うが....俺たち一人一人だと勝てないだろうな」

「つまり?」

「俺と共闘しないか?」

「クックック....臆したかグレース!だが!!!面白い!!我輩よりも強いものを倒せると言う事は我輩達も成長を味わえると言う事か!!!」


 こいつは何を言ってるんだ?と思い少し考えてみると納得の答えだった。

 俺と混沌は最初から完成体だった。

 他の者達に種族としての進化などがあるにも関わらず、俺たちはそれを体験した事が無い。

 たしかに魔法などのレベルは上がるが肉体的な成長はほとんど感じた事がないのだ。

 そこで混沌は思ったのだ。我らよりも強い者と戦いもし勝てたのならば俺たちも成長できると言う事。

 正直今よりも強い力の想像がうまく出来ないがそういう事なのだろう。


「さぁ行くぞグレース!!覇王が二人いるのだ負けるものか!!」


 そして俺は混沌を連れ覇王城の攻略に向かった。

 俺と混沌が共闘してるだけありボス戦である俺自身との戦いも楽々勝利を収められそうだった。

 だが...俺たちはあの時と同じように途中で乱入してくるジルニルにボコボコにされることになる。


 拠点まで戻って来た俺と混沌は考え込んだ。

 俺のステータスの数倍化である以上俺に勝つ手段は無いのだ。

 であるならば混沌の力を増やすしかないと言える、だが、それも混沌のスキルであるシーラの能力値に加算されるので関節的に俺のステータスが上昇するだけなのだ。


『無理だな』


 不可能を可能にすると言われる俺と混沌からほぼ諦めとも言える言葉が漏れる。

 事実、俺たちには思いつかなかった。

 あくまでも、俺たち二人では。だが。


「俺たちと並ぶ者を複数用意するしか無い様だな...」

「我輩達と並ぶ程の者か...可能なのか?現実的に考えて」


 俺は思った、俺と混沌ではジルニルには勝てない。戦力的には俺と混沌が協力することで戦力は2倍。

 仮にジルニルのステータスが俺のステータスの3倍ならばもう一人いれば勝つ可能性が見えてくる。

 何倍かはわからんが恐らくそれくらいしか勝方法は無いだろう。

 混沌の言葉も一理ある。

 正直俺と並ぶ程の力を持つ者を数人用意するなど簡単な話ではない。

 だが、心当たりはあるのだ。俺の配下の、エミール、ゼルセラ、デフォルト、メトラ、それからキーラにシーラ。キーラとシーラ以外はまだ能力値が足りないと言える。

 エミールはかなりの力を得たがまだまだだ、俺と張り合えるほどではない。

 ゼルセラはまぁまぁだ、それなりに力を得て来たのでいまでは数秒なら俺と戦えるだろう。

 デフォルトはあのスキルを上手く利用し尚且つステータスを大幅に上昇させることができれば大きな戦力になり得るだろう。

 メトラも同じだ、元から巨大な力を有していたが強者との戦い方に関してはいまだに未熟と言える、デフォルトと協力すれば無限の可能性を秘めているのでおおきな戦力と言える。

 シーラとキーラは言うまでも無い、俺と混沌と同じステータスを誇るのだから真面に戦えるだろう。


 だが、既にこの世界の者では太刀打ちできないほどに強くなっているこの4名を強くするのが大変なのだ。

 戦いを経て強くなるのだ、だが彼女たちに経験を積ませるほど強い者達はそうそう居ない。

 なのでここは俺たちが人肌脱ごうではないか。


「ということでこれだ」


 俺は手のひらに水晶を取りだした。

 それは疑似魂、簡単に言えばホムンクルスの核となる魂を象った水晶体だ。

 俺はそれを弄り意志の投影を可能にさせたのだ。

 種族も様々であり術者の思うがままなのだ。そして何よりこの疑似魂の優れている所は術者自身が憑依する事を可能にする。


 混沌に説明をすると混沌は目を輝かせる。ここまではすべて予想通りなのだ。

 俺たちは魔物か何かに憑依しレベルアップを果たし進化する、そしていずれはエミール達の敵として戦わせる。

 俺たち自身で欲しいスキルを探し進化先を選ぶことになる。いわばゲームの様な物。


「さて、好きなキャラを思い描くと良い、自分のキャラになるのだからな」

「うむ...うむ....わかっておる...」


 俺のキャラは既に決まっている。

 俺はイメージを水晶に送り込む。すると水晶は徐々に形を変え俺のイメージ通りの姿に変わる。

 皮膚も無く肉も無い、骨だけの顔面。虚ろな眼窩には真っ赤に揺れる炎。いわゆるスケルトンだ。

 俺が異世界に来た段階で興味を抱いた存在、それがスケルトンだ。恐らく魔力で動いているのだが、原理が知りたかったのだ。

 俺が作りだしたスケルトンをじっくりと眺める混沌。


「何故最下級の魔物なのだ?どうせならもっと強い魔物の方が良くないか?」

「わかってないな混沌よ、スケルトンには可能性が秘められているのだよ」


 俺は怪しく笑う。何故かなんて聞かれても俺にはわからない。だってかっこいいからと言う一つの理由でそれにしたのだから。

 ふーん。とどうでも良い事の様に混沌は自分の考えに戻って行った。


「よし!!決まったぞ!!」


 少しの時が流れ混沌が勢いよく水晶にイメージを流し込む。

 やがて水晶は膨らんでいき混沌の思い描く形に変化していく。


 それは全長2メートル程の体格を持ち錆びついた重鎧を着ている。だが、中は空っぽだ、表情は見えないし関節も視認できない。大きな剣を持っているが錆付いてしまっている盾も同様だ、何かの紋章が描かれているが錆のせいでよくわからない。


「何故?動く鎧リビングアーマーなんだ?」

「クックック...わからんか...ククク」


 怪しく笑う混沌。こいつも俺と同じならば理由はないだろう。俺が思うとすれば混沌と真逆と言う事だけだ。混沌は普段服を着ない―――今は着させているが―――なのでそれ以外なのだろう、普段必要としていない武器と鎧、それらの可能性を知りたいのだろう。

 俺たちの肉体は生半可な防具を付けるよりも強度があるのだならばぶっちゃけ身を護る必要がない、なので装備は必要ない。俺に関してはほぼ見た目装備に過ぎない。

 だが、混沌が作りだした【動く鎧リビングアーマー】は装備の性能にかなり影響を受ける。それこそ鎧がすべてと言っても過言ではないだろう。


 鎧を作ったのを確認した後俺は指を鳴らし寛げる部屋へ混沌と魔物達を連れて転移した。

 ゼルセラの作った都市である【黄金卿グレーステ】にあるシュテルケ城その中には当然の様に安らげる部屋が存在する。

 柔らかなソファーが置かれた中々に趣がある調度品の数々、一体どれだけの冒険をしたらこんなに集められるのだろうか...。


 俺と混沌はソファーに腰を下ろし安らぐ、俺たちを包みこむソファーに身を預け目を閉じる。


「憑依と念じれば乗り移れるぞ」


 俺は混沌に告げると同時、憑依と念じる。

 すると直ぐに視界が切り替わり俺の目の前には優雅にくつろぐ銀髪のイケメンが映る。我ながら美しいと思う。

 残念ながらスケルトンの初期ステータスはそれほど高くはない、二桁なのでそこまで俊敏に動けるわけではない...が―――そんな俺よりも遅い存在が俺の横に居た。


「なんだこれは!!!全く動けんぞ!!!」


 怒る混沌。がしがしと動こうとしてるのが分かるが金属の掠れる音と比較しても動いている量が少ない。まぁ理由は明確なんだけどな

 あたりまえだろ....体錆びてるんだから...


「先に装備の調達か...」


 声帯が無いはずなのに声が出るのはかなり違和感があるがどうやら声を出すのは問題ないらしい。

 さすがにこんな最下級の魔物の中の最弱の代表格とも言えるスケルトンと錆びた塊で戦えるとも思わない。

 なにしろ俺は武器すら持ってないのだから。

 まずは武器だ本来ならばここの城の所持者に頼むのが手っ取り早いだろう。

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