第27話 ほろほろ

 夕食はほぐした山鳥の肉とつぶした芋を混ぜて焼いたもので、羊の串焼きと全く同じたれがべったりと塗られていた。二人で切り分けて食べた後、スフェンは読んだ本の内容を思い返しながら、いつエリアに声をかけるか決めあぐねていた。明日はきっとあわただしいから今夜のうちに、荷造りの時にでもと考えていたが、エリアなら支度など出発間際に一瞬で済ませてしまう気がして、ついに決心して立ち上がった。


「あの……ちょっとお話があって」


 エリアが手入れしていた杖を置く。


「なんだい?」


 スフェンは懐の小さな箱を取り出した。すっかり体温が移っていた。


「今まで本当にお世話になりました。エリアさんが見つけてくださらなかったら僕、ずっと枝が刺さったままだったかもしれません。それか、家を出た日に悪い風邪をひいてそれきりだったかも……」

「うん」

「これだけじゃ全然足りなくて……というか、どんなものでも絶対に足りないんですけど……その、受け取ってもらえますか?」

「いいのかい?」


 驚いた風ではない、穏やかに念を押すような声に、スフェンははっきりと首肯した。


「ありがとう」


 エリアが箱を開ける。一揃いの耳飾りが蝋燭の光に瞬いた。暗い紅色の石が花のように並び、その下に雫型の大きな一粒がぶら下がっている。


「おや、きれいだね」

「自分でお金を稼げなくても、自分の力で手に入れたものでお礼をしたかったんです。なので、学院でご褒美にもらった指輪を売って、そのお金で買いました。ずっと持っていてほしいとか、つけてほしいとかではなくて……売るとか贈るとか、いつでもどんな風にでも使ってください」

「分かった。好きにさせてもらうよ」


 エリアがそっと箱を閉じた。


「ありがとう、スフェン」


 途端に視界がぼやけ、温かいものがとめどなくこぼれる。スフェンはうつむいて首を横に振った。


「ありがとうございました――エリアさん」

「泣きながらお礼を言われるなんて、まるで死んだみたいだね」


 エリアがからからと笑う。


「見てごらん、ちゃんと生きてるよ。体もある」


 スフェンは顔を拭う手を下ろした。滲む帳越しに微笑む顔が見えた。

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