第28話 隙間
細引の輪を首に通し、何本かとっておいたシルベソウを杖にくくりつける。左手に黒曜石と日長石を握って椅子に深く腰かけた。瞑目する前に一瞬、寝台を見やる。少年はひとしきり泣いて落ち着き、何かの拍子にまた一泣きした後、寝かしつけるまでもなく眠りについた。今も多少の物音や鐘の音にも動じず、不安になるほど静かな寝息を立てている。
常ならば導き手と降り手を同時にこなすのは難しい。しかし、肌は冷えた湿気に包まれ、わざと空けておいた意識の隙間からは、窓や漆喰の壁を打つ音が絶え間なく聞こえてくる。これなら充分だ。エリアは降りしきる雨に身を寄り添わせる。下へ。
大海よりも途方もない無間の闇の底にすんなりと降り立った。裂けた背中がどうにもむずがゆく、腕を回して肩の骨を動かしてみたが、「詮ないな」とつぶやいてやめにする。はたきで埃を払うように杖を振ると、シルベソウから舞い散った粒が、ゆうべの白い虹を目覚めさせた。鼻歌交じりに大股に歩き、虹の果てに昨日よりも早くたどり着く。底に杖を打ちつけ、それから黒曜石で人形を殴り描いた。
「おーい」
石二つを手の中で転がしながら、大した意味もないが呼んでみる。ようやく現れた男はエリアを目にするなり大儀そうに顔を背けた。
「おや、せっかく来たのに愛想がないな」
「あの小僧は」
「いい子は寝てる時間だよ。真夜中姫がかぼちゃにつぶされて死ぬ時間……ああ、お前が知ってるのは死なない方の筋書きかな?」
「あんたに用はない」
ハーツィグが言い捨てる。
「まあそっちはそうかもしれないけど、こっちはあるんだよ。ちょっと答え合わせをしたくてね。お前があの子に枝を託した――いや、」
エリアは唇の端をそっと上げた。
「お前が喜ぶ言い方をしてあげようか。一度きりだ、黄泉に入るはなむけだと思って聞いてくれよ――あの子の木に枝をぶっ刺してめちゃくちゃにしたことについて」
ハーツィグの目がゆっくりと動く。視線がかち合った。
「最初は私も勘違いしてたよ。未練たらたらの奴が力を押しつけた、よくある流れだってね。未練を断つなり願いを叶えてやるなりすれば終わりだと思ってけど、枝には何も込められてなかった」
エリアは石をもてあそびながら続ける。
「それはそうだ。最初から願いも未練も込もっちゃいなかった。枝を刺した時点で願いを遂げていたんだからね。お前はあの日、路地裏で死ぬ間際に魔法使いを見た。希望に満ちあふれた、前途明るい若い使い手だ。だから最後の力を振り絞って枝を刺した。力をねじ込んで、彼の力をへし折って歪めてやった。妬みと劣等感のために――そして満足して死んだ。どうかな? 合ってるだろう?」
「……何を根拠に」
平静と無関心を装ってハーツィグが言う。しかし彼の姿を成す光の粒は瞬きながら震えていた――まるで雨の前の風になぶられる葉のように。エリアは石を懐にしまい、ハーツィグの眉間をまっすぐに示した。
「手に取るように分かるさ。触ったんだから、その枝を」
ハーツィグの顔を暗い衝撃が染めた。
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