第13話 うろこ雲

 扉を開けた先にはエリアがいて、主人に水差しを返すところだった。


「エリアさん、ごめんなさい、間に合わなくて」

「おかえり。いいよ、たまには」


 エリアがひらひらと手を振って階段へ向かう。スフェンは黙ってそれに続いた。冷えた階段をのぼっていると、林檎がいくつも転がり落ちてくるのが見えた。抜け殻のように横たわるエリアを目の当たりにした手前、再び〈のぞき〉を頼む気など起きるはずもなかった。しかし、いつつかめるともしれぬ糸口を探り続けるのにも耐えられなかった。他に手立てはないか知りたかった。それかいっそのこと、打つ手などないと切り捨ててほしかった。


 部屋に入り、決然としてエリアの方を向く。先に口を開いたのはエリアだった。


「スフェン、もう一度〈のぞき〉をやる気はある?」

「えっ」


 スフェンは拳を握ったまま棒立ちになった。


「私が納得いかないだけなんだ。やるかどうかは君の自由だよ。ただね、」


 エリアが手招きする。窓際に立って目を凝らせば、暗い空に鱗のような雲があった。


「明日は雨だ。どういうことか分かるね?」

「エリアさんの力が増す……」


 スフェンがつぶやき、エリアが片目を閉じた。


「見落としたものがあったら気づけるかもしれないし、術を組み合わせてもっと探ることもできるかもしれない。まあ、前みたいなことになったら、その時はまた寝てやり過ごすさ」

「でも……でも、せっかく調子がよくなるなら、たくさん依頼を引き受けてお金を稼いだ方がいいんじゃないですか?」


 エリアが笑った。


「言ったろう、これは私の満足のためなんだ。すっきりしなきゃやることも手につかない。ということで、どうかな?」


 スフェンは拳に力を込め、それから頭を下げた。


「お願いします」

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