第3話 かぼちゃ

 エリアと連れ立って一階の食堂に降りた。朝食は例によってスープと黒パンだった。スープの具材は日ごとに変わる。残り物を入れているのだろうとスフェンは踏んでいるが、エリアは毎日何が入っているかわくわくすると言って喜ぶし、金をとられぬ範囲でおかわりもするのだった。


「スフェン」

「はい」

「おとぎ話は好きかい」

「大好きというわけではありませんが……小さい頃はよく聞かせてもらいました」

「じゃあ『真夜中姫』も知ってるね」

「はい。魔女の力を借りて舞踏会に行く話ですよね」

「そうだよ。あの話にはね、この辺りじゃ知られてない別の終わり方があるんだ」

「別の? 王子と結ばれるのとは違うっていうことですか」


 エリアはスープを一口飲んでから片目をつぶる。


「舞踏会の途中、日付が変わったことに気づいた姫は急いで帰ろうとする――ここからが違う」


 スフェンは手を止めて続きを待った。


「かぼちゃの馬車に乗り込んだはいいものの、そこで魔法が解けた。綺麗な服は元のぼろに戻り、鼠も鳩も散り散りになった。馬車も当然かぼちゃに戻る。でも魔法が解ける時、姫は馬車の中にいた。姫はかぼちゃの中で押しつぶされて死んだのさ」

「え」


 スフェンはややあってから声をあげた。


「それで終わりですか?」

「うん」

「姫は生き返らないんですか? 王子とは会えずじまい?」

「うん。まあ、夜更かしするなっていう教訓を無理にくっつけただけのことだよ」

「……くっついているんでしょうか」

「さあね」

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