第22話 泣き笑い
「あの女が何者か、スフェンもなんとなく分かったかい?」
夕食を終え、エリアが塩のついた指を舐めている。
「はい。僕を連れ戻しに来たんですよね」
「そうだね。もっと詳しく言うなら、君の家族から依頼を受けた渡り者の魔法使いかな。多分だけど、君の家の人たちは君が帰ってこなくなって、まず自分たちで思いつくところをあたった。でも見つからないから魔法使いを頼ることにした――この町の住人じゃなくて、私みたいに旅してる奴をね」
「どうしてでしょうか。自警団もいるのに」
「自警団っていうのはこの町の人間だろう。噂を流したり、後になって口をすべらせたりしないとも限らない。それを避けたいなら、よそ者に頼んで見返りを渡して立ち去ってもらうのが一番穏やかだよ。――スフェン、ここに来て何日だっけ」
「え? ええと……」
頭の中に暦を広げる。今日は金玻璃月の九日、ハーツィグと出会ったのは先月の末のはずだった。
「十日ぐらいです」
「もうそんなになるか」
エリアが指同士をこすり合わせる。
「あの女がいつ依頼を受けたかは分からないけど、あることないことを言って引き延ばしてたのかもね。魔法の調子がどうとか、特別な星の並びになるまで待たなきゃとか……使い手じゃない依頼人はもっともらしく聞こえるから渋々従う。余計に手間賃がかかったと言われたら、そういうものかと思って報酬に上乗せする」
「じゃ、じゃあ父さんや母さんはあの人に騙されたっていうことですか?」
「絶対とは限らないけどね」
「そうですか……」
スフェンは肩を落とし、それからおずおずとエリアの顔を見る。
「あ、あの」
「うん?」
「その……本当なんですか? エリアさんが僕の家族から依頼を受けたって」
エリアが目をしばたたいた。「ふふ」と声をもらしたかと思うと、体を折って笑いはじめる。スフェンは大きく揺れる頭を呆然とながめた。
「違うよスフェン――あれはハッタリだ」
「ハッタリ?」
「そう。君まで信じる必要はないよ」
「な、なんだ」
ようやく笑いがおさまり、エリアが目尻を拭って息をつく。
「渡り者の間では、万が一同じ依頼を受けた場合、どちらかが引き下がるのが決まりなんだ。今回は私に術を破られたあっちが力の差を知って退散したのさ。今頃きっと君の家族ともさよならしてるはずだ――まあ、手付金ぐらいはもらったかもしれないけどね。というわけで、私たちもあまりのんびりしていられないな」
スフェンははっとして居ずまいを正す。
「枝を返すのは明日の夜になりそうだ。なぜなら――」
二人は窓の外の空に目を向けた。
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