飴玉×点呼×バラック

 10月……夜……

 となると自然とハロウィンの気分になるね。

 あ、10月ってのはこの動画撮影当初の話だよ。

 んで、ハロウィンに因むわけじゃないけど、五匹の黒猫達が起こした騒動の話をしてみようか。


 あたしが一匹の野良猫だった頃の話。

 残念ながら体毛は黒じゃなかった。

 けど、その時は近所で有名な黒猫グループがいてね。

 揃いも揃って真っ黒な体で、そして全員瞳が金色にらんらんと光っていた。

 よく空き地とかで夜に猫の集会が開かれるでしょ?

 ……開かれるんだよ!

 そういう時一箇所に集まってるもんだから、それはそれは目立っていたよ。

 親子とか兄弟ではない気がしたけど、何がきっかけでああなったんだろうね?

 猫って基本群れないから、見かけるだけでも不思議なもの見ちゃった気分になってソワソワしたもんだよ。

 その黒猫グループのことは遠巻きに見てたんだけど、一度だけ直接絡んだことがあってね。

 なんてことない昼下がりの日だった。

 バラックの屋根の上で日向ぼっこしながら寝てると、黒猫たちの騒ぐ声がする。

うるさいなーって見下ろすと、路地裏でにゃごにゃご騒いでる例の五匹。

 その騒ぎの真ん中に視線を向けると、大きな飴玉が一個、軒先に落ちてたんだよね。

 人が舐めてる途中で口から取りこぼしちゃったのかなって感じ。

 蜂蜜味かオレンジ味かレモン味かわからないけど、そんな色の飴玉。

 そう、ちょうど黒猫達の瞳と同じような色をしてたの。

 だから、猫たちは自分たちの仲間の瞳が落ちている!って怒ってたの。

 笑っちゃうよね、その場にちゃんと五匹いて目玉もちゃーんと十個あったのに。

 耳を澄ますと、どの黒猫も

「我々は五匹で一匹なのにこの場には四匹しかいない!つまりここにいない一匹の瞳だ! 仲間を傷つけたのは誰だ!?」

って言ってるの。

 あたしはすぐわかったよ。五匹の黒猫全員が、自分のことを数え忘れてるってね。

 そのまま無視しても良かったんだけど静かに昼寝したい気持ちもあったから、屋根の上からこう言ってやったんだ。

「順番に一回ずつ鳴いてごらん。五匹ちゃんといるはずよ」

ってさ。

 突然の天の声に驚きつつも、黒猫たちは恐る恐る点呼を取った。

 にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ!

 すると、当然ながら鳴き声は五回。五匹ちゃんと揃ってることになる。

 でも目に映る仲間は四匹しかいない。

 余計混乱しちゃった黒猫達の馬鹿さにため息をついて、あたしはもう一度だけ助言したんだ。

「その瞳の匂いを嗅いでごらん。仲間じゃないにおいがするはずよ」

 またもやいぶかし気な顔をしつつも、リーダー格の黒猫が恐る恐る目玉……いや、飴玉のにおいを嗅いだのね。

 スンスンッと鼻を鳴らし、フレーメン反応で間抜けな顔になった猫はこう叫んだ。

「花の蜜と人間の匂いだ! 仲間の目玉じゃない、違う生き物の目玉だ!」

 そこでやっと目の前に落ちている物が仲間のものではないってことをわかって貰えたんだよね。目玉って思い込みは取れないままだったけど…

 こうして黒猫達は良かった良かったって安心して、さっきまで騒いでたのが嘘みたいにどこかに姿を消しちゃった。猫って気まぐれだからね。

 でも微笑ましいよね。

 全員が仲間の瞳をじっと見て認識してるからこそ起こった騒ぎってことでしょ?

 当時のあたしもちょっと笑っちゃって、やっと静かになった屋根の上でお昼寝できたんだ。


 あたしの体は何色だったかって?

 えーと……な、何色だっけ……?

 自分のことを認識できてなかったって意味では、あの黒猫達と同類なのかも。

 なんてね。


 じゃあね!また次の夜にお会いしましょう。

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