砂地×アメジスト×箒

 どれぐらい前か忘れたけど、あたしは旅をする人間だった。

 砂地に生まれて、砂地で死んでいった人生だった。

 ラクダとかが沢山いるキャラバンで面倒見てもらってたんだけど……今考えると身分的には奴隷の出だったのかな?

 まあいいや。

 とにかく商人グループと旅をして、隊長の決めたスケジュールだけは絶対遵守したけど、結構いい感じの人間関係だった。

 ファミリーって感じ。

 珍しい骨董品とか美術品とか仕入れては、停泊した街の金持ちに買い取ってもらってたの。

 あたしも結構活躍してたんだよ。

 汚れた壺だけど気になるなと思って仕入れたら、よーく磨くと総ターコイズの壺だったり。

 目の悪いおばあちゃん商人から格安で仕入れたペルシャ絨毯、よく見たら純金の刺繍糸が編み込まれてたり。

 その時は流石に売上金の一部をおばあちゃんに返したなぁ。

 お返しにすごい量のご馳走とドライフルーツのお土産もらっちゃったから、損得勘定がわけのわかんないことになってたけど。

 とにかく、当時のみんなはあたしの心眼美を買ってくれてた。

 あたしが「これが気になります」って言えば、いろんな過程をすっ飛ばして隊長が商品を見にきてくれた。

 で、大体が隠されたお宝だったりしてね。

 そんな毎日が続いたある日、仕入れ先の問屋さんであたしはどーしても気になるものが出てきてしまう。

 それは店員さんが店先を掃除するのに使ってたほうき。その箒の持ち手部分には傷がついてて、どう見ても商品的な価値はゼロ。なんなら傷の分マイナス。

 それでもあたしが気になるって言うから、購入出来ないか交渉してくれた。…まあ、誰から見てもボロボロだったからタダ同然で譲ってもらえたんだけど。

 一応気にはなるわけだから、隊長は箒のお値段にしては多めの銀を支払った。

 店長も店員も深くお辞儀してくれる程度にはね。


 その日の夜は野営しながら火を囲んで盛り上がったよ。

 実は聖遺物の一部なんじゃないか、いやいや箒の柄の部分がかつて英雄の使っていた武器なんだ、いーや伝説の建築物に使われてた木材から作られたんだ!とかね。

 実際、その木材に使われている気は、とある東の国にのみ生えている種類のものじゃないかって隊長は言ってた。

 何の木かって?さすがにそこまでは覚えてるわけないっしょ!

 でも、誰から見ても……なんなら気になるって言い出したあたしからしてもただの箒だったから、全員不思議な気持ちになってた。

 それから箒のことはすっかり忘れて、旅を続けたんだ。

 砂漠を旅して色んな集落や街で商売して、少し大きな街にたどり着いた。

 運よくその町一番の権力者と交渉することが出来てね。

 その権力者の部屋は……言っちゃ悪いけどセンス最悪だった。

 とにかく値段の高いものをそろえておけばいいだろうみたいな部屋。成金趣味ってやつかな。

 我々キャラバンが謁見いただいた時も、開口一番

「扱っているもののなかで一番値段の高いものを出せ」

 だったよ。美的センスもなければ愛想もない。

 それでも承認目線からすると上客だからね。

 その時は…なんだったかな。

 アメジストで出来た茶器…ティーポットとティーカップみたいなセットだったかな。

 見た目も綺麗なんだけど、権力者は眉毛ひとつもピクリと動かさない。

 感想も何もないままお買い上げしようって話がまとまりかけたその時だった。

 たまたまティーセットと一緒にラクダに載せてた、例のボロ箒がポトリと落ちる。

 その瞬間、驚くべきことが起こったんだ。

 途端に権力者は目の色を変えてその箒に飛びついたんだよ。

 あたしらだけじゃなくて、使用人達もびっくりしてた。そんな姿見せたことなかったんだろうね。

 よくよく聞くとその箒、実は権力者のお母さんが使ってたものなんだって。

 権力者がまだ貧乏で子供だった頃、その箒の原材料になる木の原産地に住んでいた。

 そして、その箒の柄についた傷は、借金取りが子供だった権力者を殴ろうとした時、お母さんが戦って追い出してくれた時の傷なんだって。

 この箒をどこで手に入れた!?って血相変えて言うもんだから、箒を譲ってくれた問屋さんの名前を教えて……それからは、まあ、普通に再会できたっぽいよ。

 店主がお父さんで、店員さんがママ。

 まあ、あの問屋さんなら悪趣味な部屋もセンス良く整えてくれたでしょうね。

 何に価値があるかは見る人次第…なんてね。

 あたしはご褒美に甘いデザートたくさん食べさせてもらったから、それで満足だったな。

 砂漠のデザートで甘いデザートを食べる話!なーんて!


 ……ごめん。急に調子悪くなったから帰るわ。

 回復したら、また次の夜に会いましょ。じゃね。

 さっき言ったことは忘れてね。

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