裏山×夕日×みかん
あれ、タオちゃんからだ。二人で通話するの久々かも。
はい、こんばんは。
どうしたの?こんな時間まで作業してた感じ?
……うんうん、そっか。お疲れ様。
ん?あたし?
今何も食べてないよ、たった今消えてなくなったもん、みかん味の飴。
そーだねー。タオちゃんって苗字こそ「『桃』乃亥」だけど、たまにみかん思い出すんだよね。タオちゃんも、そんなことない?
……あー、やっぱり。あるよね。
そっか。思い出したから連絡くれたんだね、ありがとう。
あたし実は、蜜柑農家の子供やってた時代あるんだけどね。うん、前の前のずっと前の前世くらい。
その時住んでた家の裏山、全部みかん畑だったの。
それでね、美味しいみかんが穫れる土壌の条件ってのがあってね。
畑の西側が海になってること…らしいよ。当時のじーちゃんから聞いただけだから迷信かもしんないけど。
その海に、たぶんタオちゃんが住んでたの。
当時も誰も信じてくれなかったんだけどさ、その海、人魚がいたの。
昼下がり、売り物に出来ない蜜柑を家に持って帰る最中、見つけたの。
あたしが見た人魚は、岩場に打ち上げられてて顔が真っ赤だった。
苦しそうだった。
で、最初は上半身しか見えなかったから自分と同じ人間の子供かなって思ったんだけど、助けてみたら下半身がイルカみたいな魚になってたのね。
だからさあ、海から出しちゃいけないと思って慌てて下半身だけ海水に浸かるようにしたんだよね。
でも、苦しくて何も喋れないって感じだったし、恐る恐る顔を触ったら…熱いの。
熱出してる、って思った。
助けなきゃって慌てた。
で、その当時、あたしが風邪引いた時に蜜柑ジュース作ってもらってたから、あたしも蜜柑の皮剥いてその人魚に少しずつ食べさせてみたんだ。見様見真似ってやつね。
今考えるとあたし、だいぶ肝座ってたよねー。
人魚の様子?素直にあたしが渡した蜜柑食べてくれたよ、全部。
そ。ほんとのほんとに全部。
まるっと。
身だけじゃなくて皮も食べてた。
剥いた意味なかったじゃん!ってちょっと思っちゃったのは、今だから言える秘密ね。
でも、自分から蜜柑を食べはじめるぐらいには元気になったの。ホッとしたよ。まあ、熱じゃなくてお腹空いてただけかもしれないけど……
その頃には結構長い時間が経ってて、空がオレンジ色になってた。
そろそろ帰らなきゃって言って、でも人魚がまた苦しくなったら可哀想だしなって思って、持ってた袋ごと蜜柑あげたんだ。
言葉は通じなかったんだけど、ものすごくキャッキャッて笑ってくれて、喜んでたよ。なんかあたしも誇らしくなったな。いいことできたなって。
それから、帰る人魚が見えなくなるまで、ずっと海の方を見てたんだ。
夕日に照らされた人魚の髪が、桜貝みたいな色できらきらしててね、目が離せないぐらい綺麗だったんだよ。
あの人魚、タオちゃんだったんじゃないかな。
アンデルセンの本の中だったら、魂を持たない人魚姫は風の精霊になって善行を積んで、それからやっと憧れの人間になったんだっけ。
なるほど、だからタオちゃんの方から風の音がよく響いて……うん?
ええと、マザーボードが熱くて?ファンがフル回転してる?
……動画書き出し中!?なのに通信繋げたの!?
もー、待ち時間が退屈なのはわかるけどさー。
タオちゃんはPCが本体みたいなところあるんだから無茶しないでよ。
また書き出し終わったら話そ。じゃ、またね!
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桃乃亥タオちゃん(Vtuber)からのキーワードで思い出した記憶です。
チャンネルはこちら。
https://www.youtube.com/c/taomomonoi
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